佐藤二朗×Novel Core対談 映画『名無し』が描いた諦念と“名前をつける”ことの業

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fugakura

「名前をつける」行為は、カルマを背負うこと

佐藤二朗 それと僕が歌詞を見て関心したのが、Novel Coreさんが「名づけ」という行為にすごく着目してくださったこと

この映画の主人公は、名前が無いという設定なんだよね。だから何故、歌詞を書く際に「名づけ」にこだわったのか、本人にぜひ聞きたかった。

Novel Core 「名づけ」というのは、記号的な意味合い以上に、そのものを大切にする、忘れないようにしようっていう感覚が絶対にあると思うんです。それと同時に、その存在をいつか失ってしまうかもしれない未来を引き受ける覚悟も必要になってくる。

佐藤二朗 名前をつけるって、ある種のカルマを背負う行為というか、責任が生じるものだからね。

佐々木蔵之介さん演じる刑事が異常な執念で山田太郎を追う

Novel Core 生命には終わりがあるものだとわかっているにもかかわらず、それでも大切なものを増やして、愛してしまうのは何故かを考えたんです。

生きていく中で誰しもが絶対に抱えるこの矛盾を、まるごと抱きしめてあげられるような曲にすることで、『名無し』という作品の真ん中に寄り添えるんじゃないか、と思ったんです。

佐藤二朗 素晴らしい! 今のお話、全部僕の意見にしてください(笑)。

いやぁ……俺が一人で考えていた脚本が、素晴らしい俳優とスタッフのおかげで形になって、Novel Coreさんが「名前」という素晴らしい楽曲をつくってくれて、生きているといいことがあるね(笑)。

しかし、そうか。確かに名前というのは不思議なものだよね。実は、主人公の能力にはルールがあって、ただ右手で触っても効果を発揮しないんです。その対象物の名前を知ってはじめて、死に至らしめることができるという設定なんです。

山田太郎の“名付け親”となる警察官を演じた丸山隆平さん

──名前というテーマは、日常にあふれたものでありながら、呪術的でもありますよね。また『名無し』というタイトルと作品を見た時に、匿名掲示板の2ちゃんねるが流行した時のことを思い出しました。匿名であるが故に、気軽に誹謗中傷を書き込んで、人を傷つけることができてしまう。名づけが責任を産むのなら、名前が無い存在には責任が生じず、結果的に他者への暴力へと繋がってしまうのかもしれません。

佐藤二朗 たしかに。『名無し』というのは僕自身がつけたタイトルですけど、今の話は全然思ってもみなかった。それも僕の意見にしてしまおうかな(笑)。

この映画は、本当にいろんな捉え方が可能だと思いますね。たとえばさっき行った取材で、タケイさんという記者の方が「本作はSNS社会を現しているのではないか」とおっしゃっていたんですよ。

右手で透明な凶器を持つ主人公は、要するにスマホを常に手にもって、SNSの配信で辺り構わず人を傷つける、現代人を描いているのではないかと。なるほど、面白い視点だなと思った。自分の意見にしていいか? と聞いたら、苦笑しながら「いいですよ」ってタケイさんは言ってくれたけど(笑)。

Novel Coreさんの「名づけ」の話もそうだけど、観た人それぞれが自分なりに解釈してくれて、作者としても色々な発見がありますね。

二子玉川の公園で思いついた凄惨なシーン

──ちなみに佐藤さんは『名無し』の脚本を、いつ頃から構想されていたのでしょうか?

佐藤二朗 今から5年前かな。誰に頼まれたわけでもなく、ウジウジと一人で物語を考えはじめたのが最初ですね。その時期に、息子と妻と3人で二子玉川へ遊びに出かけたことがあって。

二人はラーメンを食いに行ったんだけど、僕はダイエット中で食べられなかった。二人を待つ間、散歩しながら公園を眺めていた時、映画冒頭のシーンをふと思いついたんです。

映画『名無し』のワンシーン

──本作の主人公・山田太郎が見えない凶器を使って、白昼堂々ファミレスの客を無差別に殺していくシーンですよね。二子玉川の平和な風景を見ながら、本作の特殊性を象徴する凄惨な殺人シーンが考えられていたのは驚きです。

佐藤二朗 ただ、脚本を書き上げたものの、過激なテーマと特殊な世界観ゆえに一度はお蔵入りになりかけて……。それから漫画版の『名無し』をつくったうえで、漫画原作の映画化という形で、なんとか完成までこぎつけることができました。

佐藤二朗さんが原作を担当した漫画版『名無し』

──佐藤さんご自身も“特殊な映画”という認識をされていますが、本作でタッグを組んでいる城定秀夫監督は『名無し』という作品をどのように受け取っていらっしゃったのでしょうか?

佐藤二朗 僕、完成した映画を試写で初めて見た直後、城定さんに「素晴らしい!ありがとうございます!」と握手したんですが、その時、彼はこう言ったんです。「ちょっと他にない映画ですね」と。

あらゆる映画を知る城定監督が“類を見ない”と表現するのであれば、『名無し』は相当変わっている作品なのだな、と思いましたね。

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作品情報

映画『名無し』

公開
5月22日(金)全国ロードショー 82分 PG-12
原作・脚本
佐藤二朗
出演
佐藤二朗 / 丸山隆平 MEGUMI / 佐々木蔵之介
監督・共同脚本
城定秀夫
主題歌
Novel Core「名前」
配給
キノフィルムズ

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