「バーチャルシンガー」にとって、そのバーチャル性は最大の武器であると同時に、向き合わなければならない宿命のようなものなのだと思う。
なぜあえてバーチャルの姿を選んだのか、そしてバーチャルだから何なのか──いち表現者として、その選択の意味が問われる。
ともすれば、KAMITSUBAKI STUDIO所属の花譜さんとホロライブ所属の星街すいせいさん初のコラボ曲「一世風靡」は、バーチャルシンガーを代表する2人の歌姫が、その至上命題に答えるものだった。
【画像】花譜×星街すいせい「一世風靡」MV場面カット2.5次元に生きるバーチャルシンガーのアンビバレンスな実存
花譜さんのアーティストコラボ企画「組曲」シリーズ2の第4弾の楽曲「一世風靡」。
作詞/作曲を手がけたのは、相対性理論の元メンバー・真部脩一さん、編曲を担当したのはHIDEYA KOJIMAさん。テーマは、“バーチャルシンガー”そのもの。
注目したいのは、サビのフレーズ。
わたしはわたしじゃない
さりとて誰かじゃない
そこにいて ここにいない
森羅万象を超えてみせるわ
あなたは形のないものを欲しがるけど
気付けば虜じゃない?
ねえ いま、届いてる?
<わたしはわたしじゃない/さりとて誰かじゃない/そこにいて ここにいない>と、サビの冒頭では、アバターの姿をとり、2次元という虚構(フィクション)と3次元という現実(リアル)の間に生きる、バーチャルシンガーのアンビバレンスな実存が映し出される。
映像制作スタジオ・Eallin Japan所属の川サキ(Kenji Kawasaki)さんがディレクターをつとめたMVにも、印象的なシーンがある。
「一世風靡」のMVは、花譜さんと星街すいせいさんが、東京の渋谷〜目黒近辺に現れダンスを踊るという内容。しかし、ラスサビ前の間奏に入ると、突如2人が互いの顔をした仮面を装着した姿で登場。そして、ゆっくりと仮面を取り本来の姿を披露するのだ。
花譜さんや星街すいせいさん自身、いわば魂は代替不可能なものでも、そのアバター自体は、仮面のように代替可能なものである──さらに言えば、バーチャルシンガーにとってアバターとは仮面そのものであることが示唆される。
バーチャルだからこそ届きうる、“形のないもの”
しかし、そんなバーチャルシンガーだからこそ、<神出鬼没>に現れ<森羅万象を超え>うると、「一世風靡」では打ち出されている。
バーチャルな存在だからこそ、むしろリアルアーティスト以上に、現実に囚われず虚構の力を借りて、私たちが欲しがる<想い>という<形のないもの>を、歌を通して届けられる。
花譜さんと星街すいせいさんという2人のシンガーとしての圧倒的な実力、言葉遊びを交えた真部脩一さんのソングライティング、そして「音楽」という領域から、VTuber/バーチャルシンガーというジャンルを、シーンの外に広げ越境させてきた彼女たちの活躍が、そのメッセージ性を確固たるものにしている。
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楽曲情報
花譜×星街すいせい「一世風靡」
- リリース
- 2024年11月27日(水)配信
- 作詞・作曲
- 真部脩一
- 編曲
- HIDEYA KOJIMA
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