2024年8月、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに掲げる東大発の知識集団・QuizKnockが、国内最大の発電会社であるJERAとともに開校したのが、中高生を対象としたエネルギーの未来について学ぶ「ゼロエミッションスクール」だ。
特設サイトやコラボ動画を公開しており、同プロジェクトの一環として、8月〜11月にかけて「QuizKnockと学ぶワークショップ〜地球温暖化とエネルギー問題を通じて、知って、感じて、考える!〜」と題した連続ワークショップが開催された。
この企画では、31人の中高生が9つのチームとなり、全3回にわたる講演やディスカッション、オンラインワークショップ、そしてチームごとに最終プレゼンテーションを行った。
8月に開催された第1回・第2回では「地球温暖化の現状と原因について学ぶ」と「地球温暖化対策について学び、考える」をテーマとし、有識者による講演のほか、教育環境デザイン研究所CoREFが研究・開発した協調学習メソッド「知識構成型ジグソー法」を用いたディスカッションなどを展開。「知識構成型ジグソー法」は所要時間の中で参加メンバー一人ひとりが1領域について専門的に学んだ後、各領域の知見を集めて議論を行う方式だ。
そして、9月〜10月にはオンラインでのワークショップを経た上で、参加した9グループは「自分の周りの人に『地球温暖化』を身近に感じてもらうためには」というテーマのもと、プログラムの最後となるプレゼンテーションに挑んだ。
取材・執筆:須賀原みち 編集:新見直
目次
プレゼンに向け、伊沢拓司が激励「徹底して他人の立場に立って」
最終プレゼンテーションに集まった参加者たちを前に、冒頭、QuizKnockの田村正資さん、とむさんが登壇し、プレゼンから審査までの流れについての説明がなされた。プレゼンの審査員を務めるのは、QuizKnockを率いる伊沢拓司さん、株式会社JERA執行役員・藤家美奈子さん、教育環境デザイン研究所CoREF理事・白水始さんだ。
伊沢拓司さんは開会の挨拶として、参加者を鼓舞する。
「今日のテーマは『伝える』ということで、私も『伝える』ことの試行回数を仕事の中でたくさん積んできました。Aというつもりで言ったことがBという見出しになって出てくることなんて、今の世の中たくさんあります。中には悪意なく誤解されることもたくさんあって、それこそが伝えることの難しさの本質でもあるでしょう。
努力して考えたつもりでも上手く伝わるとは限らない。徹底して他人の立場に立ち、どう見えるか、どう伝わるか、どう行動させるかを考えることが大事なポイントになってきます」(伊沢拓司さん)
「地球温暖化を身近に」 柔軟な発想が飛び出したプレゼンの数々
いざプレゼンが始まると、中高生たちは「エネルギーに関する検定制度」や、LINEスタンプや電車広告を活用した「PR施策」、「小学校での古着交換会」といった案を打ち出し、プレゼン後には審査員や参加者からの質疑が飛び交った。
休憩時間には発表を終えたチームのもとを訪れ、プレゼンの感想をフランクに聞いて回る伊沢拓司さんの姿も。こうして、およそ3時間弱におよぶ全9チームの発表が終了すると、各チームは自分たちの発表を振り返り、安堵と緊張の色を浮かばせて講評と審査結果を待っていた。
そして最終的に、観客を巻き込んで行う「体験型演劇」がJERA賞を、「身近な行動によるエネルギー消費のグラフ化」が伊沢賞を、「小学生向けの絵本」が優秀賞を受賞。
審査員からは「優秀賞の絵本は、最後のページに読者が自分で書き込むというオリジナルの展開があったのが素晴らしかった」(CoREF理事・白水さん)や「発表だけでなく、その後のQ&Aや問いに対する答えを出そうとする姿が良かった。JERAは使命感を持って地球温暖化対策に取り組んでいて、(今日の発表でJERAとのコラボの可能性が挙げられたように)今後も私たちに期待するものも聞いていきたい」(JERA執行役員・藤家さん)といったコメントが寄せられた。
最後に、記念品となる修了状の授与から参加者全員での集合写真撮影が行われ、『QuizKnockと学ぶワークショップ〜地球温暖化とエネルギー問題を通じて、知って、感じて、考える!〜』は盛況のうちに幕を閉じた。
「学びと楽しいが結びつかないと、社会はイージーな方へと動いてく」
ワークショップの閉会後、伊沢拓司さんと本プロジェクト・デザインの中心を担った田村正資さんに話を聞いた。
──今回のワークショップでは、伊沢さんが冒頭で言及していたように「伝える」ことを重視されていました。その意図とはどのようなものでしょうか?
田村正資 このプロジェクトはJERAさんと一緒に、エネルギーや環境問題など、未来をつくっていくためのリテラシーを広めていこうというものです。中高生向けにワークショップをやるにあたって、まずは参加した中高生自身が今後、僕らQuizKnockのようにいろんな人へと学びを伝えていく人になってほしいと思いました。
地球温暖化問題は非常に大きな課題であり、中高生がいきなり考えてすぐに解決策が思いつくようなものではありません。しかし、まずはしっかりとした知識や検証できるメソッドを持って、大きな問題を自分たちの視点にまで落とし込んだ上でアプローチを言語化することにチャレンジしてほしかった。大企業の取り組み以外にも自分たちが出来ることにまで分解し、提言としてまとめてもらうことを目指したんです。
伊沢拓司 QuizKnockは「楽しいから始まる学び」を掲げていて、つまり「楽しい」という手段でもって「学び」へと導きます。今日の講評でも「『伝える』は手段であって目的ではない」と言ったように、我々のゴールもまた「楽しい」でなく「学び」なんです。
最近はSNSなどを見ると、短い文章で相手をやり込めれば勝ちなど、「楽しい」とか「伝える」ことを目的化したようなコンテンツが増えていると感じます。伝えたいメッセージがあるように見せていて、その実、誠実に伝わってないということがすごく多い。また、公的機関でのサイエンスコミュニケーションに関する議論などでは、「正しく伝えること」と「楽しさ」の両立を早々に諦めてしまうケースも数多く見てきました。
Netflixのドラマが冒頭から人目を引き、J-POPのイントロが短くなる一方で、「学び」というのは他のエンタメに比べて前フリが長かったり、基本的な情報を知らないとなかなか楽しめなかったりします。そもそも学びは苦痛を伴って前に進むことも多いので、その辛い時間、楽しくないイントロ部分で伴走できるような、丁寧な楽しさを伴う情報伝達が重要になるはずです。あくまでゴールは正しく伝わり、受け取った本人が考えた末で行動変容を生むことですから、そこは我々も粘りたいですし、参加者にも求めたところです。そうでなければ、社会はどんどんイージーで軽い方へと動いてしまい、本当に伝わるべきことが伝わらない状況が加速してしまいます。
僕たちQuizKnockはあえてスローに、だけども楽しくしっかりと伴走することで、長いイントロを抜けた先にある学びを伝えていく、もしくは本人たちが学ぶきっかけをつくっていく。これが僕たちのつくっていくエンターテインメントだと考えています。
田村正資 情報や知識をエンタメ形式で伝える時に「クイズ」という形式は非常に便利です。しかし、本プロジェクトの裏テーマとして、取り組みを通じて“クイズを超える何か”が出てきたら面白いと考えていました。
プレゼンの中では「体験型演劇」という面白い組み合わせも出てきましたが、クイズでは届かない人にどうやって届けていくのか、というのは教育という観点からも非常に重要です。「楽しい」から始まって知識を伝達する手法については、今後もこうした試みとともに考えていきたいテーマでもあります。
──社会がファストな娯楽を求める中で、長い時間が必要となる「学び」の入口としてクイズという手法は「学び」の中では"速く"もあるため、広い支持を集めているようにも思えます。
伊沢拓司 QuizKnockの良いところって、クイズに"前"と"後"を可視化したところなんですよ。みんなクイズを評価する時にファストさを注目しがちですが、それはクイズ単体で見ているからです。クイズという体験の前にはいろいろな出会いや学び、知らないことがあって、クイズをきっかけにして新たな学びや体験へとつながっていきます。クイズという営みへの視野を一問単位ではなく、出題するシチュエーションにまで広げてあげれば、クイズのファストなイメージはもう少し和らぐと思いますし、QuizKnockはそれを提供してるつもりです。
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