現代社会では幸せになることが許されない?
パンデミックに見舞われ、戦争のニュースが飛び交い、景気が回復する兆しも見えない──未来に希望が持てず、閉塞感に苛まれる現代。なにかに挑戦しても失敗すれば蔑まれ、華やかに成功したらしたで妬み嫉みを買う。これが、日々繰り返されている世界の日常だ。
まだ20代半ばの筆者にも「この世界では、幸せになろうとすることさえ許されてないのではないか」とすら、ふと感じてしまうことがある。
自分の欲望を叶えようとすると、必ずどこかで他人と衝突してしまうだろう。誰もが誰かにとっての悪役になってしまうのは避けられない。それこそ、この世の普遍的な理だ。
その競争の果てに少数の勝者と多数の敗者が生まれ、その差が絶対的になっていることを知っている私たちは、幸福を追い求めようとすることにさえ、どこかで罪悪感を抱かざるを得ない。
だからこそ、「どうしたら人は自分の幸福を追求できるのか」を描いている『ジョジョの奇妙な冒険』第7部以降が、胸に強く響く。
主人公よりも正論を掲げるラスボス──第7部からの転換
第7部「スティール・ボール・ラン」の主人公のひとり、ジョニィ・ジョースターは、不随となった下半身を再び動かすため、ツェペリ家の回転の技術を身につけ、奇跡を起こす聖人の遺体を集めるために奮闘する。『ジョジョの奇妙な冒険』の主人公にしては珍しく、利己的な目的で突き動かされるキャラクターだ。対する宿敵のファニー・ヴァレンタイン大統領は、聖人の遺体を他国に渡すまいと、利他的な愛国心のために遺体を集めている。
文庫版の前書きでの荒木飛呂彦さんの言葉を借りれば、大統領はジョニィたちよりも「正論」を掲げるキャラクターとして描かれている。
他人のために犠牲になる、その「黄金の精神」が受け継がれていく物語をこれまでの『ジョジョの奇妙な冒険』は描いてきた。そのさらに先、絶対悪のいない、お互いの正義が衝突する世界で、自分のために生きるにはどうしたらいいのかを、第7部以降は追求している。
現代だからこそ響く「The JOJOLands」の“成り上がり”の物語
今回連載開始された第9部「The JOJOLands」のテーマも、“成り上がり”だと言えるだろう。主人公であるジョディオ・ジョースターは、この世の普遍的な理「仕組み(メカニズム)」の頂点を目指し、「大富豪になる」という野望を掲げている。幸せになることが許されない現代だからこそ、この「成り上がり」──奇しくも第1部の悪役・ディオにも通ずるこのテーマは、私たちの胸に最も響く。
荒木飛呂彦さんは第9部「The JOJOLands」の物語を通して、現代に生きる私たちにどんな勇気を与えてくれるのだろうか。
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