まふまふ『栞』MVに賭けたインディーアニメ作家たち 初映画主題歌の裏側

大アニメMVブーム時代、個人アニメーターはどんなキャリアを描く?

──ボーカロイドや「歌ってみた」などの同人文化では、MVにアニメが選ばれるケースもよく見られました。一方、ここ数年他のジャンルにおいても、アニメMVが急速に増えています。

土海 最近はイラスト制作ソフト・CLIP STUDIO PAINTが広まってきたこともあって、個人が簡単にアニメをつくれる時代になりました。そうしたツールの存在と、誰でも発信できるSNSがマッチして、個人制作のアニメが広まりやすい時代になったのかなと思います。私自身も個人制作から生まれる、大量生産では成し得ない個人の思いの塊みたいな、アニメーションが好きなんです。

史耕 映像をつくる側にも当然生活があって、アーティスト側がそれを支えられるようになったこともあると思います。

これまで個人のMV制作というと、プロの人が仕事外に少額でやったり、趣味や無償でやったりする世界でした。しかし、今はインターネット発のアーティストが注目されるようになって、大きなお金を生んで、僕らにも本業にできるくらいのお金が回ってきているのかなと。もちろんその発展には、映像をつくる側の貢献もあったと思います。
史耕 それこそ、浅井さんは20年以上実写MVの業界にいて、大御所のアーティストを担当されてきていますが、感覚としていかがですか?

浅井 「音楽って実写でなくても表現できるよね」という意識が、強くなっているのは感じています。

MV制作といえば、昔は「スタジオを押さえてきれいなセットを組んで、3カメから5カメでアングルとって……」というところで予算を使う世界でした。大規模な制作だと、関わる人数も60人くらいになってくる。

一方、昨今増えているリリックビデオは、プロデューサーやアーティスト、そして映像担当がいればできてしまう。それぐらいのレベルまで、音楽に求められる映像表現が落とし込めてきたということだと思います。

今の若い人たちの間では、モーショングラフィックスがどんどん人気を伸ばしているんですよね。After EffectsなどAdobeのソフトも普及している。特にアカデミック版は安価なので、中高生が独学で作品をつくって、インターネットで公開して……その流れの中で、モンスター級のクリエイターも出てきています。

──商業アニメと比較して、インディーアニメの世界はまだ発展途上です。ロールモデルも少ない中、若いクリエイターたちはどんなキャリアを描いていくのでしょうか?

土海 最近、アニメ作家を名乗る方が増えてきたなと感じています。私はこれまで、アニメ作家として1人でお金を得る方法は、講師業しかないと思っていました。でも最近はこむぎこ2000(※)さんのように、アニメ作家がアーティストとして、自分のファンをつくっていくアプローチも出てきています。

※若手アニメーション作家の代表的存在。Twitterで「#indie_anime」のタグとアカウントを創設し、自主制作アニメの世界を盛り上げている。 土海 私自身、これまで1人でアニメをつくってきて、限界を感じていた部分もありました。でも今回監督というポジションをいただけて、多くの人を巻き込みながら一本の独立したエンタメ作品がつくれたことで、この先につながるような手応えを感じました。

史耕 僕は今回、プロデューサーという立場から、このMVが生み出す別の意味みたいなものも考えていて……。

僕自身もまだキャリアは短いですし、土海さんも今回のように規模の大きい作品を手掛けた経験はなかったんです。さらに今回参加いただいたスタッフの中にも、高校生の方、海外の方、副業の方、いろんな方がいました。

つまり、どこに住んでいても何歳でも、チャレンジできる場はあるんだなと思って。プロフェッショナルな人たちと連携しながら素晴らしい作品として昇華していけることに、希望も感じました。

まふまふさんのファンには中高生の方も多くて、何か創作したいけど、情熱の注ぎ所がわからない人も多いと思うんです。それ以外にも、何かをつくりたいアニメーターさんやMVをつくりたい人とか、絵が上手いけどそれを職業にしてない人、そういう人たちに対して「栞」のMVが何か可能性を提示できていたらいいなと思います。

僕が言うのもおこがましいんですけどね。もし可能性を見せることができていたなら、今回の座組みで完成させたことに、作品として以上に意味があるんじゃないかと思っています。 ──ありがとうございます。最後に「栞」のMVについて、「特にここに注目して見てほしい」というポイントがあればお願いします。

土海 まふまふさんがデザインされた「まふてる」というてるてる坊主を各カットに散りばめたり、背景の看板にまふまふさんのこれまでの曲名を入れたりと、細かい要素をいろいろ盛り込んでいます。一時停止して見ないとわからないものもあるんですけど、そういうところも楽しんでいただけたらと思います。

浅井 映画の内容を意識してMVのストーリーもつくっているので、映画を観た後にもう一度MVを観ていただきたいですね。歌詞でも「目を開けば気づけた 今日が今日でないこと」「君があの日失くした青い空へ」といった、映画に通ずるフレーズがあります。雨が降っているシーンなのに青年が濡れていないなど、よく見ると「おや?」と感じるいろんな仕掛けがあります。それらも踏まえると、また印象も変わってくると思います。

史耕 インディーアニメにおける個々人のクリエイティブや熱量と、テレビアニメのリッチな動きの、良い所取りをするような制作でした。ファンタジックな表現を入れつつも、全体的にわかりやすさにはこだわっています。もちろん解釈が難しい点もあると思うんですけど、誰にとってもエモーショナルなものを目指したので、観た人それぞれに感じていただけるものがあれば嬉しいです。

【画像】秘蔵! まふまふ「栞」MVメイキング資料集(25枚)

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浅井正明

脚本・構成・クリエイティブディレクター

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