『エモクロアTRPG』が目指すネクストステージ 商業利用・二次創作に開かれた文化を

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TRPGはまだ既存のパイを取り合う段階じゃない

──そもそも『エモクロアTRPG』をつくろうと思った理由はなんだったのでしょうか?

ぱぱびっぷ 声をかけたのは僕からだったんですが、お互い似たような問題意識を持っていて、根本的には「TRPGはめちゃくちゃ楽しいのに思っているより広がらない」と感じたからです。

TRPGはすごく楽しいけれど、ルールを覚えなければいけないし、そもそもそのルールは本を買って読み込まなければ知ることができない。新しく始めようという人にとってはハードルになりますし、裾野を広げるという点ではできることがあると思っていました。

(声をかけた)去年の2月ぐらいにはディズムむつー高生紳士といった、配信でTRPGをする人たちと僕やまだら牛も含めた横のつながりができていたので、みんなでTRPGの裾野を広げる活動をやりたいと思っていたんです。裾野が広がれば山の頂上も高くなりますから。
【宇宙人狼 Among Us】 ディズムのついでにぱぱびっぷも教わる配信
ぱぱびっぷ そこで、まだら牛に声をかけたらすごく共感してもらえたんで……。

まだら牛 それがバレンタイン(笑)。 ──まだら牛さんとしてはお誘いがあったときにどう思われましたか?

まだら牛 TRPGの裾野を広げたいという思いは一緒でした。「『エモクロアTRPG』で名をあげたい」とか「既存のTRPGシステムに勝ちたい」みたいな気持ちは全然なくて。ただただTRPGが好きだから、それを広めるための仕組みとか場をつくりたかった

だから、ユーザーも『エモクロアTRPG』でつくったキャラクターに愛着が湧いたら、他のシステムとかでも使ってほしいんですよ。

『エモクロアTRPG』では「怪異」に影響を受けすぎるとそのキャラクターが身体を乗っ取られてしまったり、自身が「怪異」になってしまうことがあります。そのキャラクターを他のシステムで、設定を引き継いでい能力者のキャラとして演じたりとか、敵として登場させたりしてもいい。

TRPGという遊びの面白さを体感してもらえれば興味を持つ人は増えると思うので、TRPG全体が盛り上がったらいいなと思っています。

ぱぱびっぷ 他のシステムに勝ちたいとかは2人とも全然ないんです。

まだら牛 そもそも、TRPGっていう遊び自体がポテンシャルに比べてまだまだ広がっていない。既存のパイを取り合う段階じゃないから、プレイヤーを広げる方に行った方が面白いはずだなと

──ルールブックがWebで無料公開されているのも裾野を広げていると思います。近年だと、『新クトゥルフ神話TRPG』『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のように最低限遊べる範囲を無料公開する流れはありますが、完全無料は画期的だと思います。 まだら牛 以前にも完全無料のルールブックはありましたし、僕らは別に新しいことだとは思っていないんですけどね。

ぱぱびっぷ 僕らも『新クトゥルフ神話TRPG』とか普通に遊びますからね。『エモクロアTRPG』だけに人を集めようとは思ってないんです。

ただ、僕らの配信や動画を見てTRPGを始めたいという人は多いはずなんですよ。そういう風に思っている人が、簡単に始められるようにしたかった。

──『エモクロアTRPG』はTRPGの間口を広げるのに特化していると。そこでどうやってハードルを下げようとしているのか、もう少しお聞きしてもいいですか?

ぱぱびっぷ まず、ネットを使ってTRPGを遊ぶという遊び方(オンラインセッション)が主流になってきているにも関わらず、今までのTRPGはオフラインでのセッションを想定したものが中心で、ネット上での遊びやすさを担保することが難しかったんですよね。

──そうですね。

ぱぱびっぷ オンラインセッションが流行しても、それをサポートするツールは「どどんとふ」などユーザー発のものが中心だった。
クトゥルフ神話TRPG Life goes on ~人生は続く~ 1 [未編集版]
ぱぱびっぷ 公式でツールを提供している事例もありましたけど、少なかった。公式側がオンラインに積極的じゃないことが結果的にオンラインセッションの敷居を高くしているように感じていたんです。まず、そこの敷居を下げたかった。

──TRPGは自由な分、プログラムに頼らず自分で様々なデータや数値を参照する必要があります。紙の書籍でいちいちページをめくって該当箇所を探すのは手間ですし、初心者へのハードルになっているというのも非常によくわかります。個人的にも、お金は払うから公式でExcelかテキストデータくらい用意してくれないかと常々思っていました。

ぱぱびっぷ オンラインでTRPGを遊ぶ上での「こうなればいいのに」があまり成されていないんですよね。

まだら牛 出版社からもオンラインへの対応を意識した動きが出てきてはいますね。ただ、出版社という企業と僕たちのような個人としての動き方だと、関わっている人の数が違ったり、しがらみもあったりするんだと思います。

言ってしまえば僕らは趣味だからできている側面もあると思います。

僕らは別にまだ成功してないですけど、こうやったら売れるんじゃないかというのを試している部分もあります。

ぱぱびっぷ まずはビジネス的に難しくても、もっと単純に「こうなればいいな」と思っていた仕組みを、自分たちでつくりたかったんですよね。

『エモクロアTRPG』を使ってどう儲けるのか

──『エモクロアTRPG』を使っての収益化は考えられていないんですか?

ぱぱびっぷ 本は出すと思います。

ルールブックはWebで全部公開されていますが、本で欲しいっていう方もいると思うので、コレクターアイテムみたいな感じにしたい。

あとは、「怪異事典」のイラストを増量した豪華なやつとかもいいですよね。そこまで儲からなくても、システムが普及すれば後追いでいろいろ儲かる話は来ると思うので(笑)。

でも、それがあれば元は取れるのかな。

まだら牛 取れるよね。

ぱぱびっぷ 直接収益につながるわけじゃないですが、僕たちはムーブメントをつくって、業界にインパクトを与えて、TRPGの外側にいる人呼んできたり、シナリオを書いたことのない人にシナリオを書き始めたりしてほしかった

『エモクロアTRPG』をリリースしたことでシナリオを新たに描き始めた人は僕らの見えている範囲でもかなりいるので、当初やりたかったことのうち9割ぐらい達成している。 ぱぱびっぷ 多くの人に『エモクロアTRPG』に参加してもらえれば、お金はあとから回収できると思っています。

──確かに『エモクロアTRPG』はシナリオ制作も活発ですね。

まだら牛 『エモクロアTRPG』が活発になって、これより大きなビジネスとか、より面白い企画をしたい人がどれだけ出てくるかにかかっていると思う。

それとは別の収益化の手段として、僕もぱぱびっぷもダイスタス・チームとは別に、個々の活動で勝手に『エモクロアTRPG』を使うんですよね。シナリオ制作や配信・販売も、もちろんやります。

僕はやっていないですが、配信をしている人なら配信が面白ければメンバーシップに入る人が増えて収益が得られるかもしれない。配信時代ならそういった今までとは違うキャッシュポイントが生まれてくるし、新しい流れをTRPG配信がつくれるかもしれない

ぱぱびっぷ 僕は『エモクロアTRPG』やダイスタス・チームがやっていることを他の人にも真似してもらいたいので、収益化の手段が配信だけになると、他の人には真似できない可能性があるから、ちょっと迷う部分もあります。

そうじゃなくて、こうなってこうなればここから収益が生まれるとか、こういう仕掛けでこういう流れが起きるんだ、みたいな事例を出していきたいですね。

まだら牛 そこは『エモクロアTRPG』なりダイスタス・チームの動きとして、今後見せていきたいですね。

TRPGの面白さは二次創作が決める

──著作権的な面では「ダイスタス・コモンズ」というシナリオ作者が配信などでの2次利用や改変に対して意思表示できる制度をつくられていますよね。

「ダイスタス・コモンズ」/画像は「『エモクロアTRPG』 新作お披露目発表会」のキャプチャ

まだら牛 TRPGの面白さって、ユーザーメイドの面白いシナリオがいかにつくられるか、つくりやすいかだと思っているんです。

TRPGは、シナリオがないとシステム単体では遊べない。そして、公式が提供するシナリオだけを遊び続けるとすぐに「弾」が尽きちゃうんですよね。

そうなると、システムが面白いかどうかという基準には多分、ユーザーメイドのシナリオにどれだけ面白いものがあるかが関わってくる

だから、『エモクロアTRPG』ではシナリオを書いたり、二次創作をしたりする人たちがやりやすいように二次創作を公認したり、二次創作物を巡って発生しやすいトラブルを回避できるようにコモンズ制度を整備しました

ぱぱびっぷ ダイスタス・コモンズも「こうなっていたらいいな」と僕らが思っていたことをそのまま採用しただけなんですが、そもそも、シナリオ作者や二次創作者のことを考える仕組みもこれまで多くはなかったように感じます。

──シナリオ作者や二次創作者のことを重視されているんですね。

まだら牛 TRPGはシナリオを書くのも含めて、遊ぶユーザーが主役だと考えているんです。だから、『エモクロアTRPG』のルールにも厳密じゃない箇所をたくさんつくっていて、それをディーラー(『エモクロアTRPG』におけるゲームマスターのこと)やシナリオ作者に埋めてほしいんです。

システム側でいろんなことを曖昧にしていることで、『エモクロアTRPG』で創作する人のセンスや自由さを損なわないようにしたかった

ぱぱびっぷ 「『エモクロアTRPG』は世界観が弱い」みたいな意見も寄せられるんですけど、あえてそうしているんです。『エモクロアTRPG』は自由に使ってもらいたい。

まだら牛 公式で用意した「怪異辞典」も普通のルールブックのデータソースに比べて多いわけじゃないんですけど、ジャンルもバラバラの怪異がいっぱい載っているじゃないですか。

これは怪異の幅の広さを提示するためのもので、創作意欲を刺激するための例示しかしないっていう方針なんです。

幅広い怪異が載った「怪異辞典」/画像はルールブックのスクリーンショット

まだら牛 公式シナリオも最初に5本用意していますが、意図的に書き方から遊び方まで全然違う5人を集めています。個々の感性をそのままに書いてもらっているので、多少の文言の修正以外シナリオの書き方すら調整してないんですよね。

──最初にラインナップが発表された時、ディズムさんやぱぱびっぷさんだけでなく、ニコニコ動画時代からTRPG動画を投稿されていたもすい。さんが並んでいることに驚きました。

まだら牛 もすい。さんのシナリオ33ページぐらいあるんですよね。他は大体10ページ位で収まるんですけど、1人だけ3倍ぐらいあって(笑)。

ぱぱびっぷ 配信も2日に分けてたね。
エモクロアTRPG | オトギバラシ 前編 【もすい。/ 日ノ森あんず / 佐藤ホームズ】
まだら牛 そうそう、その違いがめちゃめちゃ面白いんですよ。

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