「メッセージ性の強い映像」をつくるチームとしての軸
──Hurray!は「メッセージ性の強い映像をつくる」と、公式サイトで打ち出しています。ここまで明確にコンセプトを打ち出すのは珍しいと思いますが、美大での経験が大きいのでしょうか?ぽぷりか そうかもしれません。僕がいた大学は「“空が青くてきれいだね”というメッセージを絵を使って伝えましょう」のような、コミュニケーションデザインを教えていました。
「“伝わる”ことが重要であり、クオリティは必ずしも絵の価値に直結しない」──僕が大学時代に最も共感したことです。
僕は漫画が好きなんですけど、絵が上手くないと思う漫画もある。だけど、それって漫画として面白い・面白くないとは全然別の話だと思うんですよ。
ぽぷりか 映像も同じだと思っていて、絵の良し悪しは映像体験の質に関係するかもしれないけど、それがすべてではない。「じゃあ、何が映像の価値を左右するのか?」と言われたら、僕は演出が重要だと思っています。
映画のラストシーンって、そのワンシーンだけで感動するわけじゃなくて、そこまでの流れがあったからこそ感動する。カッコいい絵があるから感動するんじゃなくて、映像の流れの中でその絵がカッコよく映ったから感動するんだと思っています。
そういったコンセプトをわかりやすく示すことで、僕らとしてもその軸がブレないように、一言で「メッセージ性の高い映像を制作する」と宣言しています。
最新作『あなたから聴く物語』が生まれるまで
ぽぷりか お仕事をいただいて最初の段階で、「公衆電話での声優さんによる1人芝居、という枠組みで何かつくりましょう」という部分は決まりました。
はじめて脚本から自分でつくれるのもあって、気合いを入れて臨みました。やる前から予想はしていましたが、実際物語を考えてみると、既存のIPに頼らない声だけの新規コンテンツで、複数話にわたって、ストーリーとキャラクターに対する視聴者の興味を維持するのって、相当難しいなと思い至りました。 ぽぷりか それでもやっぱりたくさんの人に見てもらいたい、となればSNSでの共有は必須、拡散のしやすさを考えると、全部を追わなくても1コマで何か伝わるほうがいい──そう考えた結果、フォーマットは一貫しているけど、1話ごとに独立しているオムニバス形式というアイデアにたどり着きました。
話数ごとにキャラクターや状況、世界観を設定すると、そのつど視聴者が理解する必要がある。そうではなく、キャラクターも状況も同じ、画面構成も基本的にワンカットで同じ絵、芝居もほぼ声だけと、できるだけソリッドな構成にしました。
そうすることで、話数ごとに変化する要素が際立ち、視聴者の注目を維持しやすいんじゃないかって。 ──「公衆電話で話している女子高生の電話相手が、ラストで実はおとぎ話の登場人物だったことが明らかになる」というギミックもアクセントになっています。
ぽぷりか ここまで要素を削ぎ落として、公衆電話のワンカットと声だけとなると、情報が少なすぎてぱっと見で登場人物(電話相手)の数すらわからない。
なので、そのぶん「どういうキャラなのか」を理解するために費やす時間をショートカットできるよう、誰もがすでに知っているキャラクターを使ったほうがいいなと考えて、おとぎ話を取り入れました。
「おとぎ話のキャラクターと電話で話して面白いコンテンツ」という『あなたから聴く物語』の大枠は、こうして決まりました。
──いずれの物語も、電話相手との会話は気軽に視聴できる内容になっています。あまり深刻な話にはならないように意識したんでしょうか?
ぽぷりか SNSでまで重たい作品を見たい人はあんまりいないんじゃないかなと思っていたので、最初からクスっと笑えるくらいライトな作品にしたかったんです。
大枠が決まった段階で、最初は「誰と話しているのかわからないクイズとしての面白さ」を主軸に置こうとしていました。会話の中で、おとぎ話のキャラクターということまではわかるけど、「こんな奴いた?」と思わせつつ、最後に種明かしをするという。
でも、どのキャラクターなのか判明したところで「それで何が面白いの?」ってなる人のほうが多いかもしれないと思って(笑)。
結局「おとぎ話のキャラクターって、実際はこういうことで悩んでいたのかもね」という、話してみないとわからない面白さを追求しています。
──第6話「うさぎとかめ」のエピソードで、亀がオンラインサロンに手を出しているのが現代的に感じました。SNSでの拡散を重視しているというお話もありましたが、若い世代への共感は意図されていたんでしょうか?
ぽぷりか オンラインサロンに関しては意図して取り入れました。特に第6話は「おとぎ話の世界から1人だけ21世紀に追いついている亀、すごい!」という物語にしたかったので(笑)。
あとはシンプルに、10代・20代に見て欲しかったので、より現代の話になるようなモチーフは意識していました。
──身近なモチーフを取り入れて現代の物語であることを強調されたんですね。主人公の女の子が毎話最後に「みんなすごいな~」などと感想をつぶやく姿は、等身大で共感できました。 ぽぷりか あの公衆電話は、本来出会うはずのなかった誰かの話を聞いているという意味で、SNSに近いと思うんです。
SNSってすごくキラキラした人を見かけて「いいな」とポジティブに思えることもあるし、「……しんどい」ってネガティブになる場合もありますよね。だから良いのか悪いのか言い切ることはできない。
その人にとって、SNSが毒なのか良薬なのかは関わり方次第だと思いますが、同時に、何かしら影響は受けるものなので絶対に水にはならないと思います。
『あなたから聴く物語』でも、主人公はさまざまな電話相手との会話を通じて、何かしらの影響を受けて変化していきます。
Hurray!は“伝えられる映像”をつくるチームでありたい
──Hurray!としては、2021年で結成5周年を迎えます。今後の展望や制作したいものがありましたら教えてください。Hurray!という3人の映像制作チームを作って4年過ぎ、
— ぽぷりか (@POPREQ) February 26, 2021
メンバー全員がHurray!を本業に出来る処に来れました。
応援してくれた方、お仕事をくれた方、出会ってくれた皆様。本当にありがとうございます。
これからも頑張ります。 pic.twitter.com/VdziwQnMWu
ぽぷりか 『あなたから聴く物語』は映像作品としてかなり特殊だったんですけど、はじめて1からお話をつくらせてもらって、それがすごく面白くて。
これまでは楽曲ありきのMVを制作することが多かったので、音楽に寄らない形で自分の表現したいものをつくるのは新鮮でした。
だからと言って「今後はオリジナルつくります!」ってわけじゃなくて、Hurray!結成前から数えると9年ぐらい映像をつくってますけど、MVの制作もいまだにすっごく楽しいんですよね。
ぽぷりか 変わりませんね。ただ『あなたから聴く物語』のように、これまで中心だったMV以外の表現にもっと挑戦してみたいですね。
「すべてが箱の中に入っている」というわけじゃないですけど、実は最近、文字も音楽も写真も何もかも含んでいる映像表現って「ゲーム」も当てはまると気づいたんです。
メッセージを伝えるという意味では、ゲームのほうが幅広いことができるんじゃないかと。どんな映像表現の方法を選択するにしても、自分たちのメッセージが伝えられる作品をつくるチームでありたいと思っています。
アニメシーンの担い手たち
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葛西
ライター
ジャンル複合ライティング業者。ビデオゲームや格闘技、アニメーションや映画、アートが他のジャンルと絡むときに生まれる価値についてを主に書いています。
Twitter:@EAbase887
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