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エミネムは新曲「Darkness」で何を綴ったか?【歌詞対訳&解説】

Eminem - Darkness (Official Video)

POPなポイントを3行で

  • エミネムの新アルバム『Music to Be Murdered』
  • 収録曲 「Darkness」対訳&解説
  • MVだけに流れるメッセージの意味
2018年のアルバム『Kamikaze』に続き、Eminem(エミネム)の最新アルバム『Music to Be Murdered』がサプライズ・リリースされた。通算11枚目となる今回のアルバム名とカバーアートは、映画監督アルフレッド・ヒッチコックの同名LPからサンプリングされたもの。 アルバムのリリースと同時に公開された収録曲「Darkness」(ダークネス)のMVが大きな話題を呼んでいる。エミネムのシグネチャーでもあるストーリーテリング力が十二分に発揮された楽曲で、全米で深刻化する銃乱射事件の撲滅を訴えかけるものだ。

1967年のアメリカ映画「卒業」の挿入曲としても知られる、サイモン&ガーファンクルの「The Sound of Silence」からのフレーズ・サンプリングが印象的な一曲となっている。

今回は「Darkness」の歌詞の一部抜粋・対訳と解説を掲載。エミネム自身とラスベガス・ストリップ銃乱射事件の犯人スティーブン・パドックの目線をオーバーラップさせて綴られた歌詞の内容を読み解くことで、アメリカで議論を巻き起こす薬物問題や銃所持問題などについても理解が深まるはずだ。

エミネム「Darkness」の対訳・解説
第1バース
第2バース
第3バース
MVだけで流れるメッセージの意味

第1バースの解説:語り手は誰なのか?

I don't wanna be alone, I don't wanna be
一人ぼっちになりたくない、一人は嫌なんだ

I don't wanna be alone in the darkness
暗闇の中で一人ぼっちになりたくない

I don't wanna be alone in the darkness
暗闇の中で一人ぼっちになりたくない

I don't wanna be alone in the darkness anymore
もう暗闇の中で一人ぼっちになるのは嫌なんだ

(Hello darkness, my old friend)
(久しぶりだね、暗闇 僕の古い友人)

歌詞はエミネムがホテルの一室で、ライブ前のプレッシャーに押しつぶされそうになっている様子が描写されるところから始まる。

I can feel these curtains closin'
カーテンが閉まるのが分かる

I go to open 'em
開けなきゃいけないのに

ここでエミネムは部屋の「カーテン」と舞台の「幕」を掛けている。舞台というモチーフはこれまでも彼の作品で登場してきた。エミネムの3rdアルバム名「Eminem Show(エミネム・ショー)」やそれに続く4th「Encore(アンコール)」とベスト盤「Curtain Call(カーテン・コール)」といった具合に。

Feels like I'm loathing in Las Vegas
ラス・ベガスで強い嫌悪を抱いてるみたいな気分だ

ここで、その「舞台」がラス・ベガスのショーであることが仄めかされる。また、”loathing in Las Vegas”という一節はジョニー・デップ主演の映画、及び原作小説の「ラスベガスをやっつけろ」の原題 ”Fear and Loathing in Las Vegas”に掛けられているラインだ。

取材でラスベガスに向かった、実在の有名ジャーナリストがドラッグ漬けでトリップしまくる珍道中の物語で、この後の展開を暗示している。

I'm so much like my father, you would think that I knew him
俺は自分の父親みたいだ、彼についてほとんど知らないのに

エミネムが物心の付く頃には、実の父親は彼の元から離れていた。これは彼が自身の生い立ちを語る際に何度も言及されてきた、自身のトラウマの根幹とも言えるテーマだ。

ここで重要なのは、ラスベガス銃乱射事件の犯人スティーブン・パドックも実の父親とほとんど面識が無かったということだ。彼の父親は銀行強盗だったのだ。ここでエミネムは、初めて銃乱射犯と自身をオーバーラップさせる。

I keep pacin' this room, Valium and chase it with booze
部屋の中を右往左往しながら、バリウムを酒で流し込んでる

ここで言及されているバリウムは胃カメラの際に飲む”Barium”ではなく、”Valium”・通称「ディアゼパム」というベンゾジアゼピン系の抗不安薬だ。銃撃犯スティーブン・パドックもまた、ディアゼパムを処方されていた。なお、ディアゼパムの摂取と、同事件との因果関係は不明とされている。

このベンゾジアゼピン系の”Prescription drug(処方薬)”の過剰摂取による中毒死はアメリカでも大きな問題となっており、同曲でも度々言及されている(詳細は後述)。

Fuck the Colt 45, I'ma need somethin' stronger
Colt 45じゃ足りない、もっと強いのが必要だ(1)

If I pop any caps, it better be off of vodka
キャップを外して開けるなら、ウォッカじゃなきゃ駄目だ(2)

Round after round after round, I'm gettin' loaded (Haha)
次々にショットを飲み干して、もう酔っ払ってる(ハハ)(3)

That's a lot of shots, huh? (Double entendre)
ずいぶんとショットを飲んだな?(二重の意味で)(4)

この第1バースのフィナーレは、全4小節が「銃」と「酒」を掛けたダブルミーニングになっている。これから起こるであろう惨劇への予感と、エミネム自身の不安が段々とシンクロしていく構造になっているのだ。

(1)コルト45は、通常のビールよりアルコール度数が高いことで知られるアメリカのビール名だ。また、米・コルト社の製造している45口径の銃を指す名称でもある。

(2)”Pop a cap”は「瓶などのキャップを外す」という意味だが、「銃を発射する」という意味のスラングでもある。

(3)”Round”は「人数分の酒」という意味もあるが、「弾薬筒」を意味するスラングでもある。

(4)”Loaded”には「酔っ払う」という意味以外にも「銃弾が装填されている」という意味もある。

第2バースの解説:信頼できない語り手

Now I'm starin' at the room service menu off a benzo
今はベンゾを飲んでルーム・サービスのメニューを眺めてる

”Benzo(ベンゾ)”-正式名称・ベンゾジアゼピンは抗うつ薬や不眠症の治療薬としてアメリカでは処方されている薬だ。前述したディアゼパムもベンゾ系の処方薬で、本来の使用用途から外れて、娯楽用途で乱用されることも多い。

エミネム自身も以前はベンゾ系の処方薬に依存していた過去があり、薬物依存の更生施設に入っていた時期もある。

That's when you know you're schizo
ここまで来れば、もう統合失調症だな

ベンゾとアルコールの併用は非常に危険であることが知られており、判断能力が下がる等の副作用が報告されている。ここでは野外のコンサート会場から聞こえる音をうるさく感じる等、語り手の偏執(パラノイア)が強くなっている様が描写されている。

ここで重要なのは、ラスベガス乱射事件で犠牲になったのが、乱射犯の滞在していたホテルから見渡すことの出来る野外コンサート会場の観客たちだったということだ。

ライブを控えるエミネムと、野外コンサートを見つめる狙撃犯の視点が益々シンクロしていくのが分かる描写だ。ここから、コンサート会場になかなか人が集まらないことに焦燥感を覚える語り手の視点が綴られていく。

You can't murder a show nobody's at
誰もいない会場でぶちかますなんて出来ないもんな

”murder”は一般的には「人を殺す」という意味だが、「ぶちかます」というスラングの意味もある。非常にクレバーなラインだ。

焦燥感を振り切るように、ライブの開始に向けて自分を奮い立たせる語り手。ここから「言葉」と「弾丸」を掛けたダブルミーニングのリリックが続く。

Now it's just magazines sprawled out on the floor
今は床に雑誌が乱雑に散らばってるだけだ

”magazine”には「雑誌」と「弾倉」の2つの意味がある。ここでは両方の意味に取れるように意図的かつ明確に作詞されており、これまでオーバーラップしていたエミネムと狙撃犯の視点が、後者へ傾いてきていることを示唆している。

第3バースの解説:舞台の幕が上がる

It's 10:05 PM and the curtain starts to go up
時刻は午後の10:05で、 舞台の幕が上がる

コンサート会場には人が集まり始め、ショーが幕を開ける。2017年のラスベガス・ストリップ銃乱射事件が発生した時刻も午後10:05だった。

And I'm already sweatin', but I'm locked and loaded
もう汗をかいてるけど、弾丸は込められてる

For rapid fire spittin' for all the concert-goers
コンサートに集まった全員に乱射する銃弾だ

”rapid fire”という言い回しには「高速のラップ」と「銃の乱射」の2つの意味がある。コンサート会場に集まった観客を前に高速のラップを披露するエミネムと、こちらも皮肉にもコンサートに集まった観客を狙撃の対象にしたスティーブン・パドックとの対比になっている。

ここまで来たところで、同曲の語り手は最初から銃乱射犯であったことが明かされる。しかし、上記のようなダブルミーニング的な表現を一貫して保つことで、これまで語られてきたエミネムの視点とも矛盾しないように歌詞が構成されているのだ。

Some of them John Travolta, staying alive by inches
ジョン・トラボルタみたいな奴らもいる 必死でギリギリ生きてやがる

ジョン・トラボルタ主演の1977年の映画「サタデー・ナイト・フィーバー」にフィーチャーされた、ポップ・グループの”Stayin’ Alive(訳:必死で生きてる)“という楽曲と掛けられているラインだ。

ここでは銃の乱射から逃げ惑う人々が描写されているが、皮肉にも、ステージ上のエミネムに一歩でも近付こうとする観客たちの熱狂具合にもとれるようになっている。

No suicide note, just a note for target distance
自殺の遺書も残さない 射程距離のメモだけだ

警官隊が銃乱射犯の籠城している部屋に突入をしてくる。しかし、警官たちの手が届く前に、彼は自殺をしてしまう。実際に彼がテーブルに残していたのも、射程距離を計算したメモだけだった。

そしてアウトロには惨劇の後日談を語るニュース音声が流れ、フェイドアウトしていく。

MVだけで流れるメッセージの意味

ストリーミング・サービスで配信されている歌詞の内容はここまでとなるが、MVでは近年アメリカで発生している数々の銃撃乱射の報道映像や音声が1分半ほど流れ続ける。

When will this end?
この惨劇はいつになったら終わるのか?

When enough people care.
それは十分多くの人が関心を持つようになった時だ。

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Make your voice heard and help change gun laws in America.
君の声を届けて、アメリカの銃器所持取締法を変えよう

2017年にもトランプを批判するフリースタイルを披露したエミネム。「Darkness」のMVはアメリカの銃器所持取締法に一石を投じることが出来るのだろうか?
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「こうした解釈もある」「この訳のほうがしっくり来る」といったご意見があれば、読者の方々からもぜひ聞かせていただきたい。

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