張り裂けそうな激情を伴い命は叫ぶ
オーディエンスにニンライト(ペンライト)を消してもらい、真面目タイムがしめやかに始まる。厳かな雰囲気の中、どうしても歌いたかった大切な曲としてwowakaさんの「アンノウン・マザーグース」を披露。ここまでもポップソングからバラードまでを表情豊かに歌い分けてきたが、ステージ上でモノクロに照らされ、張り裂けそうな思いを歌に乗せる姿に、表現力の底をまだ見せていなかったのかと驚愕させられた。 重苦しささえ感じさせる空気の中、印象的なピアノの旋律から「命に嫌われている」が始まる。平坦な調子で凄惨な言葉の数々を並べる2人は先ほどにも増して神妙な面持ちだが、込められた強い感情は、次第に涙となって溢れ出していく。
頬を濡らし、声を震わせながら、命を振り絞るように歌い続ける2人。何が彼女たちをそうまでさせるのか。目の前に広がる壮絶な光景に目を離せないでいると、大サビへ突入すると共にステージ上には満天の星空が広がる。これまで以上に激情を歌にのせる2人の姿は、文字通り以上の意味合いで真に迫る。 「生きろ」最後の歌詞が浮かび上がると共に、バーチャルとリアルの垣根を越えて魂の慟哭が心を切り裂く。その圧倒的なまでの迫力に誰もが言葉を失い立ち尽くすばかりで、音が消えた会場には2人の吐息だけが響く。
ステージの端に小さく腰かけると、ひぐらしの鳴き声が響き、夏の終わりを感じさせる情景の中で2人が静かに語り始める。
「命にはやがて終わりがくる、それでも一緒にいたい」。飾らない言葉を交わす2人は、大勢に見守られながらも、確実に2人だけの世界を形づくっていた。 「ずっと一緒だよ」。無邪気な約束を結ぶ2人の姿に、一抹の寂しさが漂うと新曲「ライライラビットテイル」へ。これから向かう秋を感じさせるバラードは、ずっと一緒にいようと誓う2人を祝福するようでもあるが、怪しく、そして美しく調べは紡がれていく。
「一緒だよ」と誓いあったはずの2人が、別々の方向へ消えていったのは、何か暗い未来の暗示ではないよう祈るばかり。
琥珀について図鑑を読むような語りが始まると、続いても新曲「琥珀の身体」。ミドルテンポの重厚なナンバーによって浅いダンスへ誘われるも、未だ多くの謎に包まれた2人の出自を示すような表現の数々は、歌詞を追っていた人々に不安の種を植え付けた。
「いつか涙は輝くから」と歌うクライマックスへ
真面目タイムを終えて緊張が解けたのか、2人がいつもの笑顔を見せると一気に会場の空気もフッと緩んでいく。しかし未発表曲の連打は終わらず、入念に皆で声を合わせるパートの練習をしてから、新曲「ララ」へ。ニンライトを封じられていた真面目タイムが終わり、会場はフラストレーションを晴らすかのように色とりどりの光に包まれる。が、披露された新曲はそれに負けない爽快なロックナンバーだ。
サビでは手を大きく振ってオーディエンスと動きを合わせ、「いつか涙は輝くから」と歌い上げるが、いつかと言われずともすでにそこら中で歓喜の涙は煌めいていた。 これまでの軌跡が詰め込まれたライブもいよいよクライマックス。先ほどの「クソ歌詞グランプリ」ではとんでもない歌詞になったが、本来はフィナーレを彩るパワーを持ったオリジナルソング「ヒバリ」へ。
イントロが明けると共にフロアには銀テープが降り注ぎ、視界いっぱいに広がる輝きがクライマックスを華々しく彩る中、ここへきても陰りを見せない透き通るような2人の歌声が、背景に青々と広がった天(そら)へ響き渡っていく。 そしてハードなロックへと変貌を遂げた「ヒトガタROCK」で本編はフィナーレ。4つ打ちのビートに誘われるままフロアのボルテージは最高潮を越え、スクリーンに歌詞が写し出されると大アンセムの大合唱をもって幕は降りる。
「うたかた」に込められた想い
収まりきらない興奮が大歓声となって溢れだすと、YouTubeで1000万以上再生された大人気ナンバー「劣等上等」でアンコールがスタート。重厚なEDMに合わせて軽やかにステップを踏み、もはや定番のコマネチまで繰り出す2人。八方に広がるレーザーによって会場は一気に極上のダンス空間へと変換されると、最後のフレーズ「フロアが沸き上がりました」の宣言を持って、完璧に仕上がる。 瞬発的に沸騰したフロアだったが、真のフィナーレを前にいったんクールダウンさせられると、ここでヒメヒナの活動を支える田中工務店のクリエイターで、作詞担当のゴゴさんの日記が読み上げられた。
オフィシャルページに記されたメッセージでも示唆されていたが、改めて「うたかたよいかないで」が7月に起きたゲーム部プロジェクトの騒動や、京都での凄惨な事件を受けて綴られたこと、そして急遽ワンマンのセットリストを変更し、ラストに披露することにしたことが明かされた。彼らや彼女ら、そして素晴らしき情熱と共に生きた京の方々へ
ヒメヒナと共に田中工務店一同の想いを捧げます ゴゴさんのコメントより
そして2人もライブへの想いを語り始める。
用意してきた言葉が吹き飛ぶほどに、ライブ中にいろいろなことを感じたというヒナさんは、準備中の心の支えがヒメさんの優しさだったことを告げ、「皆の笑顔が見れて嬉しい」とここまでのライブを振り返った。 1人の頃から頑張ってきたヒメさんは、今日という特別な日に辿り着かせてくれたヒナさんやジョジ民への感謝を述べ、「もっとレベルアップを」とさらなる飛躍を誓う。
2人の涙ながらの想いの吐露に呼応するように客席にも涙が溢れるが、このままでは終われないと湿った空気を「はおー!」の雄叫びでかき消すと、全員で「うたかたよいかないで」と声を合わせ、ラストソングが始まる。 詞に込められたゴゴさんの思い、そして舞い踊る2人の思いを知っては、一見爽やかな夏を想起させるこの曲も、もうただのアッパーチューンには聞こえず、それぞれが過ぎ行く「うたかた」への思いを巡らせながら、煽られるままに腕を振り上げる。
出会いや別れ、もっと根源的な喪失を歌いながらも、この歌は嘆きの歌ではない。想像を絶する悪意、不意に降りかかる災厄、目を背けたいほどの現実に立ち向かい、毅然と挑む希望と祈りの歌だ。そう確信させるだけの笑顔と輝きがフロアに広がり、出し尽くすような万雷の拍手に包まれる中、またこの場所での再会を誓って幕は閉じた。
ヒメヒナ「これからもみんなと一緒に」
終演直後、やりきった表情の2人に直接話を聞くことができた。──事前のツイートからもうかがえたように、全編自信に溢れた最高のライブでした。準備の段階から含め、素晴らしいステージをつくり上げるためにどのような努力をされたのでしょう?
田中ヒメ 普段の撮影とは違って、ライブはずっと通しだから、体づくりをしないといけなかったんですよ! だから走り込んだんだよねーヒナちゃん。
鈴木ヒナ いっぱい走ったねー。ダンスティーチャーにもビシバシしごかれて、練習もたくさんしました!
田中ヒメ 今日を迎えるのを楽しみに、いっぱい練習して万全の準備で望んだんですが、目の前に広がった景色は想像の何十倍もすごくて、最高の1日になりました!
鈴木ヒナ たくさん歌と躍りの練習をしたから、みんなどんな反応をしてくれるかなって楽しみだったんですが、みんなニンライトを振って喜んでくれてすごい嬉しかったです! これからもみんなと一緒に楽しんでいきたい! 最後には1stアルバムのリリースを告知し、次なるライブへの大きな意欲を見せた2人。彼女たちの目線はすでに先へ向いている。
振り返ってみれば、歌はもちろんのこと、普段の動画を思わせるバラエティーコーナーに、考察意欲をくすぐられるパートと、ヒメヒナのすべてが詰め込まれたイベントだった。
VTuberシーンが辿ってきた光と闇、そのすべてに向き合い毅然と立つ。笑って泣いて、喜びだけでなく悲しみまでもすべてを叫びきった2人の姿には、そんな強い意思を感じた。
なおライブの模様は10月6日(日)23時59分まで、ネットチケット購入の上、ニコニコ生放送でタイムシフト視聴できる(外部リンク)。
短くも深く濃いVTuberの歴史
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イベント情報
HIMEHINA(ヒメヒナ)1stワンマンライブ「心を叫べ」
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