永田寛哲×もふくちゃん×岸田メル 座談会──「つくドル!」プロジェクトが目指す未来

「アイドルになるのはゴールではなくスタート」

──今回の「つくドル!」プロジェクトで注目したいのが、「アイドルになるのはゴールではなくスタート」という標語です。これはどういう考えからつけられたんですか。

永田 僕が元々ハマっていた時代のアイドル、ハロプロくらいの時期というのは──アイドルの先のキャリアというのが、女優や歌手くらいしかなかったんです。あまり多様性がなくて。けれど、最近いろんなアイドルたちの発言やプロフィールを見ていて気になったのが、声優になりたいという子がすごく多い。女子アナになりたいという子もいる。でも実際になれるのは、超レアケースで、個々の努力と運でしか成し得ない状況ですよね。どうしてもデビューするまでが遅くなってしまう。

でも、そういう子たちって情熱やモチベーションがすごくあるんですよ。それを応援しながら、一緒に盛り上げていきたいんです。僕らとしてはアイドルというものを、その後に続く本当の夢のスタートラインとして捉えて、がんばってもらいたいという気持ちです。

──アイドルってどうしても若いうちじゃないとできない職業ですもんね。アイドルを卒業して、そのまま表舞台からいなくなってしまう子も多いと思います。

永田 アイドルって、そんなにスキルがあるわけじゃないんです。歌だったら 歌手のほうが上だし、ダンスだったらダンサーのほうが上だし、演技だったら女優のほうが上なわけです。だからこそ、アイドルという存在そのものとして魅力・価値を出さないといけない。逆に言えば歌やダンスが上手いだけでは駄目で、スキルの習得や上達といった分かりやすい目標がないんです。

けれど「人気」なんてあやふやなものを集めたり、達成するためのメソッドなんて確立されていないんですよ。そんな「人気」を集めるというあやふやな目標に対して、貴重な青春時代を費やすという……。それはとんでもなく大変なことです。

アイドルになるような子って、一般レベルからしたら当然かわいい。かわいい女子中高生というのは、人類のヒエラルキーの頂点にいるはずなんですよ?

一同 (笑)。

もふく そういう話よくしてた(笑)。

永田 遊んでいれば人生で一番面白いはずの時代なのに、そんなあやふやなものに対して情熱を傾ける──その脆さや儚さがアイドルの美しさなんですね。だから、真剣に応援したくなる。

岸田 永田さんにこんな熱い想いがあるとは……あるだろうと思っていましたが、こんな深くお聞きするのははじめてです(笑)。

永田 こういうプロジェクトは、どうしても運営側の感性が重要になってくるでしょう。人対人のビジネスなので、アイドルとファンの関係というのが最も大切。そこでビジネス的なことを追求しすぎたら反発を買うし、かといって完全にファンに寄り添えばいいかというと、それも違う。pixivの運営でも強く感じることだけど、ビジネスだけでも、オタク的な感覚だけでも、良いものを提供し続けていくのは難しい。これまで成功してきたアイドルも、プロデューサーのつんく♂さんにせよ秋元康さんにせよ、ハードコアなオタクでありながらも、同時に思考がリアリスティックなんです。その両方を高度に持っている必要がある。そういう感性について、もふくちゃんや岸田メルさんの協力を大いに期待しています。

永田寛哲さん

──今回、どうして声優、コスプレ、イラストレーターという職業に決まったのでしょうか。

永田 本当はなんでも良いのかもしれなくて、例えばけん玉が上手い女子高生とか(笑)。でも個人でそれをやるのは、なかなか成立しづらいと思うんです。せいぜいYouTubeで話題になって、たまにテレビに出るような──そういうものでしか成立し得ない。ただ、これをアイドルとしてパッケージングすることはできるんじゃないかなと。

はじめはアイドルというものと親和性があって、ピクシブとも親和性があって、クリエイティブなことを意識している女の子たちを応援しようと。そんな子たちが何になりたいかと考えて、声優、コスプレイヤー、イラストレーターを最初の募集にしようと思いました。この試みがうまくいけば、本当はどんな仕事でもいいと思っています。何かしらクリエイティブである、それが大事。

もふくちゃん 応募も良い感じに集まってきていて、特に声優になりたい子がすごく多くて驚きました。多分、アイドルから声優になるという道筋が想像し易いんだと思いますね。そういう流れは確かにありますし。

永田 イラスレーターとコスプレイヤーを両立させるようなアイドルはまだ全然わからないよね(笑)。逆にこのプロジェクトがきっかけで、一つの成功パターンをつくれればと考えています。

もふくちゃん まあでも、イラストレーター×アイドルって岸田メルさんの活動を参考していただければイメージが湧くのでは?

一同 (笑)

岸田 まあ概念としては近いのかもしれませんね……。ただ、絵も描くし、歌もうたうという人たちも最近は出てきています。例えば、シンガーソングライターとイラストレーターのユニット・みみめめMIMIとか、あとは歌い手でイラストレーターの秋赤音さんとか。

最初にこの話を聞いた時も、水森亜土さんみたいな存在を目指しているのかなと想像しました……。絵もかけて、歌もうたえて、踊れるとなると、絶対そこにいけるので、育成するしかない。僕も中間地点にいるので、彼女の流れを継承するしかないと思っています(笑)。

永田 あれができれば相当息が長いですよ(笑)。死ぬまで芸能活動できると思います。

岸田 僕の場合は、たまたま顔出しインタビューみたいなものがあって。もともと演劇をやっていたから抵抗がなかったから受けたんです。それで写真を撮ってもらったら、ネットに出回って、なぜか話題になってしまったんですよ……。

永田 クリエイターはもちろん実力が第一、大前提だとは思うんですが、セルフプロデュースは必要。そう考えると、顔を出すなり、トークするなり、岸田さんのようにテレビに出ることも大切になるかもしれない。一つ一つに意味があるかはわからないけど、全体としてそういうことができる姿勢は重要じゃないかなと思います。

岸田 このプロジェクトについては、たしかに重要かもしれません。ただふつうのイラストレーターさんが、顔出ししたり、絵以外でなにかを発信する必要があるかは、人それぞれだかなと。ただ、アイドルになって絵を描こうと思う人であれば、もう全力で全方向に自分を出していったほうが良いと思います。

僕は確かにテレビやラジオに出たり、イラスト以外でもいろいろ仕事しているんですけど、イラストと相性良い事なんて一個もないですよ!

一同 (笑)

二次元的なもの、三次元的なものの壁

もふくちゃん(福嶋麻衣子)さん

もふくちゃん アイドルシーンって本当に流れが早くて、2〜3年前と今だともう全然違いますよね。状況は1年ごとにがらっと変わってきている。そういう意味だと「つくドル!」みたいなプロジェクトは今年や来年とかで自然と出てきてもおかしくないような気がしています。

永田 僕が思うのは、一般的な目からはオタクと一言で括られていても、例えば10年前だと、二次元のアニメ・ゲームが好きな人と、三次元のアイドルヲタの仲がすごく悪かった。

もふくちゃん まさに。二次元オタと三次元オタの相性の悪さといったら凄まじいものがありましたよね。

岸田 本当にそうですね。

永田 でもその状況が最近融和してきているのを感じる。二次元の世界でもアイドルを題材にした『ラブライブ!』や『アイドルマスター』は息が長いし、強い人気がある。ついに二次元と三次元のオタクが統一されたんじゃないかと。

もふくちゃん 5年前にずっと叩いていたのになかなか割れなかった壁が、ついに統一された。ベルリンの壁が崩壊したような(笑)。

永田 でも僕は10年前からこうなると思ってたよ。

もふくちゃん みんなそう言うんだよなー……。

一同 (笑)

永田 でも自分がそうだったから! 10代のころ、僕はむしろ三次元を嫌悪する典型的な二次元オタだったんです。それがアイドルに触れることによって変わった。面白さの本質は一緒だったし、実は相性も良いということに気づいた。

もふくちゃん はじめてアイドルがたくさん出るようなフェスにでんぱ組.incが出た時、「声がアニメっぽい」という理由だけですごく叩かれたんですよ。「アニメ声のやつはアイドル界から去れ!」みたいに言われて。ようやくこの1、2年で状況が変わって、壁がなくなってきたと思う。

──「つくドル!」でも声優、コスプレイヤー、イラストレーターという募集について、二次元に絡めた職業になっていますもんね。

永田 そう。三次元と二次元を融和させたい、という思いはあります。今はまだ融けかかっている段階なので、ある意味それは隙間というかチャンスに感じている部分もある。また2〜3年経ったら、それも当たり前になっているかも。

岸田 Twitterで「岸田メルがアイドルの自撮りばっかりリツイートしてくるからリムーブした」って言っていた人のアイコンを見たら『ラブライブ!』だったんですよ。「くっそーー!」って思いました。かわいい女の子の絵を見たくて岸田メルをフォローしたのに、流れてくるのはアイドルとおっさん(※岸田メルさん本人)の自撮りしかない、とか(笑)。

僕は絵のモチーフとしても、二次元で好きなキャラクターがいるから描いているわけではなくて、三次元で好きな女優さんやかわいい子がいるから描きたいと思うことが多いです。そういう意味で、もともと三次元に対する抵抗は一切なくて、変に争ったりしないで上手いこと融合していけば良いなと思っていました。最近だとエロ漫画家の師走の翁さんがBiSのベストアルバムを描いたりとか、流れを感じますよね。

岸田メルさん

永田 二次元ヲタの中ですら、ちょっと前まで硬派系と萌え系の確執みたいなのがあった。でも最近はほとんど聞かないじゃないですか。内ゲバをやっている場合じゃなくて、文化全体を楽しもうという流れが生まれている。秋葉原がオタク的なものを何でも取り込んでテーマパーク化していったのはすごく良いことだと思っていて、寛容性を持つべきだなと。だってなんでもかんでも楽しんだ方が楽しいから。

岸田 すごく思うのは、カテゴライズに固執していると、現代では面白いものに乗り遅れる、ということです。今後は面白いものって、これまでと同じような振り分け、カテゴライズとは離れた場所から生まれてくると思う。「俺はこれしか好きじゃない」から、とか「これしか知らない」という態度でアンテナを狭めてしまうと、もったいない。

もふくちゃん 下克上の早さが尋常じゃない。逆に正統派のアイドルが目立たなくなってしまった感じはありますよね。

永田 正統派についてもみんな勘違いしていて、単純に売れているアイドルの真似が多かったんです。「正統派ってこういう感じでしょ?」という考えが透けて見えるような。二番煎じ感が強い。


【次のページ】「つくドル!」はどんなアイドルチームになるのか
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