Supremeとルイ・ヴィトンの力関係は逆転した?
──ストリートウェアの人気がここまで出ていることに対してどう考えていますか? 世界的に見ても、スケートブランドのSupremeがルイ・ヴィトンのようなハイ・ファッションブランドとコラボレーションしたことがファッション業界では2017年一番大きな話題でした。ストリートウェアが一気にメインストリームに押し出された感があります。石川 俺らよりの上の世代にとっては、Supremeよりヴィトンの方が上で、「ヴィトンがやらせてあげた」っていう風に映ってるんだけど、逆だと思うんだよね。契約の中身はそりゃまた別の話だとは思うけどさ。
これはあくまでも主観だけど、「ヴィトンが使ってやった」んじゃなくて、ハイファッションが生き残る道としてそれしかなかったんじゃないかと思う。今と昔で、おしゃれをすることの価値が変わってきてるから。
──どう変わったんですか?
石川 自分を着飾って街へ出て他人にアピールする、褒めてもらう、満足感を得る。つまり、かつて洋服がコミュニケーションの一つだった時代があった。それが今は、他人とのコミュニケーションの選択肢はいくらでもあるから。
ネットやSNS、もっと言えば写真中心のコミュニケーションに変わっちゃったことで、言語も削ぎ落とされていって、多くの若い人にとって文脈なんて関係なくなる。しかも、承認欲求だってある程度そこで満たされる。
そんなことも理解してないファッション業界の人が多すぎて、「これはもうだめだ」って思うわけ。だからファッション業界って縮小していくしかないんだけど。
──しかし、逆にストリートブランドは盛り上がっているわけですよね。ここでも同じ話ですね。ハイファッションもスケートブランドも、コンテクストから自由になって、フラットに受け入れられるようになった
石川 そう。「高いものを身につけてる」こと自体の価値は無いに等しくて、それがステータスになり得ない時代になった。エルメスのバッグが何十万するのなんてナンセンスで、バーキンのバッグが数百万なんて馬鹿馬鹿しい。まだルブタンなんて履いてんの? って。
若者が「クールだ」と思うマーケットはもうヴィトンにはつくれなくなってて、圧倒的にクールなのはSupreme。力関係はとっくに逆転してたんだよ。だから自分には、ヴィトンがSupremeのブランド力を使わせてもらったという図式に見えてた。
──昔Supremeがヴィトンのモノグラムを勝手にサンプリングして抗議を受けて販売停止になったことを考えると、すごい話ですよね。
石川 業界よりも消費者の支持の方が価値があるってことが証明されたいい例だよね。ルールとか無視してきたいちスケートブランドがここまできたのは純粋にすごい。
もともと好きだった人からは反発もあるのかもしれないけど、Supremeはヴィトンに取り込まれたんじゃなくて、取り込もうとしてるんじゃない? それってかっこいいじゃん。
──広い目で見れば文脈から自由になったとは言え、例えばSupremeコラボには反発しているスケーターたちもいます。Supremeがスケートブランドからファッションブランドになったことで、アメリカのローカルスケーターやキッズがあまり着なくなった。実際、店に並んでいるほとんどが、アジア人の転売屋。広く受け入れられた結果、彼らには「Supremeダサい」と映っています。
石川 そういうのってさ、アメリカに限らず、スケートに限らずどこにでもいるんだよ。「#FR2」でさえ、最初の頃から買ってたやつが売れてきたら「#FR2ダサくなったよな」っていうんだよ?(笑)
お前らのためにやってねーよ、みたいな。新しいものとか若い人たち、つまり未来に賭けないとダメなんだよ。だって、面白くないじゃん。
初音ミクだってそうじゃん。日本では終わったって言われてるけど、今世界で愛されてる。Supremeも買ってるやつの大半は転売屋かミーハーかもしれないけど、彼らにとっては世界中で愛される方がいいはずだし、Supremeがヴィトンとコラボする世界の方が面白いよ。
いちいち他人にケチつけるのは、だいたいブス
──サンプリングと言えば、#FR2の展示会で発売予定だった写真集『コンビニな女』が発禁処分になりましたね。某コンビニのロゴをサンプリンプした結果、クレームが入ったという。石川 そう。もう「ファッキンラビッツ」じゃなくて「発禁ラビッツ」にしようかな(笑)。 クレームなんてしょっちゅう来る。芸能系もブランド系※もパロディーしてきたから。今回の写真集でクレームが入った某コンビニオマージュのTシャツは別に商品として売ってるわけでもないんだけど、怒られちゃった。
※結婚宣言をした某アイドルメンバーに対してキャップを被って批判したことをオマージュしたTシャツなど
──「#FR2」はラブホで撮影したハメ撮りを思わせる写真もあって、2016年には一度アカウントを凍結されましたよね。
石川 海外のカメラマンなんてもっと際どいことやってて、ネットの世界はフラットなものなのになぜか日本だけルールが違う。
しかも、乳首や性器が写ってるわけじゃなく、ルールも守ってるのに一方的に凍結されて。あの時は頭にきて、ブログでもインスタでも怒りまくって、使える人全部使って抗議したら3日で回復した(笑)。
大概さ、そういうチェックやってるのってブスなのよ。
──ブスというのは、物議を醸しそうな…。
石川 いや絶対そうだって。不倫とかに怒る人もだいたいブス。自分もモテたいけど、不倫したいけど我慢してるのに、そんなの最低、ってさ。それで自分に関係ないことに怒ったりするんだよ。「何人もの男に言い寄られたこともないお前に、その子の気持ちなんてわかんねーだろ」って思う。
これは笑いごとじゃなくて真面目な話で、今の日本のほとんどがそういうことだと思うよ。
──では、石川さんはブスはどうすればいいと思んですか?
石川 個性を大事にしないと。みんな一緒じゃなきゃいけないなんて、無理。権利は平等だけど、持って生まれたものは不平等だっていう純然たる事実は、どんなに綺麗ごとで取り繕おうが存在するから。
「みんながみんな平等だなんて嘘だ」ってことをちゃんと学校で教えなきゃいけないと思うよ。そういう認識でいないと、今の社会でも生き残れないでしょ。
そこからスタートすれば色々楽じゃない? みんな一緒じゃなきゃいけなかったら、美人とブスの格差は余計広がる。みんなそれぞれ個性があるんだから、それを武器にすれば自信もつくし、いちいち他人のこと気にならないでしょ。
これだけ可愛いにょみちゃんが、それでも自分は医者としてやっていくってブレずに社会で勝負しようとしてるわけじゃん? しかも、親御さんから医者になれって言われたわけでもなく。
にょみ 一切言われてないです。父は開業医なんですが、むしろ、中学までは体力づくりが大事だから勉強なんかするなって言われたくらいです。それで逆に危機感が募って勉強しました(笑)。医者の道を選んだのも自分です。兄も医学部を卒業しましたが、今はダンサーとして世界で活躍してます。
石川 ね。結局、自分の意思がないのが一番ダサいんだよ。隣の人と意見が違っても、自分の価値観でいいものはいいと言える人がカッコいいと思うよ。
逆説的だけど、意見も価値観も違う隣の人を認めるには、そもそも自分の中にちゃんと価値観がないとできない。
自分にポリシーがない人は、他人も認めれない。「最近の若い奴は」とかリアルで言う人いるけどさ、にょみちゃんみたいな若くて優秀な人は増えてる。むしろ若い子の方が優秀だし面白い。
他人のことにいちいち腹立てる価値観のないブスがいなくならないから、週刊誌も食えてるわけよ。不倫とかくだらないことにばっかり気をとられていれば、そりゃあ日本と世界との差は開くしかなくなる。
──テレビもWebメディアも、結局視聴率やアクセスが一番稼げるのは芸能ニュースだと言われていますね。 石川 この間話題になったウーマンラッシュアワーの漫才もさ、最後に村本くんが「(本当に危機を感じなければいけないのは)お前らのことだ」って言ってて、まさにそう。今度#FR2でも「I’m talking about you.」っていうTシャツ出そうかな(笑)。
──ウーマンラッシュアワーは賛否両論でしたね。
石川 ウケるかウケないかっていうより、自分が面白いと思ったから村本くんはあの漫才をやった。これまで「#FR2」で問題になった商品も、売れる売れない、怒られる怒られないよりも、俺が面白いと思ったからやっただけ。
90年代のファッションも、YouTuberもSupremeもそうだけど、自分の中に基準があって、世の中の流れや周囲のリアクションみたいな既存の枠組みとは関係なく新しい形を生み出す動きのことをストリートって言うんだよ。
──日本でその動きは起きていますか? 日本では、周囲のリアクションを気にしないどころか、基本的に海外である程度評価されたものに火がつくじゃないですか。
石川 日本人は自分から取捨選択することができないから。売り手として考えるなら、日本人の動向は無視して世界で売れれば、自然と日本でも売れるっていうことなんだよね。
どこにも接続してない島国ということは影響していると思う。他の国の多くはみんな地続きだから、色んな肌の色の人がいて、いろんな国籍の人が当たり前に一緒にいる。日本では、人と違うことに慣れていないし、違うとすぐいじめられる。
でも、まだそこまで大人が介在してないインスタみたいな場所があって、そこではにょみちゃんみたいな若い子たちが自分たちだけの基準で価値判断してる。だから、そこにストリートがあるって思うんだよね。
特集「2018年のストリート」
KAI-YOU.netが送る特集第3弾「2018年のストリート」は、1月中に更新予定。
記事一覧と更新予定記事の予告は、特設ページから。続々更新していきますので、ご期待下さい!!
2
この記事どう思う?
関連リンク
石川
株式会社せーの 代表取締役社長
1975年神奈川生まれ。静岡育ち。2004年よりVANQUISHをスタート。
@vanquishceo(Instagram)
@fxxkingrabbits(Instagram)
能見真優華
医大生/フリーモデル
医大に通うかたわら、「にょみ。」の愛称で知られるモデルとしても活動。事務所に所属せず、フリーモデルとして活動を続ける。
テレビ番組で佐々木希のそっくりさんとして紹介されたり、Webメディアにたびたび取り上げられ、現在、自身のInstagramのフォロワー数は22万人を超えるまでに。
@nyon514(Instagram)
0件のコメント