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AC部が語る18歳選挙権の拡げ方「選挙広報のイメージをくつがえしたい」

AC部 (左)板倉俊介さん、(右)安達亨さん

東京都選挙管理委員会が7月の参議院議員選挙を前に「18歳選挙権」のPRキャンペーンとして展開した「TOHYO都」。

関連企画としてヒップホップイベント「TOHYO CYPHER」が新宿駅前で行われるなど、若者を強く意識した施策が打ち出される中、「TOHYO都」公式Webサイトのビジュアルとプロモーション映像を担当したのが、音楽ユニット・group_inouのMVや「鳩に困ったら雨宮」のWebCMで知られるデザイングループ・AC部だ。
TOHYO都プロモーション動画
PR映像ではタレントのぺこさんとりゅうちぇるさんが登場し「18歳から選挙権!」と連呼。これに対し世間では「バカにしている」「税金の無駄遣いだ」などと辛辣な非難や批判的な報道までもが殺到。

しかし、ふたを開けてみると、東京都の18・19歳の投票率は全国平均を上回り、その一翼を担ったといっても過言ではない。今回はそんなAC部のメンバーである安達亨さん、板倉俊介さんにインタビュー。

初の炎上体験になったという「TOHYO都」の話題を中心に、唯一無二で中毒性の高い作品がどのようにして生まれるのか、話を聞いた。

AC部は会社にもしていない いまだに“部活”という感覚

AC部 (左)安達亨さん(右)板倉俊介さん

移転したばかりの共同オフィスにて/(左)安達亨さん(右)板倉俊介さん

──今回炎上騒動にまで発展した「18歳選挙権」のPR動画で、はじめてAC部の名前を知った人も多いと思います。そもそもAC部は、どんなグループなのでしょう?

安達 1999年に多摩美術大学の同期3人で結成した“部活”です。こってりした絵を過剰に描いていくスタイルで、ジャンルは問わずイラストやアニメーションを制作しています。

板倉 もう1人の安藤というメンバーは新卒からゲーム会社に就職しているので、現在は仕事として制作をしているのは僕と安達の2人ですね。

安達 僕らの場合、互いの役割みたいなものは特に決まっていません。音楽は僕がやりますけど、それ以外は自由に分担しています。例えば、作品に自分たちで声をあてるときも、声質の合う方が担当します。
未来は、ヤバイ
──仕事として受注をするようになったのは、いつ頃からですか?

板倉 大学を卒業して、半年くらい経ってからです。大学3・4年の頃の先生だったアートディレクターの中谷日出さんが、NHKの番組「デジタルスタジアム」で、当時司会をしていたんです。僕らが授業でつくった作品を番組で何度も取り上げてもらったのがきっかけで「みんなのうた」や「ビットワールド」など、その後の仕事にもつながっていきました。

安達 とはいえ会社にもしていないので、いまだに部活という感覚なんですよね。

──仕事というより部活という感覚が強いんですか?

安達 趣味と仕事が一緒になっている感覚もあったりして、常に作業をしてる感じ。ON・OFFという概念もあまりなくて、映画を観てても、何かしら役立てようとしちゃう。毎年正月だけは数日休むんですけど、そうするといつも休み明けの調子がなかなか上がらないので、なるべく完全には休まないようにしてる感じです。

板倉 僕は仕事をしている感覚はありますけどね(笑)。
group_inou / THERAPY
──AC部が手がけた作品の中でもgroup_inouのMVはより強烈なインパクトを残してますよね。

安達 今現在も「THERAPY」のMVに出てくるキャラクター「イルカくん」のグッズをつくっているんです。

板倉 映像だけでなく、Tシャツやガチャガチャなど、モノをつくって売ることが増えてきました。それを通じて、色々な方と関わることができるので楽しいですよ。

「作品=自分」という感覚を切り離すことで、突き進める

AC部 (左)板倉俊介さん(右)安達亨さん 2 ──AC部の作品は絵のテイストを含め、どこか懐かしさを感じます。そういったレトロ感や昔っぽさは、どこから来ているんでしょう?

安達 大学時代、よく3人で古本屋をめぐっていて、名前も知らない昭和の劇画時代の漫画をジャケ買いしていたんです。それらを読んだり模写したりして、昔の作品だからこその違和感みたいなものを抽出していたんです。絶妙なヘタさをだすため、完璧にコピーするのではなく、いい具合のところでキープするんです。

──アニメーションの動きも不自然にゆがんでいたり、何度も繰り返されたり、非常に印象的ですよね。

板倉 個人的には、「脳に刺激がくる映像は何か?」を考えてつくっています。すごく感覚的な話なんですけど、「これは刺激を与えられる!」と確信してつくる場合もあるし、頑張って描いても映像にしてみると「普通だった……」というときもあります。

──他人の脳に刺激を与えるかどうかを判断するというのは難しそうですね。

板倉 それを判断できるようになるまで、葛藤もありました。もともと自分は本当はすごくきれいな作品が好きで、ぐちゃぐちゃした作品は生理的にダメなんです(笑)。

PCのデスクトップとかデスク回りもきれいにしとかないと嫌で、そういう意味では、私生活と作品にギャップがある。妙な違和感に気付くためには、自分が正常な状態でいなければと思うんです。

作品はあくまでもAC部の作品。つまり「作品=自分」という感覚を切り離していくことで、突き進めるようになりましたね。そういう意味では、最初は作品に自分の声をあてるのにも抵抗があったんですが、「自分の声はただの素材なんだ」と考えるようになってからはまったく気にならなくなりました。
板倉さんのデスク

「情報量が多いのは作品の中だけにしたい」という板倉さんのデスク

安達 無意識に形を整えちゃうこともあるし、うまく描いたりしたくなっちゃうけど、あえてそうしない。僕らは「作品で自分を表現する!」みたいなアーティストではないのかも。

──アニメの特徴的な動きは、ご自分たちで実際に動いてみたりするんでしょうか?

安達 それはないですね。アニメの場合、描いているときは、いくら想像しても最終的にどうなるかわからない。だから描いたものをPC上で動かしてみることで、客観性が生まれている気がします。

コマ数をたくさん描けばいいというものでもなくて、After Effects上で動かしたほうが面白い動きになったり、自分でコントロールしきれないくらいのほうが面白くなりますね。

※映像のデジタル合成やモーション・グラフィックス制作などを目的としたソフトウェア
安達さんのデスク

絵コンテ作業中の安達さん

──素材が作品の世界観にあわなかったりすると、つくり直すこともあるんでしょうか?

板倉 調整はしても、つくり直すことはしないですね。正直、納期直前はアドレナリンが出てるので、納品したタイミングでは満足してるんです。でも、あとで考えてみると「あれは失敗だったな」というのはあります。

安達 逆に「ちょっと失敗しちゃった……」と思って提出したものでも、褒められたら「まぁ、これで良かったんだな」とか思ったり(笑)。

──すごく褒められた作品にはどんなものがあるんですか?

板倉 最近だと「鳩に困ったら雨宮」のCMですね。業界関係者でも知っている人が多かったですし、長年まったく連絡をとらなかった友人からも「見たよ!」って言われたり(笑)。ORANGE RANGEのMV「SUSHI食べたい feat.ソイソース」も、「鳩」がきっかけでお話をいただいたくらいですから。
鳩に困ったら雨宮
ORANGE RANGE - SUSHI食べたい feat. ソイソース

とにかく選挙に興味を持ってもらうためのPR「TOHYO都」

「TOHYO都プロモーション動画」スクリーンショット

「TOHYO都プロモーション動画」スクリーンショット

──それでは、大きな話題となった「18歳選挙権」のPR動画についてですが、初の行政との取り組みということで、プレッシャーはありませんでしたか?

安達 コンペ形式だったので、いつも通りに制作する感覚でした。お話をいただいた代理店も「従来の選挙広報のイメージをくつがえしたい」という意識が強かったんです。

打ち合わせをしていく中で、選挙に対する理解を深めるよりも、まずはせっかく選挙権がもらえる年齢が18歳以上に引き下げられたんだから、「とにかく投票に行ってもらう」という点を打ち出そうと提案しました。

板倉 数ある候補の中からAC部を選んでいただき、僕らのやり方がある意味認められたということなので、とても光栄に思いました。それと10年以上、Eテレで子供番組をつくってきた経験もあるので、18・19歳に向けたプロジェクトということで、特に気負うこともなかったですね。
「TOHYO都プロモーション動画」スクリーンショット 3

「TOHYO都プロモーション動画」スクリーンショット

──動画にも登場する東京都非公認キャラクター「東京都くん」にもクライアントの要望が反映されているのでしょうか?

板倉 「東京都くん」はAC部のオリジナルです。“非公認”としておけば大丈夫だろうと提案したんですよ。

安達 「東京」の文字をモチーフにしたキャラクターなんですけど、わかりますかね? 案外、ネット上では「コンドームをかぶっているみたい」などと誤解されていたりしますが……。

板倉 あえておもしろおかしく言ってるんだと思いますけどね(笑)。

行政との仕事も炎上も初体験となったAC部

AC部 (左)板倉俊介さん(右)安達亨さん ──動画を公開してからの反響はいかがでしたか?

板倉 5月に公開した第1弾は大きな反響がありました。その後、7月頭にもっとプロモーションの意図をわかりやすく盛り込んだ第2弾の動画を公開したんですが、そちらはあまり拡まりませんでしたね。

──賛否両論ある中、AC部としては批判をどのように受け止めていますか?

板倉 この映像の目的は、18歳から選挙権がはじまったことをシンプルに伝えることですよね。いろいろと批判をいただきながらも、伝えたいことは拡げることができたと思います。

結果的に、東京都の10代の投票率は、他県に比べて高かった。多少なりとも力になれたのではないかと思いますし「税金を無駄なことにつかっている」と頭ごなしに言われてしまうのは、ちょっと残念ですね。

※参院選の東京都の18歳の投票率は60.53%、19歳は同41.44%。いずれも全国平均である51.17%(18歳)、39.66%(19歳)を上回った。

──ある意味で、東京都が狙ったポイントと映像との親和性は高かったのかもしれませんね。

安達 動画のテーマが「選挙」なので、受け手が自分のこととして捉えることで批判も多かったのかな。今まで僕らの映像は、興味のある人だけが見てくれていて、そうでない人からはスルーされていたのだと改めて気付かされました。

板倉 僕らとしてはまったくその気はないのに「18歳をバカにしている」という意見も多かったです。

相手の考える「AC部像」を密かに読み取ろうとしています

AC部 (左)板倉俊介さん(右)安達亨さん 3 ──最近では、日本アニメ(ーター)見本市『月影のトキオ』や西友のCM「未来は、ヤバイ」。さらには「NHK紅白歌合戦」で関ジャニ∞の背景映像を担当するなど、活動も多岐にわたっていますよね。

板倉 日本アニメ(ーター)見本市は、もともと神風動画さんと仕事をすることが多かったこともあり、声をかけていただきました。

──作品の部分的なパートを担当するということで、いつもと違った苦労はありましたか?

安達 求められているテイストを全力で出していくだけだったので、ある意味気楽でした(笑)。それだけで、自然と神風動画さんのテイストとのギャップが生まれて、面白くなるという。

──AC部が求められている作品について、自分たちではどのように考えているのでしょうか?

安達 いまだに自分たちでもつかみきれてないですね。「TOHYO都」の評判もそうですけど、見る人の立ち位置やこれまで見てきたものによって、見え方がまったく違う。

何をもって“AC部っぽい”とするのかというのは、クライアントによっても違うので、打ち合わせでは、相手の考える「AC部像」を、密かに読み取ろうと集中しています。

──一貫した制作の方針があると思っていたので意外です。特に2015年に開催された個展「部室大公開」では、AC部像が集結していたように感じました。

板倉 AC部は仕事を受注してつくる作品ばかりなので、個展といわれてもあまりピンとこなかったんです。ですが、せっかくギャラリーの方に声をかけていただいたので、やりましょうとなって。結果的には、展示に向けてけっこう新作をつくりました。壁に飾るイラストや印刷物、原画などを用意して、空間を埋めていく感覚でしたね。
高速紙芝居「安全運転のしおり」
──「高速紙芝居」は、2014年文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で受賞されていますよね。

安達 もともとは、知り合いがやっている紙芝居イベントに誘われて、それに向けた作品としてつくりはじめたんです。以前、他の紙芝居作品をYouTubeで見たときに、「遅いな……」と感じたことがあって、そこから高速紙芝居のアイデアを思いつきました。

板倉 何が原因かというと、一言しゃべり終わってからめくるという動作が、映像やアニメーションとして見ると、枚数の少なさもあって、もったり感が出てしまう。

それを解消するために、めくるスピードを速くするのはもちろん、絵は見えてなくても、タイミングよく声が入っていれば成立すると考えたんです。

──観客を目の前にしてのパフォーマンスはいかがでしたか?

板倉 最近も、Eテレの「テストの花道 ニューベンゼミ」という番組で、高校生の前で披露したんですけど、みんな驚いてましたね。

安達 「会場が湧くってこれか!」と……波動が押し寄せてくるみたいな(笑)。リアルタイムで反響があるのはライブならではですよね。

AC部 // エーシーブ

デザイングループ

CGアニメーション制作チーム「AC 部」は、安達亨、板倉俊介、安藤真が多摩美術大学在籍中の1999年に結成。テレビ番組やCM、ミュージックビデオなどを中心に、暑苦しいリアルなイラストレーションをベースとする、濃厚でハイテンションなビジュアルを様々な媒体に植え付け、人々の固定観念を破壊し、そして新しい視聴覚体験をもたらすことを目指している。

主な作品:group_inou MV「THERAPY」、株式会社雨宮 CF「鳩に困ったら雨宮」、ORANGE RANGE MV「SUSHI 食べたい feat. ソイソース」、オリジナルショートムービー「海女ゾネス」、高速紙芝居「安全運転のしおり」、GIFマンガ「ENJOY YOUR TRIP」、西友CF「未来は、ヤ◯イ。」、NHK紅白歌合戦「関ジャニ∞/前向きスクリーム!」、東京都選挙管理委員会CF「TOHYO都」など。
主な受賞歴:「ユーロボーイズ」NHKデジタルスタジアム デジスタアウォード2000 グランプリ/「安全運転のしおり」第18回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品 /「鳩に困ったら雨宮」突破クリエイティブアワード2015 審査員特別賞

AC部

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著者 : AC部
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価格 : 1,080円(税込み)
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