おやすみホログラム ワンマンLIVEレポ 混沌を支えたバンドの解体

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おやすみホログラム ワンマンLIVEレポ 混沌を支えたバンドの解体
おやすみホログラム ワンマンLIVEレポ 混沌を支えたバンドの解体

「一人用のイスを二つ二人に用意しろ」 (THA BLUE HERB 『北部戦線異常なし』)

6月15日、渋谷TSUTAYA O-WESTにて、アイドルユニット・おやすみホログラムの2回目のワンマンライブが開催された。

おやすみホログラムとは、カナミルと八月ちゃんからなる2人組のユニットである。

女性ツインボーカルの日本のロックバンドだと言っても嘘にならないような気もするが、2人はアイドルである。そんな言い方で紹介できてしまえるくらいおやすみホログラムにとって、バンドは重要な役割を担い続けてきた 度重なるメンバーの脱退や解雇を経て、最終的に今の2人に落ち着き、新メンバーの募集も打ち切った。そして、バンドセットでのライブをはじめたのである。

「どうしておやホロでバンドをはじめたんです?」とワンマンの後日、僕はプロデューサーの小川さんに質問した。「彼女たちを強くする選択肢として、バンドしかなかった」のだという。

チケットは前日までにソールドアウト。そして、おやすみホログラムのバンドセットは今回のワンマンをもって解体となった。2回目のワンマン「2」は、一言で言うなら“おやすみホログラムバンドのラストライブ”と形容できる。

同時にこれからのおやすみホログラムを、ワンマンのはじめに3曲だけ行われたオケのライブと、アンコール最後の曲として披露された新曲によって何処となく匂わせた。

僕、ハハノシキュウは、おやすみホログラムがバンドをはじめる少し前から、1曲だけラップ参加という形で彼女らに携わってきた。

そんな僕にしか書けない温度で、彼女らの今日までのこと、今日のこと、今日からのことを語らせてもらう。ただし、その温度も熱を帯びてしまう可能性が非常に高い。

文:ハハノシキュウ 写真:市村岬

振り付けありで披露されたおやホロ定番曲

ワンマンがはじまると、3曲だけオケでライブが行われた。定番曲「too young」「note」「ニューロマンサー」だ。特筆すべきことに披露されたこの3曲には振り付けがついていたのだ。

アイドルにとって振り付けは必要不可欠な要素である。あるいは、振り付けがあるからアイドルと呼べると言っても過言ではない。

そんな振り付けがおやすみホログラムにはかつて、あった。あったのだけど、気付いたらなくなっていた。

振り付けをできないくらいにライブが激しかったのかもしれない。振り付けをしない方が激しくライブができるという理由からかもしれない。そんな予測を小川さんに聞いてみた。「最初から振り付けに力を入れる気はあんまりなかった」そうだ。

実際にかつて振り付けがあったのは本当に初期の曲だけで、2枚目の自主制作CDRに収録された「machine song」以降は振り付けがなかった。

1曲目の「too young」がはじまるなり、観客からはミックスの嵐で、笑ってしまうくらい誰も振り付けを、なんならステージすら観ていなかった。なんだか、おやホロらしい現象である。

カナミル

この時、赤いスプリング状の飾りを花火のように頭に巻きつけたカナミルの髪型が、このワンマンに対する気合いをそのまま具現化していたようにも見えた。

2曲目の「note」も3曲目の「ニューロマンサー」も彼女たちのキラーチューンであり、荒ぶっていた観客の波にもつれ合いながらも、たどたどしい振り付けをこなしていく。

八月ちゃん

そしてオケセットが終わると、八月ちゃんは「3曲、振り付け有りでやったんだけど、みんな見てなかったでしょ?」と笑いを誘っていた。

おやホロバンドのラストライブが開幕

そして、ようやく最後のバンドセットのスタート地点である。

僕より前からサポートで入っていたサックスの福山タクを筆頭に、ギターは箱庭の室内楽のフロントマンであるハシダカズマ、ベースはTHE DHOLEの小林樹音。この3人はおやホロバンド結成時から変わらない初期メンバーである。

そんな彼らに加えて、ギターの上野翔、ドラムの高石晃太郎、そしてバイオリン(キーボード他)の百瀬巡。そして、プロデューサーであるオガワコウイチもギターを肩から下げる。

このメンバーが全員一度にステージに上がるのは初めてのことである。

バンドメンバーを呼び込む時点で、その盛り上がりはまるで全員が全員、アイドルであるかのようだった。百瀬巡には、登場前から「も・も・せ!」コールがはじまるなど、物凄い昂ぶりがあった。

百瀬巡

その時、カナミルの足元に観客席から何やら袋が投げ込まれる。カナミルがそれに触れようとすると「お前じゃねぇ、百瀬への差し入れだ!」と投げ込んだ本人の声が響き、会場は笑いに包まれた。

これもなんだか、おやホロらしい現象である。多分、アイドル側がツンデレな態度でファンに接するのではなくて、ファン側がアイドルにツンデレな態度をとるのがおやホロっぽいところなんだと思う。好きな女子に冷たくしてしまう男子生徒のように。

そして、最後のバンドセットは、定番曲「machine song」から火蓋を切る。この曲以降は、いつもどおり振り付けのないパフォーマンスだった。 バンドセットの3曲目「last dance」では、主役の2人よりもバンドメンバー各々の自己主張が交錯する。この曲はかつてポエトリーリーディングや、それこそ僕のラップが間奏に入っていた曲であるため、歌のない箇所が長めにとってあり、楽器隊がソロをとったりすることができるのである。

福山タクのサックスと百瀬巡のバイオリンがせめぎ合い、その横では小川さんがギターを高く持ち上げて、まだ序盤だというのにこの曲でラストなんじゃないかと思わせるほどのテンションで六弦をかき鳴らしていた。

短いMCを挟みながら、9人フルメンバーでのバンドセットが終わりへと近づいて行く。もう、このメンバーでライブをすることは無いだろう。

最初で最後、この日初めてバンドバージョンで披露された2ndアルバム『2』収録の楽曲群も、惜しげなくモッシュピットに吸い込まれていく。

僕はその様子を2階席から眺めていた。

おやホロ、NATURE DANGER GANG、そしてHave a Nice Day!を追った映画『モッシュピット』にて、モッシュの風景を天井カメラから写すという手法をとった場面があった。多分、それに近い視点で僕は内側を覗き込んでいた。思えば、僕はいつもモッシュピットの外側にいた。
映画「モッシュピット」特報1
年齢は関係ない。モッシュをするには年齢を取りすぎてるなんて言って謙遜する人がいたりするが、2階席から眺めた光景におさめられたのは、ほとんどが僕より年上の人生の先輩たちである。また、サーフしてステージ前まで流れついてくる女性の姿だってあった。性別だって関係ない。

ステージの上の熱気にも、ステージの下の熱気にも、同じくらいの羨ましさがあった。 この日、2回目の「note」がバンドセットで披露された。「note」はおやすみホログラムが現在の2人体制になってから初めての新曲で、ライブの最後に歌われることが多かった思い入れの深い曲である。2人になってから初めてのMVもこの「note」だった。

1回目は振り付け有のオケバージョンだったが、やはり生演奏だと同じ曲とは思えない程の音圧と、それに呼応した観客の声の大きさが理想的な相互関係を持って「note」を特別にする。そんなバンドバージョンの「note」における最後の大サビがはじまると2階席にまでその揺れが伝わってきた。

あっという間に最後の曲「誰かの庭」までセットリストが進んでしまい、また短いMCを挟む。「今日で最後なんですよ!」と八月ちゃんがバンドセットの終焉を言葉にした。 この日は終始、笑いの絶えない現場だった。しかし、ここに来て八月ちゃんが堪え切れずにMCで泣いてしまう。「ダメだこりゃー」なんて言いながら、涙を抑えていたダムが決壊したみたいだった。

その瞬間に「あっ、本当にこのメンバーでやるのは最後なんだ」と頭ではなく、心で実感したのを覚えている。

そして「誰かの庭」の演奏は小学生にとっての夏休みのように終わってしまった。

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