今回、機会をいただきまして、2月5日に渋谷ユーロライブにて開催された、AVメーカーのHMJM(ハマジム)によるイベント「HMDfes ハマジム音楽ドキュメンタリー映画祭」の初日に行ってきたので、そのレポートを書いていきます。
テレクラキャノンボールで話題のAVを超えた映像集団
テレクラキャノンボール2013 特報YouTube
カンパニー松尾監督は、AV界に「ハメ撮り」という監督自らカメラを持って撮影する手法を定着させた第一人者。「つまらないAVは見たくない」を標榜し、多くの作品を発表しています。
AV自体は観たことがない方でも、カンパニー松尾監督が手がける『テレクラキャノンボール』という作品の名前を聞いたことがある人は少なくないかもしれません。 『テレクラキャノンボール』とは、参加者である複数のAV監督たちが決められたゴール地点へ車やバイクで向かい、その旅の途中で女性をナンパし、ナンパした素人女性とのSEXをそれぞれ撮影する、という企画作品。
その中で、ゴール地点への到着順やナンパした女性の属性に応じて付与されるポイントで順位を競う、というレース仕立てになっています。
付与されるポイントには趣向が凝らされており(ネタバレも含むので、ご興味がある方はぜひ本編をご覧ください)、ナンパした素人女性とのSEXをただ撮るだけではなく、順位を競うため、監督たちがなりふり構わず様々なことに挑戦する様子が時に笑いを誘います。
一方で、時に感動をも呼ぶその面白さは、地上波バラエティでオマージュされたり、『劇場版 テレクラキャノンボール2013』が映画館でロングラン上映されたりと、ハマジムは、AVというジャンルを超えて注目を集めている話題の映像集団です。 今回の「HMDfes」は、そのハマジム所属の監督陣が撮影した、「音楽にまつわるドキュメンタリー映画を上映しましょう」というお祭り。わたしは1月の告知で開催を知ってから即、3日間すべての予約をしました。
その主な目的は……
『モッシュピット(仮)~プロローグ』を観にいくため!
東京アンダーグラウンドシーンを代表するアイドルとバンド
『モッシュピット(仮)』は、自らの生活を自身で撮った『遭難フリーター』や、仙台が震災後初めて迎えたクリスマスの様子を映した『サンタクロースをつかまえて』などで知られる岩淵弘樹監督による作品。いわゆる「東京アンダーグラウンドシーン」を担うアーティストたちであるディスコパンクバンド・Have a Nice Day!(以下「ハバナイ」)、カオティックバンド・NATURE DANGER GANG(以下「NDG」)、アイドルユニット・おやすみホログラム(以下「おやホロ」)のオンステージとオフステージを追ったドキュメンタリー映画です。
Have a Nice Day!×おやすみホログラム/エメラルド
最もロマンチックな夜だったハバナイのパーティ
そんな3組を映した『モッシュピット(仮)』は、ステージではハチャメチャで無軌道に見える彼ら3組の活動をとてもエモーショナルに描いた作品。わたしは、ハバナイが2015年11月18日に開催したリリースパーティの様子も収録されていると聞き、予告編がYouTubeに公開されてから、この日を待ちきれずにおりました。
というのも、この11月のリリースパーティは『モッシュピット(仮)』において重要なシーンであり、わたしもその現場にいたからなのです!
昨年、ハバナイはクラウドファンディングを使い、支援者へ3rdアルバム『Dystopia Romance』をリターンという形でリリースする、という異例の流通方式を採り、さらに目標額を達成した場合、恵比寿・LIQUIDROOMで行うアルバムリリースパーティの入場料をフリーにすることを発表し、話題になりました。
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その日のハバナイのリリースパーティは、わたしにとって今まで生きてきた中で最もロマンティックな夜、と言っても過言でもないくらい、多幸感と興奮に満ちたパーティでした。
そして、リリースパーティ直後にその夜の様子が映画として公開されることが発表され、続報を待ちわびていたところに届いたのが、この『モッシュピット(仮)』だったのです。
モッシュピット予告YouTube
『モッシュピット(仮)』にすべての思考を持っていかれた
さて、話を「HMDfes」に戻します。初日である2月5日は、この『モッシュピット(仮)』以外にも『劇場版 どついたるねんライブ』や、おやホロのMV「誰かの庭」のメイキング、それに絡めたトークタイムなど、盛りだくさんのコーナが展開されていました! 上映開始は18時、終了が21時50分。こんなに長丁場だとレポートに書くことがたくさんありすぎて困りそうだな……と思っていたし、現に『モッシュピット(仮)』が上映されるまでは、その嬉しい悩みをどう解決しようか、ずっと考えていました。ところが観終わったあと、
思考のすべては『モッシュピット(仮)』に持っていかれました。
『モッシュピット(仮)』で描かれている東京アンダーグラウンドシーンの面白さ、切なさ、関わるアーティストたちの才能と、それを映像として抉り出そうとするハマジム監督たちの狂気みたいなものに圧倒されて、今もそのことしか考えられていません。
「東京アンダーグラウンド」
言葉にしてしまえば単純なひとつの音楽シーンではありますが、その向こうには数えきれない人がいて、思いがあって、音がある。そして彼らのすべてをかき集めた上にわたしたちオーディエンスの熱狂があってシーンが成り立っている。
実際のライブ現場に飛び込んでしまうと、ただただそこに集まる人たちの熱気と迫力に圧倒されてあっという間に終わってしまう時間を、ドキュメンタリーというかたちの「映像」に定着させることで、一歩引いた目で観ることができました。
一歩引いて観ているのに冷静になるどころか、俯瞰で観ることでステージには上がらないけれど、彼らと関わる人たちのこと、ステージでは見えない(見せない)アーティストの表情、モッシュピットに集まり暴れる人々の熱狂、興奮、忘我、そのすべての情報が時間軸を超越し、音と映像としてまとめて脳内にねじ込まれて、その晩限りの「瞬間」でしかないライブの興奮を、永遠に感じられるような錯覚すら覚えました。
永遠に続くその「一瞬」を作り出すために彼らの苦悩があり、熱狂がある。
彼らの犠牲の上にわたしたちの瞬間の永遠があり、それが熱狂となるのだ、と思うと、なんという時代だと思います。なぜなら、その熱狂は、すぐそこで、東京のそこかしこで、今も、むしろ今夜も発生しているからです。
東京のそこかしこで発生している熱狂、それはまだごく小さな萌芽ではあるけれども、確実に存在していて、その存在に気付いて魅了されている人がどんどん生まれ始めているのが、今の「東京アンダーグランド」なのだと思いました。
そしてその瞬間を切り取るのに、ハマジムという稀代の映像集団が魅力を感じて動いているのも、また必然なのだと思います。
モッシュピットでの熱狂や快楽はSEXと非常に似ていて、他者との交感を通じてでしか発生しません。
それはこの映像に収められているオーディエンスの恍惚とした表情が証明してくれているのではと思います。それを撮影しているのは、SEXを撮ることのプロであるAV監督たち。
「なぜライブシーンをAV監督が撮影するのだろう?」
初めはずっと疑問に思っていたのですが、モッシュピットの熱狂や快楽とSEX、この2つの共通点を考えた結果、これ以上の適任はない、と腑に落ちました。
熱狂する男女の表情を撮影し続けてきた彼らであれば、間違いなく良い表情を、その瞬間の空気をとらえてくれるはず。そう思うと彼らの映像作品への期待は否応なく高まってしまうし、その期待に彼らは必ず応えてくれると信じています。
わたしがこのプロジェクトの存在を知ったのは、去年の11月でした。
そのときに感じた「これは東京で今、何かが始まっているのでは」という空気は間違いではなく、この映像を観ることで「何かが始まっている」感触は、確信に変わりました。
「東京アンダーグラウンドシーン」でエメラルドのように輝きを放つ彼らが、これからより多くの人たちに「見つかる」ことで、シーンがどう変わっていくのか。
果たしてそれは彼らに福音をもたらすのかどうか。ムーブメントに段階があるとしたら、彼らはまさに今「はじまり」の時期なのだと思います。そして今回の「モッシュピット」は、その「はじまり」の時期の「終わり」を予感させるものでした。
東京で繰り広げられている熱狂がシーンの外に見つかる。そのきっかけが、この『モッシュピット(仮)』であり、カンパニー松尾監督率いるハマジムが、彼らに恋をしたことだと思います。 対象物をセクシーに撮ることに関しては当代一のAV監督たちが、彼らをこれからどう撮影していくのか。その映像作品が世に公開されることで、彼らはこれからどんな変化を見せていくのか。その「瞬間」を見逃さないでいたいと思います。
岩淵弘樹監督の『モッシュピット(仮)』、本編は2016年5月目標で鋭意編集中とのことなので、刮目して相待すべし!!!!
今日はそんな感じです。
チャオ!
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作品情報
『モッシュピット(仮題)~プロローグ』
- 公開日
- 2016年60分予定/HDV*劇場版は2016年公開予定!
監督/岩淵弘樹
プロデューサー/カンパニー松尾
出演/Have a Nice Day!、NATURE DANGER GANG、おやすみホログラム
撮影/カンパニー松尾、堀井修一、岩淵弘樹、タートル今田、梁井一、アキヒト、井上祐太、エリザベス宮地、黒田悠斗、morookamanabu、手汗太郎、カズキ、田中友二、杉山祐樹、坂巻裕太、平井侑馬、松田航平
<あらすじ>
2015年9月、青森県で行われたロックフェス”夏の魔物”に一台のバスが到着した。
降りてきたのはNATURE DANGER GANG、おやすみホログラムのメンバーと、シークレットで登場するHave a Nice Day!。彼らは新宿LOFTを中心にロックファン、アイドルファンを巻き込んだ新たなシーンを作り、夜な夜なオールナイトのパーティーを繰り広げていた。さらにHave a Nice Day!の主宰、浅見北斗は11月に恵比寿リキッドルームで巨大なフリーパーティーを開催することを目論んでいた。新アルバムをクラウドファンディングという課金システムで販売し、その売り上げ100万円を投じて入場料無料のパーティーを開催する。
リキッドルームのキャパシティは1000人。通常、彼らのライブの集客は多くて200人。浅見はギリギリに張り詰めた精神状態でライブ、音源制作、プロモーションをはじめる。同時期にNATURE DANGER GANGはメンバー脱退という大きな困難を迎える。2015年11月18日、恵比寿リキッドルームフリーパーティー当日。メンバー、ファンはそれぞれの思いを抱え、総勢17台のカメラが彼らを追いかける。はたして浅見が思い描いた巨大なモッシュピットはどんな光景となるのだろうか。
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hase0831
会社員 兼 ブロガー
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