ライバーだけでなく、リスナーにもキャラクター性が宿る

ねむ 真辺さんは「IRIAM」の配信を観にいくとき、どういう存在として見にいくんですか?

真辺 実は僕、「IRIAM」のアカウントをいくつか持っていまして。いちユーザーとして匿名で配信を楽しんでます。

でも不思議なことに、そのアカウント一つひとつに全然違うキャラクター性が宿っているんですよね。

例えば一時期、自分の周囲で、会話の絶妙なタイミングで急に「エモい」というギフトを贈るくだりが流行ったんです。当時の僕は「エモい」を贈りすぎて、そのアカウント自体が「エモいの人」として認識されてしまって(笑)。

僕にとってそれは、あらかじめ人格があってそれを押し通したわけではなく、コミュニティの文脈の中でキャラクターが出来上がっていくという体験なんです

ねむ それは少人数のコミュニケーションならではですね。人気のVTuberだと、リスナーは大人数の中の一人になってしまいますし。

「IRIAM」では、ライバーとリスナーが会話形式のゲームをすることも多い

ねむ それに、VRSNSではアバターを選ぶ段階で“これが私です”と定義するところからはじまりますが、「IRIAM」は受動的にコミュニケーションを重ねるうちにキャラクターが浮かび上がる。

なりたい自分のイメージをはじめから持ってる人は多くないと考えると、VRSNSのような形って普通の人には難易度が高いんですよね。

アバターのあるライバーさんがリスナーさんを引っ張って、共にアイデンティティを確立していくというのは、入口のハードルが低いという点で、多くの人に受け入れられやすそうだと思います。そこからライバーになる人もいそうですね。

真辺 実際、「IRIAM」には“リスナー兼ライバー”という方が非常に多いです。あるコミュニティの中で認知されているリスナーさんが、そのキャラクター性を活かしてそのままライバーデビューする例なんかも見かけます。

実は「なりたい自分」があらかじめある人って、マジョリティからしたら特殊だと思うんですよね。

そうではなくて、人との関わりの中でキャラクターが出来上がっていくうちに、それがいつの間にか「なりたい自分」や「自分らしさ」になっていた──現実はそんなことの方が多いんじゃないかなあと思ったりします。

自分に縛られず、個性を磨ける。しかもかわいい姿で!

ねむ お話を聞いていると、「IRIAM」はテキストコミュニケーションとVRSNSみたいな私がいる空間の間を埋める存在として、機能するのかもしれないですね。

いきなり「現実からこの世界に来い」と言われても、ハードルが高い。まずは受け手としてでも、ちゃんと認められる存在になることでハードルが下がり、徐々に人類のバーチャル化を進めていくというか。

……なんか「IRIAM」ってまさしく私の活動のために存在しているかのようなプラットフォームですね!

私の活動においては、みんなを少しずつこっちの世界に連れてくる仕組みづくりが課題になっていまして。すごくいいヒントをもらいました。

──そもそも、多くの人はバーチャルな存在・キャラクターになることを望んでいるのでしょうか?

真辺 若干遠い話になりますが、昔の社会では人が土地や共同体と結びついていたので、自分が何者なのかって決まってて、今の価値観からすると息苦しさがあったと思うんです。

それから都市化やSNSの普及が進むことで、自由に生きられるようになったけど、今度はその流動性の高さゆえに「自分は代替可能な存在だ」という感覚が出てきた。だからこそ「何者か」にならなければというプレッシャーだったり、孤独を感じやすくなっているのかなとも思います。

僕はそのどちらでもない、「この場所でしか生きれないというのは嫌だけど、何者かでいなければならないのも、完全に代替可能な存在というのも嫌」という、半匿名な存在として認められたい欲求が現代にはあるんじゃないかと思ってて。そこに、自分だけど自分じゃない、キャラクターとしての自分になるニーズがあると思っています。

ただ、それがパーツを組み合わせてつくれるアバターとかだと、究極的には、代替可能な身体にはなってしまう。でも、自分をオリジナルな身体の自分として誇れることって、人間にはとても大事なことなんじゃないかと思ってます。

ちなみに「IRIAM」のユーザーさんからは、キャラになって人と関わるうちに、リアルの自分も明るくなったとか、自分自身を愛せるようになったという話をよく聞くんです。ねむさんはどうでしたか?

ねむ そういう側面もあるんですが、私の実体験から言うとそれを特別なこととして感じるのは最初の3年だけですね。

可愛い自分が面白いとか、自分に活力が出てきたとか。そういうのは3年で慣れて、最早その感覚が当たり前の日常になります(笑)。

「IRIAM」とねむが見据えるバーチャルな世界の未来

──お二人は、バーチャルなコミュニケーションや世界に課題はあると思いますか?

ねむ 私はアバターの民主化が課題になるかなと。今、メタバースの活動が所詮遊びに過ぎないから問題になっていないだけで、経済主体が現実側からメタバース側に移っていったときに、唯一無二のアバターを持つハードルの高さは問題になると思います。

私も初期はLive2Dのデフォルトアバターにこのロゴを髪飾りとして貼り付けて使っていたんですが、私と同じアバターを使っている人をなりすましだと報告してくださるDMが大量に届きました(笑)。

現在は、バーチャル美少女ねむさんもオリジナルモデルを使用している

ねむ 今はモデルの制作コストも安くなりましたが、それでもまだハードルはあります。VRSNSの住人も、オリジナルアバターはまだお金がかかるので、多くの人は既存のアバターを改変したものを使っていて。

でも、タレント活動をして顔を覚えてもらおうとなると、同じ顔の人が何人もいたらやはり問題ですよね。

人間の頭の中では顔=この人とイメージが結びついてしまいますし、VRSNSでも同じアバターを使っているフレンドが複数いると、どうしてもイメージがお互いに混ざってしまうんですよ。

その点、「IRIAM」のシステムは、オリジナルの外見をつくるハードルが低くてすごく良いですね。

真辺 「IRIAM」がはじまったのは、まさにLive2Dのモデルが何十万円もした頃なんですけど、PCやマイクなどの機材も含めて、当時からVtuberになるのは敷居があまりに高すぎると感じていました。

そのハードルを下げて、誰もが気軽にオリジナルなキャラになれる世界に近づけていきたいです。

ねむ 「IRIAM」さんも3D版ができると良いですね。

真辺 いつになるかは検討もつかないですが、その時が来たらVRの世界にシフトしていきたいねとエンジニアとも話しています。まさしく世界の「距離感」が変わる変化になると思うので。

ねむ もう一つ、アバターの民主化だけでなく、経済の民主化も大事です。アバターの姿で経済活動するのってめちゃくちゃハードルが高いんですよ。配信活動以外で利益を出すのは結構難しいですし。

だからVRSNSも配信プラットフォームと結びついたシステムになってもいいと思っています。

今はVRの世界で配信をしても、現実空間にカメラを置いたのと全く同じで。配信画面とかは自分でつくらないといけないし、アバターとリスナーとのインタラクションがあるわけでもない。

せっかく自由に世界をデザインできる仮想世界なのに、まだまだそれを活かせてないんですよ。やっぱりもっと配信システムとメタバースが融合していくべきかなと思ってます。

……なんかそういうのをつくってください!

真辺 時代に合わせて頑張っていきます(笑)!

未来への展望を語り合い、今回の対談は終了した

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プロフィール

真辺昂

真辺昂

株式会社IRIAM 取締役/事業部長

早稲田大学基幹理工学部数学科中退。しばらくのフリーター期間を経て、編集者としてwebメディアの編集やIPコンテンツのメディアミックス、ゲームベンチャーの立ち上げなどを経験。2018年には、立ち上げメンバーの一人として『IRIAM』に参画し、DeNAのグループ入り後も引き続きプロダクトオーナーを務める。

バーチャル美少女ねむ

バーチャル美少女ねむ

VTuber / 作家 / メタバース文化エバンジェリスト

メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献。2020年にはNHKのテレビ番組に出演し、お茶の間に「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」の衝撃を届けた。ボイスチェンジャーの利用を公言しているにも関わらずオリジナル曲『ココロコスプレ』で歌手デビュー。作家としても活動し、自筆小説『仮想美少女シンギュラリティ』はAmazon売れ筋ランキング「小説・文芸」部門1位を達成。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞など掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。

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