40歳を超えたヒゲドライバーの、変わったところ。変わらないところ

──お世辞でもなんでもなく、長く取材させていただく中で、とても頑固なところはあって根底はブレないながら、それを実現するために時代とともにアプローチを柔軟に変えているのを感じます。

ヒゲドライバー きっと変わってないところもあるし、変わってると思いたくない部分もあるんですけどね。ただ、生活として変わらざるを得ないところもある。家族もできて、独り身だった頃みたいには動けないし、今の生活もすごく楽しいんです。

──そんな中でお仕事量も減るどころかものすごいペースで活動されているのも、すごいですよね。2017年が一番提供曲数が多いんですけど、2020年以降もかなり多作です。

ヒゲドライバー コロナ中はイベント関係がなくなったし、曲に向き合う時間自体は増えてたのかもしれませんね。リモートでできる作業もずいぶん増えたから、生活としてはかなり規則的になった実感です。今は子育てもあるし、自分としても事務所としてもセーブはしてもいます。

──リモートというと、打ち合わせとか?

ヒゲドライバー 打ち合わせもそうですけど、たとえばTD(曲のミックス作業)なんかも、もうリモートが日常になってきました。自分の自宅に音響機材を揃えているので、スタジオと繋いで遠隔ですがリアルタイムでやりとりしてます。

──アーティストも働き方改革が進んでるんですね。

ヒゲドライバー 子どもの送迎もあるので物理的に難しいのもあって、事務所の村田社長が調整してくれてます。現場でこそ生まれるグルーヴもあるから、ありがたい反面、会えない寂しさを感じることもありますけどね。

音楽を続けるために、たった一つ必要なこと

──この5年での変化として、海外アーティストとの共作も増えている印象です。

ヒゲドライバー ポーター・ロビンソンの『Everything Goes On』制作のサポートとして関わったり、『Nightmare Ninja』ではStephen Walkinと共作しました。日本人にはない感覚に触れることができて、面白かったですね。普段だったら、きっとこうなるだろうなというところに落ち着かない感じ

ヒゲドライバーがサポート参加したPorter Robinson「Everything Goes On」

ヒゲドライバー 例えば『ドラゴンボールDAIMA』の主題歌をZEDDが手がけていましたが、あれもどこまでいってもZEDDで、「アニメ好きの海外のミュージシャンが考えたアニソン」なんですよね。だからこそ、今までにないアニソンになっていて、とても面白かった。

僕もコラボする中で、日本の文化に触れている人でもやっぱり日本人とは発想が違うことを目の当たりにして、逆に自分はこれからも、世界を変に意識するんじゃなくて、日本らしい音楽をつくっていくしかないとも思いました。今後、世界に向けて音楽をつくっていくとしても、今の作風を突き詰めていきたいです。

──文化や生活が明確に異なる中で、むしろ世界で活躍するなら変に海外向けを意識しない方がいい?

ヒゲドライバー 日本のレトロゲームが今世界的に人気で、どんどん海外の人に買われているんです。ピコピコ音楽もジャパニーズチップチューンとして、むしろ付加価値をつけていけると思っています。取り入れつつ、引っ張られすぎず、ですかね。

──なるほど。無理なく変化すべきところは模索しつつ、芯には自分らしさもある。音楽をつくり始めて20年以上という貫禄を感じられます。

ヒゲドライバー どうだろう、そうなんですかね……けどやっぱり、こんなにやってても正解みたいなものはなくて、悩みながら、学びながらです。

──ヒゲさんの芯は、きっとそういうところですよね。引く手数多の作曲家だけど、いつも葛藤がある。

ヒゲドライバー そうですね。ただ、事あるごとに言ってきましたが、やっぱり楽しいからこんなに長く音楽を続けられてるんですよ。「いい音楽って何なんだろう」と考える時間には苦しさもあるけど、それが楽しい。そうじゃなかったら、20年も続けられてないですよ。

──変な言い方ですが、その言葉が今回もヒゲさんから聞けてよかったです。「今、楽しいか?」というのは、ヒゲドライバーというアーティストにとってのキーワードですよね。

ミュージシャンの道を歩みたいと考えた、大学卒業間際のヒゲドライバーさん。家族から反対される中、唯一「好きなことをやらせてやれ」と言ってくれたのがヒゲ父だった。お金もなく売れる気配もなく、音楽に打ち込む日々だったが、ほどなくして病床で息を引き取る前のヒゲ父から最後にかけられたのが「今、楽しいか?」という言葉だったという。KAI-YOUでは実家までお邪魔して当時のことをうかがっている

ヒゲドライバー 確かに、そうですね。今も本当に楽しいし、だからこそ幸せです

ただ、普通じゃ考えられないような変な生活を送ってきた自覚もあります。子どもが生まれてからは、夜の22時には寝て、深夜にまた起きて、そこから子どもが起きる朝まで作業して。普通に働いている人ならゆっくり寝たいはずの時間に、一人PCの前でどっぷり音楽に浸かっている時間にこそ、えも言われぬ幸せを感じるんです。

眠いからエナドリ飲んで、気持ち悪いなって思いながら音楽と自分だけの時間を過ごすのが、もうずっとずっと楽しいんです。できることなら、永遠に続けたいくらいには

──それが、一つの成功の秘訣なのかもしれませんよね。

ヒゲドライバー 僕は、自分にそれほど才能があるとは思ってなくて。唯一誇れるのは、音楽が好きすぎるというところだけで、その才能だけはあった。この曲をもっと良くしたいという気持ちだけで、1〜2小節を永遠にループしてるんです。普通だったら頭がおかしくなるくらい、延々と。飽きないかって聞かれるけど、飽きないんです。

僕がもし、プロのミュージシャンを目指している若者に何か言えることがあるとすれば、「本当に音楽が好きですか?」ということくらいです。本当に好きじゃないのなら、やめた方がいいと思ってます。売れている音楽家で、音楽を好きじゃない人はいません

──好きとか愛とか通り越して、執着に近いですよね。

ヒゲドライバー 今の時代、つくり方とかテクニックは誰でも気軽に学べるから、技術的な才能ってむしろあまり必要ないのかなとも思います。だからこそ、胸の奥にある思いを問いただしてみてほしいですね。

──活動20周年ともなると、説得力が桁違いですね。

ヒゲドライバー なんか、色々偉そうなことを言っちゃいましたけど(笑)。僕もまだまだこれからで、今年はオリジナルアルバム『5UP』もつくってるし、年内にはヒゲドライバー主催イベントを計画もしてます

──楽しみです。改めて動きが活発になる1年ですね!

ヒゲドライバー プロデュースも楽しいのでこれからもやり続けたいけど、曲を書き下ろすことも含めてミュージシャンの醍醐味だよなとも思いました。……実は、この5年の間に、妻に向けて書いた曲もあるんです。

──えっ! 小澤さんへのラブソング?!

ヒゲドライバー 定期的に書いてるんですよ。付き合い始めに書いたやつとか、プロポーズの時につくった曲とか。

──しかも一曲じゃないんだ……。

ヒゲドライバー ただのノロケって言われたら、そうなんですけどね。そこも含めて、自分の生きた軌跡としての作品にできたらいいなと思ってるんです。

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