VTuberって面白い!
──最近のお仕事でいうと、ヒゲさんはこの5年でVTuber関係の楽曲提供も増えていっていますよね。
ヒゲドライバー そうなんですよ。もともとそれほど接する機会のなかった文化圏なんですけど、面白くて、結構見るようになりましたね。
──VTuberへの提供曲ならではの、他との制作の違いはありますか?
ヒゲドライバー ありがたいことに、自分の提供した曲を好きでいてくれるVTuberさんがいて、アニソンとかを聴いて「自分もああいう曲を歌いたい」ということでオファーをもらうことがあって。僕の作風を理解してくれているからやりやすいというのはあります。ねねち(桃鈴ねね)はまさにそう。
──ヒゲドライバーとしてのキャリアの積み重ねあってのことですね。
ヒゲドライバー ただ、これまでにない作業も発生してるんですよね。たとえばアニメは原作があるから作品に向き合えば、どういう曲にした方がいいか、検討がつきやすい。でもVTuberさんは曲も詞も自分の中でゼロからつくっていくことになるので、また違った大変さはあります。資料を読み込めばわかる、というものじゃないから配信も見て、本人の人となりを知っていきながら試行錯誤してます。
──コンテンツじゃなくて人ですもんね。データベースという意味では、桁違いだと。
ヒゲドライバー 配信で盛り上がった発言とか、コメントとかをピックアップして曲にしていくので、自分の曲やアニメの楽曲提供とは全然違う作業も多かったです。結局、プライベートでもVTuberの配信を見ちゃうようになりましたよ、ゲーム配信とか。
去年、昔好きだった『ロマンシング サガ2』のリメイクが発売された時も、やりてえーって思いながらも時間が取れなくて。そんな時、VTuberがゲーム配信してくれているのを見ていると、自分もやった気になれたりするわけですよ。やったことあるゲームだとなおさら。
──それで改めてVTuberにハマっていったわけですね。
ヒゲドライバー みんながVTuberにハマる理由、わかります。わかりました。あの、友達と一緒にゲームやってる感覚をいつでも、部屋で一人で作業しながらにして味わえるんだから。
生活と仕事とゲームへのこだわりとの狭間で、大いに悩む
──ちょっと意外だったのが、ゲーム好きでこだわりも強いヒゲさんとしては、ゲームは自分でやらないと気が済まないタイプだと思っていました。
ヒゲドライバー もともとはゲームなんて自分でやってなんぼだって思ってましたよ。けどね、こんな面白そうなゲームが世の中にあふれている中で、世の大人たちは仕事にプライベートに、本当に時間がない!!
自分にも子どもが生まれて、ゲームする時間を確保するのも難しくなってきて、1日に使える自分のための時間って、本当に少ないんだってなったんですよね。
──もう、一人で音楽だけをつくっていればいい頃とは違うわけですよね。
ヒゲドライバー もともと、タイパって言葉にも忌避感がある方だったと思います。ゲームを自分でやらず実況で済ますとか、映画を倍速で観るとかいう話を聞くと、なんなら自分の音楽も倍速で聴かれてるのかなって想像しちゃうじゃないですか。
でも、子どもが生まれてから「あなたが自分に使えるのはこの時間です」ということがはっきり突きつけられるようになって、割り切って考えるようにはなりました。
しかも、世の中にはものすごい量の情報が溢れていて、その中から必要な情報を選別していかなきゃいけない。倍速視聴もゲーム配信も、生活する人たちの藁にも縋りたい思いがあるのかもしれないっていうのは、共感できるようになりましたね。
──時間に追われて不安を感じる時、ありますね。
ヒゲドライバー おかしな時代だなって思いますよ。情報を得る過程では自分が欲していなくても、いいニュースや悪いニュースにも触れてしまう。将来について不安なことばかりが飛び交う中で、自分はどうなっていくんだろうという将来への道筋も立てづらい。情報を取捨選択しながら、みんなも戦っているんだと思います。
侮ってもらっちゃ困る! 最後は「自分の音楽のため」
──ヒゲさん、悩んでますか? もしかしてゲームボーイで『HIGEDIUS』をつくったのも、関係あったりします?
ヒゲドライバー 悩んでるのはいつもだけど(笑)。でも、ゲームはたまたまですね。あやんちゅくんといううちのスタッフから「今ゲームボーイのソフトがビルダーで簡単につくれるようになったらしいです」と聞いたのがきっかけです。僕のつくってるピコピコ音楽とゲームボーイは相性がいいので、じゃあやってみようと。
──実際、簡単につくれたんですか?
ヒゲドライバー 全然そんなことなかったです……! 僕は音楽をつくってそれをゲームボーイ用にコンバートして、あとはステージ構成を考えたり、キャラクターや世界観の設定を考えたりしました。でも僕よりも、あやんちゅくんが大変そうでした。僕らはシューティングゲームを企画したんですが、実はシューティングってプログラミングが複雑で、結局ビルダーだけじゃつくりきれなくって、イチから勉強しなきゃいけなくなったそうです。
──思ったよりも大変だったんですね。でも、まさに待望のゲーム制作を実現したわけですよね。
ヒゲドライバー そうなんですよ! 大変だったけどすごく楽しかったし、実際ゲームが出来上がった時には嬉しかったので、今後も挑戦していきたいと思いました。
──音楽に留まらず、活動の幅は広がってますね。
ヒゲドライバー 根幹にあるのは、『Re:ゼロ』(Re:ゼロから始める異世界生活)なんですよね。「Wishing」というレムの挿入歌をつくって、神回とされる18話で曲が流れた時のあの感動。音楽に映像が乗っかることで、自分がつくった曲に何十倍ものパワーが生まれた時の、あの爆発力が源ですね。
──アニメもゲームもいわば、総合芸術ですね。
ヒゲドライバー 音楽と他の要素が掛け合わされた時のエネルギーには可能性を感じていますし、クリエイターとしても、音楽以外のものをつくるスキルがこれからの武器になると思います。時代的にも、音楽だけを聴いてもらうことってますます難しいと思うし、他の要素を組み合わせたりプロデュースしたり、わらじを何足か履いておくことは大切ですね。
──IPを持つことの重要性を痛感しているからこそ、音楽だけではない分野に挑戦されているんですね。ただ、ヒゲさんは音楽へのこだわりも尋常じゃないです。ピコピコミュージックが好きな理由も、「音楽としての生の状態がそのまま出るから」と言うほどのヒゲさんにとって、総合芸術として掛け合わせないと音楽が届かないというのは、ある種の“敗北”と感じたりはしないんですか?
ヒゲドライバー ……もちろん、悔しさもあります。僕自身は音楽そのものに感動し続けてきた人間だし、音楽に人生を変えられているし。他の人にもそう感じてほしいという思いもあるけど……なんていうか、周りはもう何でもありの総合格闘技をやっているのに、僕だけずっとボクシングしている感覚なんです。だから、まずは総合格闘技でのしあがって、その暁にはボクシングの良さをもっと広めていこうと。
いつかは自分らしい、ピコピコ音楽そのものを広めたいという野望はあります。ゲームをつくるのもプロデュース・作家業も、結局は自分の音楽のためにやっていることですから。
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