『推しの子』はなぜ人気作になったのか──鍵は“複数プロットの同時展開”にあり

『推しの子』はなぜ人気作になったのか──鍵は“複数プロットの同時展開”にあり
『推しの子』はなぜ人気作になったのか──鍵は“複数プロットの同時展開”にあり

「週刊ヤングジャンプ」2024年第50号書影/画像はAmazonより

赤坂アカさん原作、横槍メンゴさん作画の漫画『【推しの子】』が、11月14日(木)刊行の「週刊ヤングジャンプ」2024年50号で最終回を迎えた。

コミックの累計発行部数は1800万部超(2024年8月時点)。TVアニメ化も果たし、すでに第3期の制作が決定。11月には実写ドラマ版の配信、12月には実写映画版の公開を控える本作。間違いなく、近年の大ヒット作のひとつだ。

しかし『【推しの子】』ほど、その魅力を端的に評することが難しい漫画はないと筆者は思う。そしてそれこそが、本作がここまで話題になり、流行した要因だとも思うのだ。

(※)この記事は、『【推しの子】』のネタバレを含んでおります。ご了承ください。

『推しの子』は復讐劇であり、芸能モノであり、ラブコメである

かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦』の赤坂アカさんと『クズの本懐』の横槍メンゴさんがタッグを組み、2020年4月から「週刊ヤングジャンプ」で連載開始した『【推しの子】』。

読者のあなたは、その物語のアウトラインをどう説明するだろうか?

……筆者なら次のように説明する。

産婦人科医・雨宮吾郎の前に診察に訪れた患者は、“推し”であるアイドルグループ・B小町の星野アイだった。“推し”の妊娠に動揺しつつも、雨宮吾郎は担当医として彼女を全力でサポートすることを決意する。

しかし、出産予定日、雨宮吾郎は何者かに殺害されてしまう。目を覚ますと、なんと雨宮吾郎は星野アイの息子・星野アクアに転生していた。

その後、双子の妹としてもう一人の転生者である星野ルビーと共に、“推し”の子どもとして甘い生活を謳歌していたものの、ある日その星野アイをも殺されてしまう。

星野アクアは星野アイ(および自分)を陥れた黒幕がいることに気づき、その真犯人に復讐すべく、芸能界へと足を踏み入れる──。

この“星野アクアによる星野アイを殺害した真犯人への復讐譚”は、間違いなく『【推しの子】』の物語を貫く本筋(メインプロット)ではある。

しかし『【推しの子】』の場合、このメインプロットではなく、むしろサブプロットこそが物語の主題を担っている。

星野アクアらが真犯人に迫る中で体験する、「ドラマ」「恋愛リアリティショー」「アイドルフェス」「2.5次元舞台」「バラエティ番組」「スキャンダル」「映画」といった“芸能界の光と闇”を描くことに注力されているのだ。

さらに加えて、“星野アクアを巡るヒロインレース”というラブコメディ要素も物語に絡まってくる。

“本筋”の復讐劇に関わらない人気ヒロイン・有馬かな

象徴的なのは、本作のメインヒロインのひとりにして人気キャラクターである、“重曹ちゃん”こと有馬かなの物語上における役割だろう。

元・天才子役という過去を持ち、(新生)B小町のメンバー、そして星野アクアに好意を寄せている有馬かなは、芸能モノとしての『【推しの子】』にも、ラブコメディとしての『【推しの子】』にも欠かせない存在である。

しかし実は彼女、“復讐劇”というメインプロットには、ほとんどと言っていいほど関わってこない

「あんたの推しの子に、なってやる」と、作品タイトルにかけられた(=『【推しの子】』という物語におけるキーパーソンとも思える)発言をするにも関わらず。

「あんたの推しの子に、なってやる」(単行本第4巻、アニメ第1期最終回)

逆に言えば、『【推しの子】』では、復讐劇というメインプロットを抜きにしても、芸能モノやラブコメディというサブプロットだけでストーリーを十二分に魅せることができている。

復讐譚としても、芸能モノとしても、ラブコメディとしても読める。

この他ジャンルの共存を実現できたことこそ──言うまでもなく並大抵のことではない──が『【推しの子】』が老若男女に届きうる力を持つポップな作品になった要因だと筆者は思う。

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