Diosインタビュー 「紙飛行機」に載せた無意味な祈りとフェイクへの挑戦

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たなかの諦観と「祈っても開かない扉を前に祈り続ける」意味

──1st Album『CASTLE』をはじめ、Diosの楽曲を聴いていると歌詞の意味やテーマが気になったり、言葉を解釈したくなったりします。ササノさんとIchikaさんは、たなかさんに歌詞の意味を聞くことはありますか?

ササノマリイ この3人の中では僕が一番学がないので、聞くのは愚問だな、と(笑)。

たなか 聞いてほしいですけどね(笑)。

ササノマリイ わかんない言葉がいっぱいあるから。そこで変に突っかかるよりは、言葉として知っている人たちに任せておくのがいいよねって思う。3人ともいい意味でそれぞれの持っている役割に興味がないし、踏み込む気もないですよね。 Ichika Nito 本当に気に入らなかったら「そこは違うんじゃない?」みたいに提案しますけど、基本的にメンバーが出すものはみんな好きだから。

ササノマリイ 「この言葉入れる?」みたいな感じで気になったことはないな…「断面」の“積分”くらい(笑)。
Dios - 断面 (Dios - Integral / Official Audio Video)
たなか “積分”ね(笑)。

ササノマリイ 「積分、歌詞に入れる?」

たなか 「そのこころは?」みたいなね(笑)。

──「紙飛行機」には“祈りでは重い扉は開かない”というパンチラインがあります。過去のインタビューでは、Diosの活動はそもそも「祈りに近い作業」と言われていましたが、このように書かれたのはどうしてですか?

たなか だって、開かないですからね。開かないものを開くと言い切るのは「祈り」じゃないし。結局は「祈っても開かない扉を前に、なおも祈り続けることしかできないよね」みたいな。

ササノマリイ 結果の伴わない行為でしかないからね。

たなか そうそう。本質的に物事を変化させるのは不可能だから。 たなか 僕の中に、音楽あるいはあらゆる表現行為に対する諦め、引いては人間の営みそのものへの諦観があるんですよね。「世界を自分の思う通りにすることは一切不可能である」という、その事実をすごくシビアに見続けている。

Ichika Nito たなかの中で祈りブームみたいなのあったよね。

その時に思ったのが、『ドラゴンクエスト』の負けボス戦やラスボス戦とかで、こっちのレベルが足りなくてどうしようもなくなった時に選ぶ「逃げる」コマンドと同じだなって。

もう為す術もなくて、攻撃しても向こうはダメージ喰らわない。アイテムもない。仲間と交代もできない。「祈り」しかできない……。

たなか でももうそれをやるしかないみたいな。

Ichika Nito 「祈り」ではボスは倒せねえんだよな。

──それは単に諦めて「逃げる」という意味ですか?

たなか いや! 「逃げる」ボタンを押すとき、本当に逃げたいと思っているわけではなくて……。

ササノマリイ 「逃げる」を押し続ける事で、何かしらのシステムの不具合が起こって先に進めたらいいな、みたいな感じだよね。

Ichika Nito 「逃げる」は諦めてないからね。自分の命を次に繋ごうとしているから。「祈り」に諦めという要素は含まない。 たなか 「逃げる」ボタンを押しても、イベント戦闘だから逃げられないというのは諦めじゃないですか。でもわかってるけど押しちゃう。「祈り」は、そういうどうしようもなさというのに紐づけられた概念だなという感じですね。

「このAボタンを押すときのタイミングが何かのアルゴリズムと一致して、どうにかならないかな?(ならない)」みたいな。ならないことを知っている。でもその中でもボタンを押してしまうみたいな話かな。僕は人のそういう姿に美しさを覚えるんですよね。

ササノマリイ 全然回避できないのに攻撃してくる瞬間にBボタン押しちゃう。意味はないのに(笑)。

たなか ある種の滑稽さとも呼べるような人間の反射的な感情に僕はもう……「いいね」ってなる。

ササノマリイ 『MOTHER2』の「いのる」コマンドとは真反対だね。「いのる」は僕の中では重要な概念ではあるけれど。それとは別の感覚。

──「祈り」に対するたなかさんのイメージや「人間のどうしようもなさ」に宿る美しさに惹かれる姿に、ササノさんやIchikaさんも共感する部分があるんでしょうか?

Ichika Nito いや、言いたいことがわかるというだけで、別に日常的に考えてはいないですね(笑)。

たなか 思想としては全然違うんですよ! Ichikaは結構健全に世界を見ている。

Ichika Nito 僕は意志の力と言葉で、自分の手の届く範囲はなんとでもなるし、届かないものに対しては諦めてしまおうみたいな感じ。そこら辺がはっきりしているんですよね。 たなか はっきりしていながらも、「手の届く範囲では目一杯頑張ろう!」みたいな。それってすごいギャルっぽくないですか? それはそれで美しいなと。Ichikaのそういうところがすごく好き。

ササノマリイ 僕は「穴に落ちていこうとする人を止める権利も義理もこちらにはない」みたいな感じです。尊重はするけれど、自分の価値観にそぐわないところに無理やり合わせようとはしない、というか。

尊重するだけで十分ではないのかな、と思うんですよね。尊重しているだけでDiosの関係も破綻していないし……全員同じ方向を向いていたら、多分今のDiosみたいなことはできていない気もするし。

Ichika Nito ササマリは開ける必要のない穴を自分で掘って自分で入っていく感じがするな。

ササノマリイ それはあるね(笑)。自分で墓穴を掘っているところはあるかもしれない。

1周年を迎えたDios たなかのポップスに向かう覚悟

──インタビューをしていても3人の互いへの愛を感じます。その一方で、以前たなかさんはバンドの解散についても言及されていたと思うのですが、Diosもぼくのりりっくのぼうよみのように、いつか終わらせようと考えているのでしょうか?

たなか 今は終わらせようとは特に思ってない。

Ichika Nito Diosを始めて「劇場」を出した当初とかは、「3年くらいで人気になってぱっと解散しよう」と言っていたんですよ。でも今は考え方が変わってきていて、「おじいちゃんになってもバンドやってたいね」みたいな。
Dios - 劇場 (Dios - Theater / Official Music Video)
たなか 「人気のピークを過ぎたとしてもやりたいよね」みたいな方向に変わってきた。

Ichika Nito コロナ禍を挟んで、売れるということはどういうことなのか何度も考え直しました。他のバンドの対応というか、人気だからこそのしがらみや崩れ方が目について。

たなか 「売れること」への解像度が上がったのかなと思います。

Ichika Nito そう。時代というピントを通しての解像度が上がった。

今の社会において「売れる」意味や意義を考えたときに、「より多くの人に聴いてもらえる」に辿り着いたんです。この3人が集まってつくった音楽は当然いいと思うし、もったいないんで、今のままじゃ。聴いてもらいたいんで。 Ichika Nito でもバンドは終わりのないマラソンなので……。そのピークをこれから自分たちでコントロールしていって、食い尽くされない体力をつけて運営していきたいなと思っています。

ササノマリイ もしバンドを解散するみたいなことになったとしても、3人の関係が終わるわけではないし、表に出さなくても作るだろうし、発表したければするだろうしっていう。その気持ちは自分の中では変わらないですね。

──たなかさんは「そもそもポップスには構造的に矛盾がある」と言われていました。どういう意味でしょうか?

たなか 抽象的なんですが、「過程」を経て「結果」に辿り着いたとき、次の「結果」に向かうためにまた「過程」に戻らなきゃいけないんですけど、今の日本には戻るべき「過程」が存在しないんですよ。

例えば「モテたい」「自分は不幸だ」と思ってそういう歌を歌っていた人が、結果としてめちゃめちゃモテるようになったり幸せになったとする。じゃあ次はどこに行こうってなったときに、いまはロールモデルがない。だからモテないフリや、不幸面を続けるしかない。

ササノマリイ そういうことを歌っている人たちが、それを歌う時点ですでに満たされていることが多いのかな。満たされている人たちが「満たされません」と歌っている。カーストの上位にいる人たちがあたかも最下層かのように振る舞っている

たなか マジFake Shit!だよね。アメリカのヒップホップは成功したあと「もう成功しましたよ!」っていうじゃないですか。その後どこにいくのかというのは別として、あれは見てて気持ちいい。日本はそうじゃない。 ──今、日本のヒップホップでも成功者が少しずつ増えてきていて、一部の人たちはビッグマネーを手にし始めてきています。ロールモデルもできつつあるのかなと思いますが、ラップがルーツでもあるたなかさんは、ヒップホップ方面には行かないんですか?

たなか 日本のポップスが構造上フェイクにならざるを得ないとしても「やってやる気持ちだぞ!」って感じです。

最初はフェイクになることに対して葛藤があったんですけれど、今ってあらゆる意味で、嘘や〇〇ポルノ的な要素を持たないクリエイティブは存在しないなと思っていて。

例えば電車に「食べ方を変えるだけで痩せて健康になれる」みたいな本の広告がある。それって、ある種の健康ポルノじゃないですか。本当は運動したり食事制限したり、いろいろなことをしないと健康になれないはずなのに「食べ方を変えるだけで健康になれます」というのは、そうあったらいいねという消費者の願望を刺激することで儲けるため。嘘だと思うんですよね。

現代において、何をつくっても何割かの嘘が含まれることに葛藤していたんですけれど、それを友達に話したら「どうせ〇〇ポルノで溢れるんだったら、自分がつくった〇〇ポルノで溢れさせた方が良くない?」みたいなこと言われて、なるほどねと。

Ichika Nito それって歌詞ありきじゃない? インストルメンタルは?

たなか インストだけだとフェイクから解き放たれる。でも、言葉だとどうしても幻想を孕んでしまう。Ichikaの曲とかササノのビートとか、そういうのを聞いてるときはピュアに「音楽っていいよね」という気持ちになるけれど、いざ自分が歌詞を書くとなった時にそこに責任が生じてくるから葛藤が生まれる

ただ最近は「ポルノ頑張ってつくるぞ!」っていう気持ちになってきていて。『CASTLE』って僕としてはあんまり〇〇ポルノ性を入れてないんですね。“〇〇ポルノ率10%くらいの城”ができたことで心の整理がついて、「今度はポルノ率50%いけるかも!」と。

Ichika Nito ポップスね。

たなか 言い換えましょうねそろそろ。ポップスに向かっていく覚悟みたいなのが最近またできた。

Ichika Nito 外側から見るとわかりづらいところでみんな葛藤してるんですよ、実は。

ササノマリイ そこでそんな考える?ってところでみんな30歳に入っていく。

──だから「祈り」なんでしょうね。

たなか だからぼくは「祈り」っていうしかない。
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アルバム情報

Dios 1st アルバム『CASTLE』

発売日
2022年6月29日(水)
レーベル
Dawn Dawn Dawn Records
artwork
Yousuke Yamaguchi
designed by Shintaro Kira

[CD]
1. ダークルーム
2. Virtual Castle
3. 天国
4. 試作機
5. 残像
6. Bloom
7. 断面
8. 鬼よ
9. Misery
10. 逃避行
11. 紙飛行機
12. 劇場
 
[DVD] ※初回限定盤のみ
・[Dios 1st OneMan Live "Dawn"]
・オーディオ・コメンタリー

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Dios

バンド

前職・ぼくのりりっくのぼうよみ=たなか、YouTube登録者数200万人越えの今最も注目すべき世界的ギタリス ト・Ichika Nitoとボカロやオンライン・ゲーム界隈ともリンクし、ぼくりり過去作も手掛けたトラックメイカー/シンガーソングライター・ササノマリイの3人で新たに結成したバンド。

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