「やってみないとわからない」
先日のBellator 279で、堀口恭司選手がパトリック・ミックス選手に判定負けしました。日本最強のMMAファイターが二連敗を喫したということで、絶望的な世界の壁の厚さを感じたファンもけっこう多いかもしれません。僕は逆に、今のままでもめちゃめちゃ強い堀口選手ほどの人にすらまだ伸び代があるのだと思いました。 前々回のセルジオ・ペティス戦にも共通して言えるのが、相手選手に中央を取られて、ずっと堀口選手が回らされていたということです。もちろん堀口選手は踏み込みの速さが凄いからその戦略が上手く行くんだけど、今回は逆にそこが仇になったのかなと。堀口選手のスタミナが物凄いとしても、5ラウンドずっとその展開は苦しいですよ。今回の試合では圧力をかけられてケージに押し付けられることにもなったと思うので、逆に圧力をかけていたらよかったなと思います。それこそ、AJ・マッキーに対してピットブルがやったように圧力をかける戦略を取っていたらどうなっていたか。こういうことを言うと「上から目線だ」とか批判してくる人もいますけど、あくまでこれは格闘技ファン目線で客観的に思ったこととして言っています。圧力と言えば、「RIZIN TRIGGER 3rd」で、矢地祐介選手とルイス・グスタボ選手の再戦がありました。結果としては矢地くんが2ラウンドにTKO負けしてしまったんですけど、僕としては矢地くんはめちゃくちゃ強くなっていると思いましたね。今回は、打撃で劣勢な状態から組みに入っていこうとしたので、完封されたようなイメージがついてしまっていますが、この試合も自分から圧力をかけていたら展開は全く変わっていたんじゃないですかね。彼は打撃戦で下がる癖があるから、今回もそれが出てしまった。もちろん、グスタボの打撃は素晴らしいパフォーマンスだったと思います。
逆に、圧力で負けなかったのがサトシ選手ですね。「RIZIN.35」で行われたライト級タイトルマッチ、ホベルト・サトシ・ソウザ選手とジョニー・ケース選手の試合は、打撃で勝り柔術の対応ができるケース選手が勝つと思っていました。でも蓋を開けてみたら、ある程度打撃でも対応しつつ、バックを取ってからの十字という相手の想定を超えた技によってサトシ選手の一本勝ち。強かったですね。
こういう風に、試合では下馬評で不利な選手が勝つこともあるし、有利な選手が負けることもあります。でも、試合本番だけで味わうことができる経験というものがあって、それは挑戦しないと得られない。
グスタボ選手とは昔自分も試合をしたんですけど、振り返ってみると「あの頃の自分は打撃が弱かったな」と思いますね。シンプルに体がまだできておらず、あと技術も未熟。そういうことがわかったのも、僕自身が斎藤裕、クレベル・コイケ両選手との敗戦を踏まえ、トレーニングを見直しフィジカルを作り直したからです。当然ですけど、今の僕の方が全然強いですよ。打撃のレベルは全RIZIN選手の中でもトップじゃないかな、と思います。
強みと弱みを理解することの重要性
相手を少し強く見積もって準備しておくと、試合で優位に立てます。『強者の流儀』でもこの大切さについて書いたんですけど、そのときのポイントは、自分の強みと弱みをしっかり認識しておくことです。 僕の場合は、打撃の強さや腰の重さが強みなんですが、それに加えて実は誰よりも顎が強いんですよ。そもそもあまり顔に打撃をもらわないけれど、当たったとしても効いたことがない。トップの打撃力を持つグスタボ選手との試合でもそうだったし、それこそ大晦日の試合でも斎藤選手の打撃は僕には効きませんでした。もし打撃が強くても、自分が打たれ弱いのであれば、打撃戦を挑むことが正解にはなるとは限らない。自分の筋肉の性質を理解していないと、瞬発力がないのに短期決戦を挑んで失敗したり、持久力のなさを読まれて、レスリングでどろどろの展開に持ち込まれたりしてしまいます。もちろん技術の問題もあるけれど、筋肉の性質はポテンシャルに関わるので、強みを伸ばすにも、弱みを潰すにも理解しておいた方がいい。
「RIZIN TRIGGER 3rd」で金原正徳選手と摩嶋一整選手が戦いました。強烈なテイクダウン能力を持ち、特に1ラウンドで無類の制圧力を発揮する摩嶋選手でしたが、3ラウンドまで耐え凌がれたところでスタミナが切れ、体力を温存していた金原さんが逆襲しパウンドでTKO。もちろん、そもそも金原さんがめちゃくちゃ強いんですけどね。上京してきた僕が手合わせしてものすごく強いと思ったのが、金原さんでした。
強いと言えば、今のところRIZINのフェザー級で一番強いのはクレベル・コイケ選手ですね。寝技の強さをみんなが知っているのに、結局そこに引き込まれてしまう。だからこそ、僕が一番試合をしたいのもクレベル選手ですね。やれるんだったらいつでもやります。僕の気持ちとしては「萩原なんかとやってるんじゃねえ」というところです。すでに、クレベル対策もめちゃくちゃしています。詳しくは言わないですけれど。
実行して学ぶ
総合格闘技ではバランスが大切で、どうしてもパンチ一辺倒だったり、あるいはレスリング一辺倒だったりすると穴を突かれやすい。僕なんかは色んなことをやってみたい性格だから、パンチも練習するし、ミドルやハイも蹴ります。レスリング能力もつけているし、クレベル戦を見越して柔術の対策もしています。いろいろやってみるのが大切だというのは、実は格闘技に限ったことではなくて、人生経験やビジネスでもそうです。強みを伸ばしていくのが大切だけど、実戦経験が少ないと何が強みかわからない。そして、実戦経験を踏まえてこそ、自分を修正していける。 僕が企画した「BreakingDown」というアマチュア格闘技興行があります。これは「一分間に試合時間を限ったら、素人でも強さを発揮できるのではないか」という思いつきと、僕がYouTubeで展開していた「街の喧嘩自慢とスパーリングしてみた」という人気動画シリーズの発想を組み合わせた企画です。
結果、再生数としても大成功し、PPV(ペイ・パー・ビュー)の売り上げもよく、それまで無名だった登場選手がYouTube上で人気者としてバズるようになるなど、かなりの手応えを感じました。関わった人間の人生をよい方向に変えることができた実感もあり、やっていてとても楽しい。自分たちの工夫が実を結んできました。
そして、すでに改善点も思い浮かんでいます。まずは次回ではもっと観客を入れられるようにしようと思っていますし、それから女子選手の募集もしていきたい。そして、試合を盛り上げるセレモニーとして、当日計量の様子をもっと豪華にしたい、というようなアイディアがあります。また、未来の格闘家として活躍しうるような才能にも出会いつつあり、エンタメ路線もありつつ、本格路線への流れもしっかり両立していきたいと思っています。
それから、YouTuberのヒカルくんと一緒に、「Nontitle~この1000万、あなたならどう使う?~」というリアリティ番組を立ち上げました。僕の初期案では「ヤンキーテラスハウス」がコンセプトでした。環境に恵まれない子たちにチャンスを与えたいと考えていたからです。しかし、考えを掘り下げていく中で、現代では万人に平等なチャンスが与えられている、という認識に至りました。そこで「誰がやるか」ではなく「何をやるか」「どうやるか」にフォーカスし、スタートアップをテーマにした番組構成に切り替えました。恋愛リアリティショーはあるけれど起業のリアリティショーはなかったから、この番組を見たら若い子たちが「俺でもできるんじゃないか」と思ってくれるかな、と考えました。それをきっかけに、日本の経済の盛り上がりに役立ちたいというのが僕の思いです。
この記事が出る頃には番組も公開され、僕も日本を発つところだと思います。みなさんも、このゴールデンウィークにぜひ挑戦の第一歩を踏み出してみてください。
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格闘技の在り方を考える
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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:8336)
朝倉未来選手を取り上げてくれてありがとうございます😊
彼をきっかけで格闘技が好きになりました❤️