ネガティブな思考に支配される自分への気づき
──回復するきっかけは何だったのでしょうか?さなり 落ちていた時は心を閉ざして、人間的な活動を全くしていませんでした。大げさではなく、引きこもってゲームしかしていない毎日で、日光もあまり浴びてなかった。
「ちょっと音楽をつくってみよう」と思ってやりはじめるんですけど、制作したいっていう気持ちが全然湧いてこない。部屋も掃除していなかったのでゴミ袋が何個もあって、足場が全くない状態。生活リズムもめちゃくちゃでした。今思うと病んでいたと思うんですけど、当時は自分自身で気づいていないんですよね。
でもある日、自分を客観視した時に「変だな」って感じて。基本的にポジティブな性格だったんですけど、何を考えてもネガティブな思考に支配されているんです。それで「僕ってこんな感じやったっけ?」って気づいて、こんなことしていたらいつまで経ってもやる気は湧いてこない、と考えが変わっていきました。
──そんな生活をされていたとは、衝撃です…!
さなり ファンの方はなんとなく知ってくれていると思うんですけど、さなりとしてのパブリックイメージからすると意外かもしれません。僕、結構昔から勘違いされやすいというか、「全然そうじゃないのに」って思うように見られることが多いんですよ。
徳島から兵庫に引っ越した時も超クールで成績優秀っていうイメージで見られていました。本当はただ緊張してしゃべっていないだけなのに(笑)。根は明るくて元気ですし、友だちと騒いでいるタイプだったんですけどね。最近も少し前にTwitterでエゴサーチしてみたら、僕のことをスペックがめちゃくちゃ高い完璧人間だと思っているツイートを見つけました。 ──SNSといえば近年、より誹謗中傷が問題視されるようになっています。さなりさんも2021年7月以降、複数回にわたって誹謗中傷や脅迫を受けて声明文を出されていますね(外部リンク)。
さなり そうですね。僕のことを知っていて「なんとなく嫌い」っていうアンチからの誹謗中傷だったらわかるんですけど、もともとファンだった人がやっているんですよ。僕のことを好きだった人が行き過ぎて攻撃してくるのはなんか怖いですよね。
──ファンだった人というのは、なぜわかったんですか?
さなり SNSで「前のライブはここがよかった」「この前のライブはこうだったのに」みたいなことを言っているんですけど、昔からライブに来ていないとできないような発言なんですよね。おそらくその人の中に理想のさなり像があって、僕がそれとズレていくのが気に入らないんだと思います。
「もっとこうした方がいい」「髪型を変えた方がいい」とめっちゃくちゃ細かく具体的なことを指示してきて、理想を押し付けるメッセージがくるんです。その上で暴言も送られてくる。去年なんかはほぼ毎日「死ね」っていうボイスが送られてきていました。SNSをいつ見ても「死ね」。ブロックをしてもアカウントを変えて何回も送ってくるんです。 ──精神的に落ち込んでいた時期とも重なっているのでしょうか?
さなり ちょうど曲がつくれないと悩んでいた頃にエスカレートしてきたので、SNSはあまり見なくなりましたね。
いつ開いても「死ね」ってメッセージがきているので、目にしてしまうとやっぱり落ち込みますし、さなりとして活動するモチベーションが削られてしまうので。曲もつくれないし、誹謗中傷もあるし「全部辞めて普通に暮らそうかな、Uber Eatsの配達員でもやろうかな」と思った時期もありました。
──そういったことや曲がつくれないことを仲間に相談されていたんですか?
さなり もともと人に相談するタイプじゃなくて。そもそも、クリエイターやアーティストの友だちがあまりいないんですよ。
『白雪とオオカミくんには騙されない』で一緒だった(網代)聖人くんは仲良いんですけど、その頃は聖人くんの相談に乗っていたので、僕からは相談していなかったと思います。スタッフさんには「相談したり仕事の話をしたりもできるし、モチベーションも出てくるから友だちつくった方がいいよ」って言われているんですけど(笑)。
──ゲーム仲間に相談したりもしませんか?
さなり ゲーム仲間もいるっちゃいるんですけど、頻繁に連絡を取っているわけでもなくて。一番一緒にゲームしているのは兄貴なんですよ。僕もライブやこうした取材のように、外に出る仕事以外は兄貴と同じような生活なので余計に(笑)。
でもまあ、今は世の中も動きはじめているし、制作の熱量みたいなものを少しずつ取り戻すことができています。
「僕は僕を 今日も愛してやまないの」
──再始動しつつあるさなりさんですが、4月1日には新曲「Begin Again」をリリースされました。2021年にSKY-HIさんを迎えた楽曲「2FACE feat. SKY-HI」とも繋がりを感じるような曲ですが、ご自身としてはいかがですか?さなり そういう面もあると思います。「2FACE」は泣きながらレコーディングしたのもあって印象深い曲です。
普段はそこまで感情を表に出すことはないんですけど、ちょうどその頃実家の犬が死んだり、ほかにもいろんな出来事が重なったりして。家でデモをレコーディングしてたら、なんでか涙があふれてきたんですよね。曲をつくってる時に泣くのは初めてでした。
──「2FACE」の歌詞やメロディが当時の環境的にご自身に刺さったということでしょうか?
さなり そうですね。でもどのへんだろう……一番最後のライン、ラスサビ後のフレーズがすごく好きですね。
嫌がって 苛立って
気になって仕方なくて
誰だって 俺だって
僕だってそんなもんさ
正しさは時に刃
優しさはいつも愛だ
いつだって いつだって
君の味方でいよう 「2FACE feat. SKY-HI」より
さなり みんないろいろと思うところがあるんだなって知ることができました。「遊びたい」「外に出たい」「ライブに行きたい」など叫びのような言葉が多かったですけど、今の状況ならではの言葉もポジティブな言葉もたくさん送ってもらえました。
楽曲制作前はそういったみんなの言葉を歌詞にしようと思っていたんです。でも自分の気持ちが先走ってしまって、最終的に、自分の思いとみんなの思いを繋げるような歌詞が出来上がりました。
──特に気に入っているフレーズはありますか?
さなり 最後の〈生きれば生きるほどに 汚れていくこれも でもそんな僕は僕を 今日も愛してやまないの〉ですね。自分のことを嫌いになっても、結局自分が自分のことを一番愛しているんだなと思う瞬間がよくあって。その時の心境を歌詞にしました。
「Begin Again」はみんなから言葉のヒントをもらいましたし、自分の思いもかなりあったので、歌詞は比較的早く書き上げられたと思います。2〜3時間くらい。生きれば生きるほどに
汚れていくこれも
でもそんな僕は僕を
今日も愛してやまないの
ねぇ
消えた言葉も心も
形を変えていくよ
見上げればほらね
⻘く輝く世界 「Begin Again」より
──サウンド面でのこだわりを教えてください。
さなり 実はこの曲のトラックをつくっていたのがMV撮影の1日前だったんです。かなりギリギリだったので、最初はサンプル素材を並べまくってデモトラックをつくって、そこに自分の歌を入れてデモ音源を完成させました。
そこからバンドのメンバーにお願いして、生音に差し替えてもらってアップデートしています。サンプル素材でコードが合っていなかった部分もあったので変えてもらったり、ギターのフレーズも入れ直してもらったり、アレンジもしてもらいました。いつもとつくり方が違ったんですけど、いい感じに出来上がったと思います。
さなり リリースが4月なので、新しいチャレンジをする人ですかね。就職する人や、僕みたいに悩んでいて再始動する人に聴いてほしいです。
──お話にもあった通り、さなりさんも再始動されますが、今後の活動に対するビジョンはありますか?
さなり いったんはマイペースに活動しようかなと思っています。それと、もうちょっとラッパーっていうイメージを付けられたら良いですね。ラップ曲をもっとリリースしたり、ラップをしている映像を出したりできたらなと。
最近NFというラッパーの曲をよく聴いているんですけど、彼を筆頭にアメリカや韓国など海外ラッパーの曲を聴くことで、自分の引き出しを広げられている実感があります。それによってラップも上達してきたので、もっといろんな人にさなりのラップを見てもらいたいです。
──現時点における「さなり」としての最終形態とはどんな姿なのでしょうか?
さなり 難しいですね。まず音楽があることは前提なんですけど、ゲーム配信をはじめ、いろんなことをやれる人になりたいです。音楽におけるプロップスがめちゃくちゃある上で、音楽以外のこともできる人が理想です。
最近、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)がプロゲーミングチームに加入しましたよね。そういう自由な存在、いろいろなことに対して自由に動き回れる存在を目指していきたいです。
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