本作は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で職を失った映像作家・青柳拓さんが監督・主人公をつとめるドキュメンタリー作品。
出稼ぎのため上京し、デリバリーサービス「Uber Eats」の配達員として生計を立てる日々を、全編スマートフォンとGoProで撮影。
コロナ禍で見たこともない風景が広がった東京を舞台に、一躍需要が増えた自転車配達員の視点から現代を捉えた作品となる。
コロナ禍による生活苦から誕生した『東京自転車節』
映像作家と代行運転者として山梨県で暮らしていた青柳拓さん。『井戸を掘る(仮)』
— ポレポレ東中野 (@Pole2_theater) January 4, 2020
青柳拓|20分
「拓、ウチに井戸を掘ってくりょう。」と叔父に頼まれた青柳は井戸を作るために穴を掘る。いつもウチに遊びにくる友人、斎藤との非日常のような日常。穴を掘り続けた先に二人が見たものとは。 pic.twitter.com/xUZTTFOVIa
デビュー作『ひいくんのあるく町』は、自身が生まれ育った町を愛情を込めて描いた作品だ。
2020年にはドキュメンタリー映画『井戸ヲ、ホル』がポレポレ東中野で上映されている。
— 青柳 拓 @ 映画 東京自転車節 監督 (@otogisyrupz) May 4, 2020映像作家と代行運転、二足のわらじで順風満帆だった日々も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、収入源を失ってしまう。
日々の生活費に加えて、大学に進学するために借りた奨学金の滞納。その額は550万円にものぼった。
厄災に職を奪われた青柳拓さんは家族や周囲に止められながらも、生活費稼ぎと奨学金返済のために上京して、自転車に跨り配達する日々を選ぶ。 山梨から自転車で上京する際、「県を跨いでの外出自粛要請が出ていましたから、山梨から東京に行くのみにしようと。山梨にはコロナが落ち着くまで帰ってきてはいけないという誓いを自分に立てて、片道切符で東京に向かいました。」と確固たる覚悟を持って挑んだという青柳さん。
感染予防に徹しながらも転々と都内の友人宅に居候して、晴れの日も雨の日もペダルとカメラを回して、自転車配達員として稼ぐ姿を自身の手で記録に収めていた。
自転車配達員に対する世間からの印象
「Uber Eats」の配達員(公式名称は「配達パートナー」)を筆頭とする自転車配達員は、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い需要が高まっていった。自分にとってウーバーはコロナ禍で仕事がなくなった時にすぐに働かせてくれた仕事。社会のセーフティネットとしての役割も果たしてると思う、いまも。感謝してるからこそ、今回の態度はあまりにも横暴であると声を伝えたい。ウーバーイーツユニオンをはじめとした配達員たちの声に耳を傾けてほしい。 pic.twitter.com/4TGttqkBxB
— 青柳 拓 @ 映画 東京自転車節 監督 (@otogisyrupz) May 7, 2021
そんな自転車配達員で、一番の問題とされているのが運転マナーの悪さだ。
2020年4月には、交通事故による配達員の死亡事故が発生。これを皮切りに、自転車での首都高速道路走行、当て逃げ事件などが報道された。
一部の問題行動の報道によって、世間からは自転車配達員のマナーが悪いというレッテルが貼られてしまったといえる。
これらを受け、2021年3月には13の事業者からなる業界団体「日本フードデリバリー協会」が発足。現在進行形で課題と向き合い、ルールが制定されてきている業界だ。
無名無職無一文が映す半径2メートルの世界
「漕げや、稼げや、生き抜けや。」と本作の宣伝文句に使われているように、コロナ禍という未曾有の危機の中、自転車配達員として懸命に生きる青柳拓さんの人生を切り抜いた作品だ。
それに加えて、現代の日本が抱える貧困、雇用形態、厄災の影響などを、青柳拓さんの自転車配達員の日々を通して垣間見ることができる。
青柳拓さんは自転車配達員をはじめる際に「今の東京の緊張感を記録しておきたいと思ったんです」とコメント。この作品は、自転車配達員だけではなく、映像作家としての姿、そして青柳拓さんの生き様を映したドキュメンタリー映画だ。
「ドキュメンタリーを志す者として、誰もいない東京にも興味がありました。自転車配達員の視点からコロナ禍の東京を撮り続けたら、何か見えてくることがあるかもしれない、そしてそれは無名無職無一文で失うものがなにもない自分にしかできないんじゃないかと思いました。」 『東京自転車節』公式サイトの青柳拓 監督インタビューより
The most personal is the most creative
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作品情報
東京自転車節
- (2021/日本/93分/日本語/カラー/DCP/ドキュメンタリー)
- 監督
- 青柳拓
- 撮影
- 青柳拓、辻井潔、大澤一生
- 編集
- 辻井潔
- 構成・プロデューサー
- 大澤一生
- 出演
- 青柳拓、渡井秀彦、丹澤梅野、丹澤晴仁、高野悟志、加納 土、飯室和希、齊藤佑紀、林 幸穂、加藤健一郎、わん(犬)
- 協力
- 秋山 周、望月亮憲、斎藤大雅、小池ほのか、長谷川桃花、今野梨保、今井亜紅里、岡 啓輔
- 岡 千秋、河原伸彦、朝野未沙稀、渡辺健人、一瀬そら、金 善、韓成旼、塩澤拓郎
- たかくらかずき、新見 直、青柳正彦、青柳一美
- 音楽主題歌
- 「東京自転車節」
- 作詞・作曲
- 秋山 周
- 宣伝
- contrail
- 製作
- ノンデライコ、水口屋フィルム
- 配給
- ノンデライコ
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