カエデの登場
今度は樋口楓をモチーフにした不思議なキャラクター、カエデがステージにあらわれる。「みんながかわいいって言ってくれて嬉しいけど、どこがいいん?」とご主人に似て謙虚なカエデだが、食事に関しては譲れない独自の哲学を持っているようで、好きなものをいっぱい食べたいと楽しそうに語る。一通り言いたいことは言いきると、ご主人と一緒に『たこ焼きロック』を披露。こてこてのオールドスクールな音色にのせて好きな食べ物を羅列する痛快なサビに、欲望をストレートに放つ「食いたい!」のシャウトと、肩の力が抜けてしまうようなおもしろい楽曲だが、この表現の幅広さも樋口楓が愛される所以であろう。緩みきった雰囲気は彼女の言葉で一気に引き締まることになる。再び暗転した会場に映し出されたのは22歳の樋口楓からのメッセージだ。ここまでも圧倒的なステージングを見せ、今まさに夢へのステップを進む17歳の自分に対し妬むような気持ちを抱えることを明かす彼女。Ifの自分への簡単には整理できない思いを絞り出すように言葉にしていき、自分が選べなかった道を突き進む自分に対してのネガティブさを捨て去ることができず、だがその気持ちを認めることが未来へ歩き出すための最初の一歩という答えへ辿り着く。断片的に語られる情報からは、22歳の彼女が今どんな夢を抱え、どんな壁に直面しているかはわからない。だが目をそらさずに自らのアンサーを導き出した彼女なら、どんな困難な道であっても夢へ向かって歩んでいける。そう確信させるだけの決意の光が、彼女の目には見えた。
22歳の自分との邂逅を果たし、今までになくシリアスな空気のなか始まったのはアルバムのリードトラック『アンサーソング』。ステージを歩き回ることもなく身振りも最小限にして、ひとつひとつ魂を込めるように放たれる彼女の歌声がかつてない迫力を伴って聴く者の心へ迫る。もう一人の自分が辿り着いた答えに今の自分の思いを重ねて紡がれたアンサーは、どんな苦境にあっても消えることのない確かな光となって、これからも彼女の行く未来を照らしていくだろう。
心模様をあらわすような夕焼け空がステージに映し出されると、穏やかな旋律と共に『mìmì』がはじまる。感情を激しく揺さぶるロックナンバーは彼女の真髄だが、優しく寄り添うようなバラードも持ち味の一つ。ファンと共に作詞にも挑戦した思い出深い『For you』と繋ぎ、柔らかな歌声でフロアを暖かく包み込むと歌姫としての確かな実力を証明して見せた。
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