リアルライブの価値が揺らぐ現在に
──新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、多くのライブが中止されています。ようやく開催の目途が立っても制限付きで、ライブの価値が見直される状況になってきていると感じます。制作サイドから見て、リアルでのライブの価値はどのように変わっていると感じますか?渡辺 配信ライブが増えたことによって、キャパシティの制限もなければ、投げ銭のような新しい応援の形もできる配信ならではの利点に多くの人が気付いたと思います。
ですが、ライブをする側の気持ちとして、やはりカメラに向かってパフォーマンスをするよりお客さんの前に立った方が気分が乗るでしょうし、その特別な体験を生み出す場こそリアルライブだと思うので、それが制限されている今、逆に価値はどんどん上がっているように感じます。 ──仰る通り新たな体験を生み出す配信ライブが数を増やしその価値を高める一方で、まだ“リアルでのライブの代替”としての認識も強い印象です。その上で、今後配信ライブはどのような発展を遂げていくでしょうか?
渡辺 そもそも今行われている「配信ライブ」って何パターンあると思いますか?
──何パターン、ですか……。これまでならライブBlu-rayとして販売していたような、ライブをそのまま撮影して配信する形がひとつ。加えて配信ならではの演出を凝らしたもの、その2パターンくらいでしょうか……?
渡辺 無茶ぶりに答えていただいてありがとうございます。その通りだと思います。追加で、僕の観点からは、配信ライブはその性質を大きく4つの形態に分けることができると考えてます。
1つは説明していただいた中にもあった、ライブをそのまま撮影するもの。コロナ以前でライブ後にディスク化された時の映像に近いです。今の配信ライブとしてよくある形ですよね。
2つ目は音楽番組的な配信ライブ。生でも収録でも複数のライブパフォーマンス映像を繋げて放送へ乗せる音楽番組という形は言ってしまえば配信ライブと近いと思うんです。
説明の中にあった後者のライブにも近しいですが、そのまま配信するより映像表現として幅が広がりますから、生だけにこだわらず収録や中継だからこそできる特別な演出を組み合わせた質の高い体験がつくりやすいですし、今後主流になっていくかもしれません。 3つ目はMV的な配信ライブです。音楽番組でもそうですが、どうあれ配信で見せられるのは映像ですから、もっと表現を突き詰めてMVのようにつくりこんでみようという考えは当然出てくると思います。生感を捨ててなんでもありな演出を施すことにより、新たなライブ体験を生み出すことにも繋がっていくでしょう。
そして4つ目がファンを中心に置いた配信ライブ、韓国のアーティストなどでよくみられるやり方ですね。どうしても配信ライブはファンが直接見えないので、アーティストやディレクターの気合いが前面に出がちです。そうするとファンの存在が薄れてしまうのですが、そこをグッと堪えて一歩引いて寄り添う...例えば、多少ダサくなっても、世界中から選んだファンのオンライン通話画面をステージのLEDビジョンに表示して、MCで会話したりとか。
見る側を主体とすることで、オンラインだからこそできるファンとのコミュニケーションの色々な形が今後配信ライブで多く見られてくるのではないかと思います。
4つに優劣があるわけではなく、もちろんすべてが正解の形です。ただ配信ライブといってもひとくくりにはできない時代が確実にやってきているので、その中で学芸大青春がどんなライブをしていくかは、これからしっかりと考えなくてはいけません。
──加えて近年ではヘッドマウントディスプレイをつけてのVRライブも数を増やしていますが、その方面についてはいかがでしょう?
渡辺 VRライブは現状まだどうしても技術的な制限が多く、受け入れられるかどうか好みが大きく分かれるのかなと感じています。
本来エンターテイメントの種が芽吹くのは一般に認知された時であって、技術に人が寄り添うのではなく、人に技術が寄り添う状態が理想です。
これからヘッドマウントディスプレイの性能が上がって、誰もが気軽に見れるようになる未来はくるかもしれませんが、現状ではまだ技術に人が寄り添わなくてはいけない状態を脱せていません。
現状僕らができることとしてはVRに注力するというより、ひとつのオペレーションで現地の人も配信で見ている方も、そしてVRで見る方も楽しめる形をつくることが重要だと思っているので、色んな方に楽しんでもらえるように、視野を広げてコンテンツをつくっていきたいですね。
バーチャルならではの必殺技を活かすために
──リアルとバーチャルの繋がりについてうかがいましたが、ライブ制作という観点で見た時に両者の相違点など、制作側だからこそ感じる部分はありますか?渡辺 我々stuのいいところはアニメ系のものから韓流アーティスト、国民的なアーティストなどありとあらゆるライブ演出の経験とノウハウがあることだと思っています。そこで得た知見は全てキャラクターによるライブに繋がっていますし、逆もそうなんです。
それを可能にするための仕組みをつくったうえで取り組んでいるので、基本的にはリアルにせよバーチャルにせよ演出に取り組むうえでの意識にそれほど違いがあるわけではありません。
リアルでやったら面白かったことをバーチャルでもやってみようということができていて、いろんな領域で生まれたアイデアを繋げることを思想として大事にしています。
このセットのアイデアは空想じゃなくて、去年の紅白でやられていた演出が元になっていて、それをバーチャルに落とし込んだ形になっています。
この演出は現実で再現しようとすると実はかなり難しいんです。あれだけ高解像度のLEDをスムーズに動かすのは技術的に困難なのはもちろん、できたとしてもかなりのお金がかかります。でもバーチャルのステージでなら物理法則を飛び越えて実現することができる。
バーチャルならできることを突き詰めようとすれば、どこまでも現実味のないステージをつくることもできます。ですが僕としてはバーチャルならではの要素は必殺技にしたいので、舞台転換や機構など、現実的に起こりうるものとしてできるものはなるべく現実に即した形で表現するようにもしています。
杉沢 その点が渡辺さんと最初にお会いした時に我々が強く共感したポイントでもあるんです。
私は長く音楽業界に関わる中で、ありがたいことに様々な規模のアーティストと関わって、いろんなライブを見てきました。バーチャルコンテンツのライブもいくつか見るうちに、よくない意味で現実感がないのが大きな欠点だと感じることがあったんです。
なので学芸大青春のライブは現実感がきちんとあり、実際にライブハウスで5人がライブしているという光景が現実にもあり得るような演出をしたいと思いを伝えたところ、かなり食い気味に同意していただけたんです(笑)。
現実でやろうとすると難しいが、起こりうることではある。そのギリギリを攻めていただけるのは私のイメージにとても近しく、それだけ思いを同じくした渡辺さんに演出していただけるのはとても心強く感じます。
「学芸大青春」と「VTuber」の違い
──「学芸大青春」の特徴的な部分として、近年盛り上がりを見せるVTuberカルチャーに対して絶妙な距離感を保っていることが挙げられると思います。技術としてはほぼ同じものを活用しながら、自らVTuberと名乗ることがないのはもちろん、共演などの経験もありません。運営として、どのように位置付けられているのでしょう?渡辺 VTuberの場合はそれぞれ強固なキャラクター性やバックグラウンドを持っている分、その文脈を理解しないとファンになることができない、ハマるまでのハードルが少し高いように思う部分があります。そもそも「キャラクターが人格を持つ」ということに対して理解をしなければならない。
もちろんハードルを越えた先にはVTuberならではの面白さがあって、事実多くの人を夢中にしているわけですが、まだどうしても視聴者の方から歩み寄らなければいけない部分が多いように感じてしまいます。
学芸大青春はキャラクターが動いているという意味では似ていますが、実在する本人たちが今は2次元の姿で活動しているということを明かしている、要するに2次元の姿も生身の姿もどっちも本人なので、カルチャーの文脈などを考えずに単純に絵がいいとか曲がいいとか声がいいとか、そういう原始的な部分からハマっていける。客観的に見てそこが最も大きな違いであり、学芸大青春ならではの魅力を生み出すポイントにもなっていると思います。
それぞれ多くのファンを魅了しているのですからどちらも正解なんです。ただ見え方こそ同じでも、大事にしているものや視線が違う場合があって、学芸大青春とVTuberカルチャーはそういう関係性にあるんだと思っています。
ただ一つ思うこととして、例えばVTuber事業を行う会社がせっかく資金調達をしても、これまでの音楽ビジネスと変わらずCDやMVなどの制作費用にしているだけでは、カルチャーとして新しくても産業として広がりがなくなっていくのではないか、という懸念があります。その点、バーチャルの可能性を追求したいと考えた時、学芸大青春のやり方なら突き抜けられるのではないかと考えています。
杉沢 学芸大青春はVTuberやアニメ、ゲームなど既存のカテゴリーに属していない存在と言えますが、逆に属すことができていないとも言えるんです。
見た目こそ2次元のキャラクターですが、原作となるアニメがあるわけではありませんし、アプリゲームなどの展開もない。VTuberではありませんし、かといっていわゆる普通のアイドルグループかというと、それも違いますよね?
「2次元と3次元を行き来する」この分かりにくいコンセプトをどこまで守るべきか、プロジェクトスタートからしばらくの間、実はちょっと迷っていたんですよ(笑)。言葉の上ではシンプルでも実感を伴って理解してもらうのは難しいですし、メンバーにも前例のないチャレンジを課してしまっています。
──確かに、前例のないプロジェクトですからね。
杉沢 その独自性を強みに思ってもいますが、先駆者のいない道を歩むうえで不安や迷いを抱えることは、正直なところあります。メンバーたちにとっても、先駆者のいない世界で孤独な戦いになってしまっていたのではないかと不安に思うことはあったんです。
ですが今年に入り、「漂流兄弟」を発表したくらいから徐々に流れの変化を感じるようになって、5月の配信ライブを成功させたことによって明確に見え方が変わったと思っています。信じてやってきてよかったと思えるようになりました(笑)。
どこにも属すことができない不安定さは、逆に言えばなんでもできる自由とも言えます。それこそがなんにでも挑戦でき、色んな魅力を見せられる学芸大青春ならではの素晴らしさだと思っています。だから今は一歩一歩進んでいきたいと思っています。
全部が魅力
──ここまでもうかがってきましたが、改めて渡辺さんから見た「学芸大青春」の魅力を上げるとするとどの部分になるでしょう?渡辺 ビジュアルもいいし、声もいい。全部魅力だと思っているんですが、ここまで話してない部分でいうと、やっぱり曲がいいですよね。
ずっとおふざけをしているわけではなく、かっこよくキメる時はキメることができる。いろんなことをバランスよくできるのは、本人たちのパフォーマンスやプロジェクト全体の取り組みとして土台がしっかりできているからこそですし、それが自然と魅力としても表れていると感じます。もう、出会った時から僕自身「学芸大青春」の大ファンです。
──杉沢さんは普段からメンバーとのコミュニケーションをとっていて、彼らの意見をプロジェクトに取り入れることもあるそうですが、今回のライブにあたってもメンバーとの話し合いや、それによって生まれたアイデアなどはあるのでしょうか?
杉沢 メンバーとの話し合いの場は意識的に多く持つようにしています。といってもミーティングのような堅苦しいものではなく、日常での会話みたいなものですが、案外そうした中から彼らの大事な思いを知ることができますね。
どうしたらいいだろう? と漠然と問いを投げかけるのではなく、私はこうしたいと思いを伝えると彼らも返してくれる。私が考えているようなことは不思議と彼らも同じように考えていて、今回のライブに関してもチャレンジしてみたいことが同じだったということがありました。彼らのアイデアを取り入れた演出はもちろんあるので、詳しくは当日のライブをご覧くださいね。
──初のリアルライブとして多くの挑戦が詰まった公演になると思います。最後に、ライブを待ち望むファンの方々へ一言いただけますか?
渡辺 お待ちいただいているファンの方々はもちろんですが、少し気になったから見てくれたような方、後でアーカイブで見る方も含め、どんな人がどんな状況で見たとしても学芸大青春のエンターテイメントの力によって、ひとつの線で繋がれるようなライブにしていきたいと思っています。
現地で見てくださる方にも配信で見てくださる方にも、絶対最高だと思ってもらえるライブをメンバーや杉沢さんを下から支える形で一緒にお届けしますので、ぜひアルバムを聴き込んできて、グッズを身に着けて楽しんでいただけたら嬉しいです。
学芸大青春とライブの現在地
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