王者の語るサイリウムダンスの魅力
大熱狂の大会終了後、大会を主催した株式会社ルミカの小室さんと優勝者のHongさん、そして審査委員長のギアさんにお話をうかがった。ルミカ「もっと世界へ」
──主催・運営としてはどのような大会にしたいと思って臨まれたのでしょうか?小室 前回より全体のレベルが上がっているのは、世界中での予選を見るに明らかでした。なので選手の皆さんにはパフォーマンスに集中していただき、今のシーンが持つ熱をしっかりと伝えられるような大会にしようと意識していましたね。
──サイリウムダンスが盛り上がりを見せる一方で、ルーツであるヲタ芸はアニソンライブやアイドルイベントなどの現場において、過激になりすぎるあまり規制が強まる流れになっています。サイリウムダンスを文化として推し進める立場としてはどのように捉えてらっしゃるのでしょう?
小室 我々ももちろんその動きは察知していますし、あまりに過激なものは規制が必要とは思っています。ですがライブでは規制しつつも、アニクラなど激しいヲタ芸を求めるファンの方も受け入れられるイベントも出てきているので、うまく住み分けが進んでいけばよいなとも思います。
サイリウムダンスは、ヲタ芸をよりエンターテイメントに進化させた文化なので、プレイヤーを大事にしながら独自の文化として育てていきたいと思っています。
──サイリウムダンスの未来についてはどんな展望を描いていらっしゃいますか?
小室 世界大会を開催するにあたって、様々な都市で予選大会を開催して回ったのですが、それぞれのコミュニティを背負った選手たちによって、シーンに新たな刺激がもたらされることを期待していたんです。結果的にはその期待通り、今まで見たことのないような技を繰り出す選手が出てきて、最高の盛り上がりになりました。今後は南米など、より幅広く展開していきたいと思っているので、また新たな変化が起き、全体がもっと盛り上がっていくと期待したいですね。
優勝のHong選手「サイリウムが描く光の軌跡は美しい」
──優勝おめでとうございます。改めて、本日の感想はいかがでしたか?Hong 前回の大会は観客として見ていて、サイリウムダンスの素晴らしさを改めて感じさせられました。サイリウムダンスを通じて友達の輪を広げたり、自分の思っていることをもっと自由に表現できたら楽しいだろうなと考え、1年間練習を積んできたのですが、今日はそれが実現できて、とても嬉しかったです。
──そもそもサイリウムダンスとはどのように出会いましたか?
Hong 両親がダンサーなので、影響を受けて小さい頃からダンスはやっていました。ですが、既存のスタイルではなく、自分のオリジナルのスタイルを身に付けたいと思っていた頃に出会ったのがサイリウムダンスだったんです。
──そのルーツが異次元のパフォーマンスに繋がっていたんですね。最後に、世界王者として感じるサイリウムダンスの魅力を教えてください。
Hong サイリウムダンスは、サイリウムを手に持つということ以外にルールはなく、表現の幅がとても広いです。振り回すサイリウムが描く光の軌跡も美しいですし、全身をひとつのラインに見立てて華麗なパフォーマンスができるのはなによりの魅力だと思っています。
もっと憧れの存在に
大会審査委員長 ギア「日本はもっと奮起してほしい」
──大会の手応えはいかがでしたか?ギア 今回はHong選手が、今まで見たことないオリジナルの技を披露して優勝したので、新時代が到来したと評される方もいらっしゃいましたが、僕としては一方で喜ばしいことではない面も生まれていると感じています。
サイリウムダンスは日本で生まれた文化ですから、日本のプレイヤーにはプライドを持って、もっと高い意識でバトルに挑んで欲しいと思っているのですが、その熱意が薄れてしまっているような雰囲気を感じていて、その懸念が今回こうして結果に出たのではないかと思っています。
もちろん日本のシーンが停滞していたわけではありません。それぞれのプレイヤーがしのぎを削って発展していましたが、世界のライバルはそれ以上のスピードで進化していた。この結果を受け止めて、次は絶対に負けられないと奮起してほしいですね。
──特に印象的だったシーンはありますか?
ギア ソロ部門が白熱していたのはもちろん印象的ですが、チーム部門の盛り上がりも目を見張るものがありました。ずっとシーンを見てきた僕から見ても、今日のチーム戦はこれまでとは比べ物にならないクオリティのパフォーマンスが展開され、非常にレベルの高い大会になっていたと思います。
今回出場した5チームは普段からよく見ていますし、努力してきたことも知っていますから、それぞれ絶対に負けられないという熱意が感じられましたし、結果としてとても素晴らしい勝負が繰り広げられていたのはとても印象的です。
──大会の最後には「サイリウムダンス協会」の設立も発表されました。改めてその意図をうかがえますか?
ギア 協会設立の一番の目的は、サイリウムダンスというカルチャーを大きくすること。カルチャーを大きくするためには、ファンを増やす必要があり、そのためにはそもそもプレイヤーを増やして、彼らが継続的に活動できる環境を整備しなくてはいけないと考えたんです。
意識を高く保ちながら活動を続けるには、目標が必要です。その目標としての世界大会の開催やプロ制度の導入をより円滑に進めていくために協会の設立に至りました。
──協会の設立に、新たな世界王者の誕生と、カルチャーとして大きな節目を迎えたと思います。シーンを牽引してきた存在として、今後の展望はどのように描いてらっしゃるのでしょう?
ギア 我々はサイリウムダンスのパイオニア、Ginyu forcEとして活動を続けてきましたが、3年ほど前からはプレイヤーとしてではなく、後輩プレイヤーの育成やイベントのサポートといった運営側に動きをシフトしていました。
そうして協会設立にまで至りましたが、2020年以降はより一層GinyuforcEがチームとして、圧倒的トップに立つべく活動しようと思います。
──衝撃的なニュースですが、理由をうかがえますか?
ギア カルチャーの発展の為には、Ginyu forcEが持つインフルエンス能力をもっと活かしていかなければいけないと考えたのが理由の一つです。運営側に回ったここ数年の活動で、プレイヤーからの信頼を得られたと思うので、次は世間的にも認知度の高い我々がプレイヤーとして先頭に立ち、よりサイリウムダンスの素晴らしさを広めていきたいと思いました。 後輩プレイヤー達にとっても、トップである僕らが活躍して憧れをもってもらうことが一番の刺激になるとも考えました。もっと有名になりたいとか、もっとお金が欲しいとかがモチベーションだっていいんです。まずは僕らが成功例をしっかり示したい。
もちろん反感を買うことも覚悟していますが、僕らとしては活動の原点に立ち返るだけなので、プレイヤーとして研鑽を積み、シーンの内外から注目を集める存在になっていきます。
サイリウムダンスが辿る軌跡
ヲタ芸そのものは、現場で規制の流れにあるというのは述べた通りだ。イベントの冒頭で長すぎる注意事項が読み上げられるようになったのも、もはやお決まりの景色である。過激さを増す現場の空気に嫌気が差していた筆者としては、ルーツを共にするサイリウムダンスがどのような発展を遂げているのか、非常に興味があったのだが、レポートの興奮具合から分かっていただける通り、結果としてはサイリウムダンスが独自のカルチャーとして素晴らしい発展を続けていることをこれでもかと理解させられる夜となった。
人と人が競い合う場にはドラマが生まれ、人生を賭けた戦いは見るものの胸を打つ。どこにもない独自の魅力を持ったサイリウムダンスカルチャーが、アートとして、エンターテイメントとして描き出す光の軌跡を、これからも見守っていきたい。
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