「バーチャルマーケット」主宰 動く城のフィオインタビュー 仮想空間から「社会と繋がれる」

「仮想現実空間を発展させ、豊かにする」

「九龍帝国城下町」コンセプトアート/「バーチャルマーケット」公式サイトより

──「バーチャルマーケット」はこれまでに2回開催されていますが、各回で「できたこと、できなかったこと」があったと、SNSなどでも言及されていたように記憶しています。それぞれの回での反省点や、それをどうやって克服してきたのですか?

フィオ 第1回の会場は非常に描画負荷が高く、まともに会場を見ることができない来場者さんもいました。

第2回では、入稿ルールを整備して、最終的な軽量化を見据えたブース構成に統一化することで、かなりの負荷削減を行うことができました。一方で、出展者さんの望む表現を再現できなかったり、会場の下見やチェックができない等の問題が起こりました。

「バーチャルマーケット3」ではスケジュールやルールチェック、配置の一部自動化を通じ、開催前に出展者さんが自分のブースを実地確認できる状態をつくることができました。

まだまだ課題は山積みで、一つ課題をクリアすればまた新たな壁にぶつかっているような状況です。これからも、より気軽に参加できて、より気軽に出展できるような仕組みと体制を整えていきたいと思っています。

──今後、「年に2回開催」を掲げていますが、仮想空間における「コミックマーケット(コミケ)」のような位置付けを想定している部分はありますか?

「バーチャルマーケット3」/「バーチャルマーケット」CAMPFIREサイトより

フィオ 「コミケ」と「バーチャルマーケット」は成り立ちや運営方法が全く違うので、位置付けとして同じものになるかと言われるとそうではないと思います。二次創作がメインなのか、一次創作がメインなのか、というのも大きく異なりますし、紙とデータという点でも大きく違います。

バーチャルマーケットは機会である、と私は考えていて、出展者さんにとっては作品を発表する機会。来場者さんにとってはお気に入りのアバターと出会う機会。企業さんにとってはバーチャル空間に暮らす人へ商品やブランドをアピールする機会になります。

「コミケ」が年に2回あるから、それに合わせて本を描く、という人も多いと思います。そういった意味で言えば、機会という点においては似通った部分もあるのかもしれません。

──「仮想現実空間を発展させ、豊かにする」という目的で開催されているというお話ですが、フィオさんが目指す仮想現実空間の展望とはどのようなものですか?

動く城のフィオさん/「バーチャルマーケット」CAMPFIREサイトより

フィオ 仮想現実空間は、もう一つの現実、新たな生き方の選択肢になっていくと考えています。

例えば、私はうつ病を患っていて、外出することに対する強いストレスを感じがちです。しかし、そんな私でも、フィオという器とVRという技術を通じて、バーチャル上で社会と繋がることができています。

ほかにも、例えばとても歌や演技が上手いけれど容姿に自信の無い人がいたとして、アバターを纏えば自身の抱えるコンプレックスを乗り越えて「本当に得意で好きなところだけ」に注力した活動ができるようになるかもしれません。

今後、アバターをまとった歌手や俳優はどんどん増えていくと思います。働く=出勤という価値観、生まれ持った肉体と本名に信用が紐付いている状態は、今後アバター文化やxR技術(AR/MR/VRなどの技術の総称)が発展していく中で徐々に塗り替えられていくと考えています。

好きな所で、好きな姿で、好きなことをして生きていくことができる社会の実現。「バーチャルマーケット」の目指すビジョンが、より多くの人の幸せな人生に寄与することを願っています。

──「バーチャルマーケット」はVR空間上でのイベントとしては最大規模のひとつであり、運営のみなさまがそのフロンティアを開拓しているところかと思います。

今後はVR空間上での大きなイベントも増えてくるかと思いますが、VRイベントの運営の際にこれだけは気をつけた方がいいというアドバイスはありますか?


フィオ 「普段の生活と地続きであるかどうか」を強く意識しています。ハレとケは地続きの場所にあるものなんですよね。

イベントのコンセプトや参加方法が、あまりにも日常から離れ過ぎていると、どれだけ先進的な技術や有名なタレントを起用しても人を惹きつけるものにはなりにくい。

その点、「バーチャルマーケット」は「アバターの姿で暮らす」という日常のすぐそばにある「ハレの日」なので、訪れやすい。もっとVRイベントを盛り上げていく為には、「バーチャル世界での生活との地続き感」だけではなく、「現実世界での生活との地続き感」も演出していく必要があると思っています。

「バーチャル世界」の展望

「バーチャルマーケット」CAMPFIREサイトより

──先日、「バーチャル性生活」についてのアンケートが反響を呼ばれていました。フィオさんは、仮想現実空間上で、現実でできるあらゆることが可能になるべき、とお考えですか? フィオ 私にとってのバーチャル空間は、人生の転機であり、自身を救ってくれた世界でもあります。

現実に寄る辺の無い時、もっと幸せに生きたいと願った時、選択可能なもう一つの人生を歩み始めることができる場所がバーチャル世界であると考えています。

必ずしも現実で可能なことをバーチャルでもやらねばならない必要は無いし、バーチャルだから現実だからと切り替える必要もなく、いつしか自然と混ざり合っていくものだと思います。

──なるほど。その上で、今後やってみたい企画や、実現に向けて動いてる企画などがあれば、教えていただけますか?

フィオ 中長期的には、「バーチャルマーケット」の常設化に取り組みたいと考えています。年に2回のお祭りとしてのバーチャルマーケットは継続していきますが、それと連動するような、仮想空間上のショッピングモール的な空間をつくっていきたいと思っています。

また、短期的には3Dモデル(特にアバター)の用途を増やしていくということにも力を入れていきたいと思っていて、いくつか企画を進めています。

アバターの用途が今は非常に限られていて、ほとんど「着る」ことに使われています。どんどん魅力的なアバターが世に出てくるので、積みゲーならぬ積みアバターが発生してしまっているのも事実です。

アバターモデルに「着る」以外の用途をつくっていきたいと考えています。例えば、アバターモデルを「自分では着ないのだけれど、愛でたい」という潜在ニーズは多いと思います。 ──最後に、今後VRはどのように発展していくと思いますか? フィオさんがVRに対して望んでいる未来をお聞かせください。

フィオ 今後来るバーチャル世界は、いうなれば空間のインターネットだと思っています。

現実世界のすぐ隣、もしくは重なり合った所に存在するもう1つの現実。無数に重なり合ったレイヤー状の世界で、人々が自分自身の望む世界と望む姿を選択し、より自由に生きていける世界。その実現には、VRやAR、5G、ブロックチェーンといった先端技術が必要不可欠です。

今、「バーチャルマーケット」が取り組んでいるのは、その未来に向けた最初の一歩。「皆でこの何もない荒野を耕して、豊かな世界をつくっていこう!」というバーチャル世界のモノづくりのフロンティアです。

バーチャルが私を救ってくれたように、バーチャルに救われる人、バーチャルで人生が変わる人、バーチャルでよりよい人生を送れる人が増えていくことを心から願っています。

追記

9月23日にVRChatにアクセスできないトラブルが発生したため、会期が9月28日(土)23時までに延長されたことが発表された。

「バーチャル」という選択肢

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イベント情報

バーチャルマーケット3

開催日
2019年9月21日(土)~9月28日(土)
開催場所
VRChat

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