FANTASTIC EROTICA

AVは「見た目を現実に寄せたエロマンガ」である

──先ほど「AVの教科書化」という言葉もありました。日本はマスターベーションの初体験年齢が早い一方で、性教育の受講経験が世界と比べて最低水準であるという調査結果もあります。「早熟だが独学」という性事情の中で、AVが身近な「手本」と見られる向きも否定できません。作品の当事者であるお二人は、自身が表現するAVというコンテンツを、ユーザーにどのように受け止めてほしいですか。

戸田 AVは、見た目をすごく現実に寄せたエロマンガみたいなものだと思っていて。

面倒なつながりやコミュニケーションなしに、再生すれば普段見られない場所をのぞけて、それを一方的に許してくれるコンテンツですよね。そういった2次元的なエロや、自分を無条件で受け入れてくれるコンテンツを愛している人、それを必要とする人も一定数います。 紗倉 それ、本当にそう! エロマンガとAVって交互に追いかけ合っているというか。

エロマンガがつくられて、それをAVが真似する。そこからまた新しいエロマンガがつくられる……っていうサイクルがあるからこそ、私たちが出演するAVは、たぶん「二次元化」が理想とされているところがあるんじゃないでしょうか。究極のエロって二次元なんだなって、いつも思います。

AVを見て「これが本当のエロのはずがない!」って、当事者の自分で言ってしまうのもなんですが。やっぱり娯楽であって、模範や教科書にするものではない。ファンタジーです。

戸田 うんうん、そうだね。 紗倉 受け手が色んな空想を抱いてくれるのは、つくっている側としては嬉しいことです。ただ、未成年の方だけでなく、AVを教科書として捉えてしまう、つまり物事の分別ができない状態でAVを取り扱うのは、ものすごく怖いことだとも感じます。そういった意識改善は、保健体育の学習内容とも関連してくると思います。

戸田 私はデビューするまでセックスをしたことがなかったんですけど、実体験がないと教育だけでは本当にわかりません。教科書に載っていることって、リアルさを排除したレクチャーでしかなくて。たとえば「避妊をしましょう」とあっても、コンドームはどこで、どのように買えて、どうやって付けるのかがわからない。男性で、女性の生理をしっかり知っている人も本当に少ないように思います。ふわっと認知している人が驚くほど多い。 戸田 「見たくない」というのもあると思うんですけど、それを「見たくない」と思わせてしまうのもどうなのかなって。日本の性教育はオブラートに包みすぎている部分があって、リアルを想像させないように、あえて書かれているんじゃないでしょうか。

紗倉 無知は怖いなと感じるのが、震災のときに生理用品は生活必需品なのに「贅沢品」として扱われてしまったという話です。その他でも、セックスリテラシーがこんなにも低いものなんだとびっくりすることもあります。マスターベーションが早熟だけれど、セックスリテラシーが追いついていないというのは、結局は学びきれてないだけだと思うんです。

──紗倉さんはYouTuberとしての活動で、セックスの知識や見解を話されていますね。

紗倉 お恥ずかしい……YouTubeではめっちゃうるさいから、私……(笑)。 紗倉 きっかけは、セックスリテラシーがあまりにも浸透してないという実感からです。そこで、私が体感した保健体育的な経験を、若い人たちにも見てもらいたくて始めました。
紗倉さんのYouTube
紗倉 動画は編集で情報量を詰め込めるので、文章を読むのが苦手だったり、コンテンツの消費に長く時間を割かない人にも合っていると思っていて。性的なコンテンツは削除されやすいので、ルールに抵触しないように工夫しながらつくっています。

でも、まこちゃんが言ってたように、もうちょっと教科書も事細かく書いてほしいよね。避妊方法の種類と、それぞれのメリットやデメリットも載せるとか。早いうちから学べた方がいいし、それが自分だけでなくて、相手の身を守ることにもつながるから。 戸田 私もそうでしたが、セックスが日常生活に存在しない人もたくさんいます。ファンタジーで、非現実的で、どこか神聖化して自分の日常とかけ離れたものとして認識してしまうのも、オブラートに包みすぎた教育が要因のひとつなんだと考えますね。自分の身にも起こりえて、確実に対処しなきゃいけないこととして、認識ができていないというか。

──「不純な異性交遊」とみなされてしまう。

戸田 そうそう!

話がずれるかもしれないんですけれど、アイドルや芸能人の不倫を取り扱うときもそうで、不倫が性行為を想起させ、なおかつ「人前に出るような人はセックスを露わにしてはいけない」という考えが持たれているようにも感じます。今はすごく「性がない状態」を他人にも求める人が多い気もしています。

紗倉 そもそも、そのトピックスをみんなが話題にするということは、性に関して高い興味があるということだし、興味の対象として昔から普遍的に変わらないと思うんです。それがわかっているのに「性がない状態」に見せることには、たしかにものすごく違和感があります。 紗倉 誰しもがすることだし、自分の命も親の性行為があって存在する。生命の神秘なのだから、ちゃんと民度が高まっていれば、そもそも規制する意味がどこにあるのかは、不思議に思いますね。

戸田 自分の潔癖を証明できないのに、他人に潔癖を求めることも多いように思うから、それはどうなんだろうなって感じることもあります。

紗倉 他人のあらを見つける事で自分を満たす人たちに、標的にされやすいのかもしれないね。

紗倉まな&戸田真琴、今後の目標は「村長になる」

──AVや性に明確な意識があり、かつ多岐に渡る活動をされているお二人は、AV女優として、文筆家として、あるいはそれ以外で、この先にどのようなことをやりたいですか。

戸田 私って、びっくりするほど未来のことを考えていなくて……(笑)。特に野望もない人間なんですが、この働き方をしていて幸せだなと思っているんです。それはたくさんの人に承認されるからとか、お金がたくさんもらえるから、とは違って……こういう話していいのかな?

紗倉 大丈夫だよ!(笑)

戸田 では、続けます(笑)。今は、月に1回のAV撮影が私の収入の主な部分で、ものすごく贅沢はできないかもしれないけど、生活は困らず、欲しいものも多少は買えて、明日のことに困ることもない状況なんです。お金のことを考えずにお仕事を受けられたり、たまにのんびりしたり、自分で自分を忙しくしてみちゃったり。そういうことを繰り返して、すごく自由だなと思っていて。

たまに、みんなが毎日働いている中で「私は自撮りをしていていいのだろうか?」とか思うこともあるんですけど……いまの生活スタイルを楽しんでいて、そういう時期にしか見えないものがあるはずだし、それを抜けたあとに思うことがあるかもしれない。今の生き方からできることを見つけながら、次につなげていきたいと思っています。 戸田 ただ、AV女優をしている間にしか見れないものは、なるべく見たい。マイナス面も含めて、世界にはこういう職業に就く人たちがいることを記憶していきたいです。そこから、いつかAV女優を辞めるとしても、その先に持っていけるものがあったらいいですね。

紗倉 ひとつ安定した固定給があるけど、ルーティンワークじゃないからこそ、自分のスタイルに合っているというのはすっごく共感できる。やっぱり縛られている感じがないから、その分だけ、余裕がある部分が大きいのかも。

私も明確な「こうしたい!」があるわけではないんですけど、ただタイミングを見失いたくないな、と。やりたいことも節目によって次々に出てきたり、変化していったりするだろうと思っていますし、タイミングよくできるように、地盤を固めることしかできないなって。 戸田 かっこいいなぁ。

紗倉 そうかな?(笑)

AV女優は、自分で忙しくもできるし、余裕をもつこともできる。自由度の高い仕事ではありますよね。あとは、私が暮らす「AV村」は狭い世界なので、悪いことだけはしないようにしたいなと思います。

戸田 あとは、誰でもいいわけではない中で、私のことを好きでいてくれる人たち、私のところに来てくれている人たちを大事にしたいと思っています。それこそ、まこりんを見に来てくれた「まこりん村」の人たちの平和を守るのに、必死になっています(笑)。

それをちょっとずつ拡張しながら、「世の中いろんなことがあるけど、ここへ来たら平和だよ」っていう場所をつくっていけたらいいなぁ。 紗倉 まこりん村、めっちゃ住みやすそう!

戸田 ケンカはないですね(笑)。

紗倉 ものすごく豊かで穏やか! 私もそれを目標にしよう!

──「まなてぃー村」と「まこりん村」をつくるのが、今後のお二人の目標ですね。それって、もしかして政治の世界にも進出……なんてことになるのでしょうか。その時は、またぜひ揃ってお話を聞かせてください。今日はありがとうございました!

エロを再定義する特集「FANTASTIC EROTICA」

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