#FR2は「We are Fxxking Rabbits」をコンセプトに、Instagramをメインとしたエッジの効いたブランディングで知られている。美女のTバック姿や、ときにはヌードまで、女性のセクシーさを前面に出したきわどい写真がポストされている。
一見過激で露骨にも見える石川さんの写真。しかし彼の撮る写真には下品さが一切ない。どこか、被写体となる「女性のエロさ」をポジティブに肯定した空気がある。それを証明するかのように、#FR2は男性のみならず多くの女性に支持され、主にアジアを中心に、世界で人気に火がついている。
性的な表現とみなされたことでInstagramアカウントが凍結された際の、運営への徹底抗戦(その後アカウントは復旧。これは当時例にないことだった)、既存ファッション業界への痛烈な批判など、タブーを恐れずに写真家としても活躍する石川さん。
性への価値観についても、「エッチなことが悪みたいな風潮がよくない」と、「めちゃくちゃ遊んでる」ことを包み隠さず語り、その一方で「ポルノは見ない」とも。
先日、アパレルブランドとしては異例の、アダルトブランド「FANZA」とのコラボもスタートした#FR2。タブーに切り込み、エロを切り取る写真家・石川涼には、日本のエロ、アダルトコンテンツはどう映っているのだろうか。
取材・文:和田拓也 編集:おんだゆうた 撮影:山下智也 ──石川さんがアダルトビデオを見ないというのは、本当に驚きです。
石川 見ないね! 風俗やキャバクラも行かない。個人的な好みだけど、お金がかかると全然興奮しないんだよね。
それってお金への対価としてのサービスで、相手との間に利害関係しかないのよ。俺は相手にもっと求められたい。純粋なのかもね!それに、現実に相手をしなきゃいけない女の子がいっぱいいるから(笑)。 ──地元・静岡で「一通りの女の子と遊んでしまったから上京した」と聞きました。
石川 それはみんながおおげさに言ってるだけだけどさ(笑)。
自分にとってのエロの原風景も、小学校6年生のときの女の子とのデート。その子とはじめて手を繋いだときのことは今でも覚えてるよ。「女の子って、こんなに柔らかいんだ!」って。 ──エロについては現実で場数を踏んで性を学んだということですよね。石川さんの性の教科書ってありましたか?
石川 俺はジャンプとかの漫画だったかな。あと学校でみんなが回してくるエロ漫画とか。だってそもそもビデオとかなかったもん。テレビデオ(※1)とか知ってる?(笑)テレビデオも出たのは俺らが高校生のときとか。
そういう時代だから、一般的にはエロって容易に触れられるものではなかったし、今みたいに開かれたものじゃなかったんだよ。
※1:1990年代に普及したビデオテープレコーダを内蔵したテレビ。1台で視聴・再生・録画ができた。
エロは、日常のごくあたりまえのもの
──これまで一貫して「エロ」を写真で切り取って、#FR2で押し出しているのはなぜなんでしょうか。
石川 だってエロって世界中の人が好きじゃん。みんなに「それを見て!」って言ってるというか。お尻とかおっぱいとかさ、みんな大好きじゃん。それは男も女も。
もちろん、#FR2を世界中で愛されるブランドにしたいし、自分が好きっていうのもある。
やっぱり気づいて欲しいんだよね。女性のお尻から足にかけての緩やかなカーブとかさ。男の人にない美しさじゃん。骨盤の形もお尻の肉のつき方も違うし、女性だけが持ってるもの。その美しさはアートだと思うわけ。同時に、その美しさをもっと当たり前に肯定して、恥ずかしいもんなんかじゃないって思わないとさ。
#FR2は特にファッションブランドとしてエロを押し出してるから、そうしないと世界で戦えないって実感がある。 ──以前も、エロに対しての認識が日本と海外とで全然違うと仰ってましたよね。
石川 日本って必要以上に「エッチ」なものに蓋をするでしょ。ごく当たり前なもんなのにさ。海外でもエロはエロなんだけど、もっとフラットだよね。ちゃんとアートとしてもエロを捉えられるしさ。海外のインスタグラマーとかカメラマンってもっとギリギリな写真を上げてるんだよ。でも全然平気なの。海外の人は許されて日本のカメラマンが許されないってなったら、その時点で同じ場所で戦えないじゃん。すっげーお尻がきれいに撮れた写真があるのに「これアップしたらまた消されるかな」「アカウント凍結されたらどうしよう」って思いながらやってたら勝てないよね。
──日本では「エロ」に「はしたない」っていう認識が少なからずありますもんね。
石川 もっといえば、(海外は)アートも日常の感覚のままで見てるわけでしょ。
昔から海外に行ったら先々の美術館に行くようにしてるんだけど、海外の美術館って敷居がめちゃくちゃ低い。どの美術館に行っても子供がたくさんいるし、寝転がったりしてる。
──床に座って模写したりもしてて、割と自由ですよね。
石川 でも日本じゃ注意されちゃうじゃん。カメラはダメ! 静かに! みたいな。値段もヨーロッパは無料のところが多いし、学生ならかなり割引される。日本の美術館だけが敷居を上げちゃっててさ。だからフラっと美術館になんか行けなくて、「美術館にいくぞ!」って身構えちゃう。まぁ、それは少しずつ変わっていってる気はしてるんだけど。
──その変化とは具体的にどういった点ですか?
石川 浅い深いは別にして、世界的にみんなが10年前よりアートに関心を持ってる。前は物を買って喜んで満足感を得ていたのが、いい景色を見に行ったり、美術館にいってアートを観たりっていう行動と、満足感がイコールになってる感じがする。
それが日本にも現れてると思うんだよね。明らかに日本の美術館のお客さんが増えてる。
──全国各地で芸術祭が開催されてますよね。是非は別にして、地方の振興事業にもなっていて、かつ盛況のところも多くあります。
石川 SNSが普及して「行ってきました!」っていうのがみんなやりたいんだよ。「SNSに特別な写真をあげたい=アートを観に行く」っていう図式がいまできてるよね。SNSと写真が全部を変えてると思う。
で、それはエロも同じで、もっとカジュアルで当たり前に楽しめるようになると思う。
日本のアダルトコンテンツの可能性
── 一方で、隠されていたからこそ、日本のアダルトコンテンツがこれだけ一大コンテンツとなって(※2)、ものすごい数のバリエーション、作品が生まれてきたともいえませんか?海外でも「Bukkake」や「Hentai」など、日本語がそのままひとつのジャンルとして存在するものもあります(※3)。石川 慎ましさ、奥ゆかしさが、日本の美学にもなってるよね。「隠れたエロ」にそそられたり。 石川 例えば風俗とかでも本番は禁止で、アダルトビデオもモザイクがあって。ある意味そういった規制があったからこそ、コンテンツが横に増えてったのかもしれない。海外のポルノも日本のAVを参考にしてつくることもあるって言うしね。
──隠れたものを妄想で掴むために、ファンタジーが拡張していった部分はあるかもしれませんね。
石川 そのおかげで制約や規制がある中で試行錯誤して、想像力を膨らませた結果、日本のエロがクリエイティブになったっていう側面はあると思うし、すごいことだよね。それが日本の武器にもなるのかも。
ただ、俺は乳首も性器も、見えてて全然いいと思うの。Instagramのルールがそうだから一応守ってるだけで。さっき海外の話にもなったけど、みんなオープンだし、女性は自分の体の曲線だったり、それが美しいんだって胸を張っている。その点で全然違うし、俺はそっちのほうが健全だと思う。
※2:日本のポルノ産業は約200億ドル(日本円:約2兆2000億円)、成人向けの映像が制作される数はアメリカの2倍とも言われている。
※3:「Hentai」は米最大手ポルノサイト『Pornhub』のインサイトでは、検索ランキングが全世界で2位。「Japanese」は8位。
「表現」と「倫理」のボーダーライン
──SNSやインターネットは、性に関する話題をオープンにして多様性を生んだり、ジェンダー間での性をとりまく搾取構造など、性に関する不均衡が議論されて是正されていくポジティブな面があります。一方で、エロを表現として捉えたときに、ポリティカルコレクトネスとの衝突や議論は常におきますし、その境界線はより難しくなっていくのではないかと思います。石川さんが、女性を撮るときのルールや、ボーダーラインってあるんでしょうか?
石川 結局、#FR2の写真やブランドも、いったらエロはエロなんだけど(笑)、下品にならないようにってのは気をつけてるかな。
石川 その基準は、女の子がそれを見て不快に思うか思わないか。不快に感じるところと、綺麗だねって思われるところのラインは肌感覚で持ってて、そこには気を使ってるよ。アート、美しさとしての女の子のエロさとか、その子の一番いいところが伝わるようにね。
女の子が「私もこんな風に撮られたい」って思うのがベスト。そうじゃないと世界で戦えないよ。
そもそも、根底では、俺はエロをエロって思ってないのかも。エロは人間の生命力だよね。だってすべての生物の根源にあるものだし、それがないと種が反映していかない。人間にあたり前に必要なもの。 石川 「エッチ」って切り取っちゃうと「エッチ」なんだけど、すべての人たちの根源にエロがあるってことは生きるってことだと思うんだよね。
俺は生命のパワーとか、生きるってことを表現して世の中に見せてる感じかな。だからエロだと思ってない。
#FR2の女性人気からみる、SNS時代の「エロ」と「ストリート」の関係性
──突拍子もない質問になってしまうんですが、石川さんがアダルトビデオのジャケットを撮るならどんなものを撮りますか?石川 難しい質問だな(笑)。趣味嗜好がみんな違うからね。
でも、あまりにスタイルいい子は使わないかもね。そのほうが絶対エロい。完璧すぎると現実とかけ離れすぎて興奮しないと思うんだよね。
綺麗すぎずに、その辺にいそうなんだけど色っぽくて、ちょっとエッチな感じの人妻とか撮るかも。
──完全に現実主義ですね。
石川 そうだね(笑)。そうじゃないと興奮しないんだよな。たまに写真撮る子でさ、おっぱいもおしりも大きくて、めちゃくちゃスタイルいい子がいるのよ。でも俺的にエッチな感じがしないんだよね、完璧すぎて。そんな子は日常的に出会う機会は少ないしファンタジーだもん。それに普通の人はビビって自分じゃ抱けないと思っちゃうよ。
──リアルさが大事だと。女性を多く撮っていて、石川さんが20代の頃と今で彼女たちの変化って感じますか?
石川 変化は間違いなくあると思うよ。SNSのおかげでよりオープンになったよね。
──具体的にどういうところでオープンになったと感じますか?
石川 #FR2は女の子のおしりを使って刺激的なビジュアルでいこう、ってコンセプトがもともとあって始めたんだけど、はじめて間もない頃は服を着せた男の子とかも起用してるのね。
でもメンズブランドなのに、女の子をモデルに使ってる方が全然反響があった。だから途中からモデルはほとんど女の子にした。
すると(いまもユーザーは圧倒的に男の子なんだけど)女の子の伸びがものすごくて、メンズブランドなのに、お店にいるお客さんがほとんど女の子って日がある。
それで、女性向けにやったら絶対売れるなって思ってレディースショップの「#FR2梅」を作ったら、売れるものがもう足りないくらい売れてるの。#FR2の売り上げを抜いちゃいそうなくらい。
──女の子がお尻を出してるルックのブランドが、女の子に買いたいと思われてる、と。
石川 そう。で、その現象は世界的に起こってる。世界中のストリートブランドが女の子をモデルにしてお尻を出してるの。メンズブランドなのに女の子のエロをミックスしてる。#FR2がやってることがそのまま起きてて。
なぜそういうことが起きてるかというと、SNSの普及によってみんなが写真でコミュニケーションをとってるから。
最近、鏡の前でお尻を出す子の写真がインスタで圧倒的に増えたと思わない? あとはトレーニングしてる自分の体をあげてたり。
みんな自分の体を見てもらいたいし、認めてもらいたい。いまはその場所がある。評価してくれるひともいる。昔はそんなことできなかったけど、いまでは男性だけじゃなくて女性まで「いいねそれ!」って支持してくれるわけじゃん。そしたら自分も、それを見てる同じような体型のひとも自信になってく。
──そういったところから、体を出すことが「はしたない」って感覚が、徐々に変わってきているのかもしれませんね。
石川 エロを特別視しないというかね。全部Instagramのおかげだよ(笑)。そのうちおっぱいも出すようになると思うよ。
とにかく、ヒラヒラしてて可愛いとかブランドが云々ってよりも、自分を主張できるものや、身に付けることでそれがわかるブランドが、いま世界的に着られてるんだよね。 ──着てる服にわかりやすくスタンプが押されてるものが今の時代にあっている。
石川 そうそう。だから写真で見たときにも、モードとかよりもストリートのほうが断然わかりやすい。モードっていうパッケージ・完成されたものは廃れて、いま若い子は未完成・未成熟だけど、組み合わせも自由だしカジュアルなストリートブランドを着てる。
それにストリートファッションってモードに比べたら割とユニセックスだし、イケメンが着るより、可愛い女の子が着た方が男女に人気がでて、フックになるんだよね。
ネットがエロにもたらしたポジティブな変化
──SNSでの女性の変化ともリンクしますが、ネットでの配信、つまり視聴環境も劇的に変わりましたよね。石川 俺らのときはアダルトビデオがかろうじてあって、今の子たちはネットで全部見れるわけじゃん。情報のアクセスしやすさも桁違いだよ。
── 一昔前はエロが手に入りにくいものだったからこそ、限りなく完璧なものに手を伸ばしたい。それがネットで簡単にアクセスできるようになったことで、完璧じゃないもの、もっと細かい嗜好を追求できるようになったし、それが表面化するようになった。
石川 個人の好みにアクセスして共感できたり、エロをオープンにできるようになったことで、多様な嗜好の存在を知ることができて、胸をはることができるようになった。
ちょっとぽっちゃりでも、それでいいんだと思えるし、「あ、他にも自分と同じような好みのひとがいるんだ、自分の体を好んでくれる人がいるんだ」ってわかるようになったし、安心できるよね。 ──#FR2の大躍進が代表例だと思うんですが、過去に流行ってたモードが廃れて、ストリートがここまでメインカルチャーとなったことも、ファッション、SNS、エロ、すべて繋がってるように思えます。
石川 計算してやったわけじゃないけど、ブランドをいい方向にもっていく過程で自然とそうなっていったんだよね。
──昔はモード的な、完成・調整された美がエロかったけど、いまはインスタ、ストリートが世界的に流行って、女の子たちは自分の完璧でない体をオープンにあげている。ストリート的な、未完成で生な体がエロいし、それをいまエロいって言ってもらえることが褒め言葉になっている。
石川 「エロい」が、「綺麗」「可愛い」と同列になっているのかもね。
みんなエッチなんだよ。じゃないとみんなあんなにケツださないし、ウチがこんなに売れるわけないもん。
やっぱエロを堂々と出して、それがかっこいい、かわいいって主張する若い子のアイコンになるポジションを、ファッションブランドが獲得できる時代になった。
だから、こうやってファッションブランドがアダルトブランドコラボするみたいなことも、他のブランドじゃなかなかできないから、俺らがやるべきだと思ったんだよね。
0件のコメント