FANTASTIC EROTICA

「DMM.R18」から「FANZA」へ 世界No.1のデザイン企業が挑むアダルトなリブランディング

POPなポイントを3行で

  • 成人向けサービス「DMM.R18」が「FANZA」へと名称変更
  • 新ブランディングを担当したのはSpotify、Nikeを手がけるCOLLINS
  • 担当者のニック・エースが語るアダルトサービスのリデザインとは?
8月1日、成人向け(アダルト)サービスである「DMM.R18」の名称が、新たに「FANZA(ファンザ)」へと変更された。3月にDMM.comから成人事業を継承された株式会社デジタルコマースが、引き続き運営を担当する。

「DMM.R18」はインディーズAVの配信サイト「DMM」のサービス開始から20周年を迎え、エンターテインメントとしての性をユーザーに提供し続けてきた日本最大のアダルトコンテンツプラットフォームだ。

様々な性的嗜好に対応したコンテンツの豊富さから、一つの文化としても認知される日本のエロ。海外でも「bukkake」や「Hentai」などの日本語がそのまま1つのジャンルとして存在するほか、成人向けの映像が制作される本数はアメリカの2倍とも言われている。

筆者を含め、名称変更に一抹の寂しさを感じるユーザーも少なくないが、ジェンダーやセックスに対する価値観が急速にアップデートされる中で、性をさらにオープンで、ポップに楽しむ世界を構築しようと新たに走り出した「FANZA」。

その新しいネーミングとロゴデザインを手がけたのが、SpotifyNikeAirbnbなど、世界の名だたる企業のブランディングを行うニューヨークのブランドエージェンシー「COLLINS(コリンズ)」社だ。

日本のアダルト系Webサービスのトップである「DMM.R18」。そのイメージを刷新する名前とロゴは、どのようにデザインされたのか。コリンズ社のクリエイティブディレクター・Nick Ace(ニック・エース)さんに話を聞いた。

取材・文:和田拓也 撮影:山下智也.com 編集:おんだゆうた

世界的な企業の名前とロゴ、コリンズはどうつくる?

FANZAロゴ

新サービス「FANZA」のロゴ。一見、だれにでもつくれそうだが…

──企業やサービスのネーミングやロゴは、実際のところビジュアル的なアウトプットの総量が少なくシンプルなものが多いので、どのような思想とプロセスを経てデザインされているのかは、なかなか見えにくいですよね。

極端な話、なんとなく「誰にでもできそう」だとも思ってしまいます。コリンズにおける、一般的なロゴ・ネーム制作の方法、プロセスはどのようなものなんですか?


ニック・エース(以下、ニック) ブランドのビジュアル・アイデンティティを構築するときは、リサーチで学んだことすべてを取り入れ、それらを使ってどのようにストーリーとビジュアルデザインにアプローチするかを明確化していきます。その際は、デジタルと現実生活の両面からの文脈を考慮します。
ニック・エースさん

ニック・エースさん

ニック また、世に存在するおびただしい数の競合するイメージ、「メッセージの海」から飛び出て、そこからどう抜きん出るのかも考える必要があります。それは歌舞伎町の雑踏のようでもありますね。

つまり今回は、「FANZA」のマーケットにおいて競合他社のいかなるものとも被らないようにすること。そこが今回の制作の中でもっとも苦労したことかもしれません。

──日本の市場や文化といったコンテクストを理解するにあたって、どのようなリサーチを行ったんでしょうか?

ニック 実際に東京を訪れて、時間をかけてフィールドワークを行いました。

新しいブランドのクリエーションをお引き受けする際は、クライアントが抱える顧客、それを取り巻くカルチャー、またビジネスのあり方について、深い理解の上にブランドを構築することが至上命題です。 東京でのフィールドワークで彼らは何を得たのか? ニック もちろん私たち外国人の基準となる日本文化は知識としては持っていました。黒澤明の映画に、宮崎駿、大友克洋のアニメーション、横尾忠則のグラフィックデザイン、チボ・マットやボアダムス、坂本龍一の音楽、安藤忠雄の建築に、「ポケモン」をはじめとした任天堂のゲーム、「ゴジラ」など、挙げていけばキリがありません。

しかし、そういった私たちが日本に対して抱く幻想と、現実の日本にギャップがあることを、多くの外国人は気づいています。そのギャップを埋めるべく行ったのが東京でのフィールドワークです。

──日本に対して外国人が抱いている一種のステレオタイプというか、そう日本人が感じている部分も、あくまでわかりやすい「日本像」としてある程度理解されてるんですね。フィールドワークではどのような場所を回ったんですか?

ニック 非常に多くのエリアを訪れました。日本の社会的状況や視覚的風景も理解したかったんです。

秋葉原のある種のファンタジックな世界、雑多な歌舞伎町の「呼び込み」文化や、性風俗の無料案内所、原宿のポップカルチャーとファッション、大胆で悪びれない雰囲気に満ちた六本木、渋谷の多種多様な人間、上野に詰まった日本の豊かな歴史と文化。ラブホテル、ソープランド、セックスクラブにも取材をしました。多くの影響を受けましたね。 秋葉原、新宿、原宿、渋谷、六本木、上野、あらゆる性風俗に接して大きな収穫を得た ニック 場所だけでなく、多くの日本人に対してヒアリングしました。

社会学者の千田有紀さん、長年女性の若者カルチャーを追いかけてきたフォトグラファー・編集者の米原康正さん、東京に駐在する外国人ジャーナリストでTokyo Reporter編集長のBrett Bull(ブレット・ブル)さん、ボーイズラブ関連の刊行物を出版するLibreの太田歳子さん、さらにはガールズバーの店員やアパレルショップで働く学生にも話を聞きました。

ファンタジックな世界を生み出す人々や文化にコミットメントし続けるそれぞれのエリアや人々から、私たちはインスパイアされていました。

──特に印象的だった方はいますか?

ニック 訪れた先々でインタビューを行った中で、特に記憶に残ったのが、メイドカフェのオーナーの女性です。彼女は人々を別世界に誘う体験をつくり出すことに、真剣に取り組んでいました。

せわしない秋葉原の交差点の一角にあって、リラックスできて居心地の良い環境を生み出している。スケジュールの詰まった忙しいリサーチの中で、新鮮なペストリーとお茶の香りは、私たちのチームの記憶にしっかりと焼きついています。

日本で感じた、性の不均衡とは?

彼らが日本で感じた「性の不均衡」の正体 ──フィールドワークを通じて、日本の性に関する独自な発見はありましたか?

ニック 私たちが感じたのは、「性のパワーバランスの不均衡」です。それは毎日の日本での生活で一目瞭然でしたね。

たとえば、年配男性が若い女の子や子どものアイドルたちを交流イベントでハグするケースでは、社会が若い女性を商品として見ているという側面があるからです(※編注:ハグイベントは比較的少数派)。

⽇本性教育協会が学生を対象に行った初体験の時期に関する調査によると、
15〜18歳では女⼦が男子よりも割合が高く、⼤学⽣では男⼦が女子よりも高いという結果でした。つまり、⾼校⽣の女子は年上の男性とセックスをしている傾向にあるということになります。

それがなぜ起きているのか? 答えは幻想(ファンタジー)と現実の不調和です。

日本の検閲法をとって考えると、モザイクを入れることで、人は身体的な女性の部位や行為だけに注意が向いてしまいます。そこに幻想と現実の間での葛藤が生まれるのです。 幻想と現実の不調和はなぜ起こるのか? ──アダルトビデオやアイドルはファンタジーであるという認識を前提に、エンターテインメントとして消費し楽しむものですが、その認識が日本の男性には欠けているという意見は、国内でも多く見られます。

マスターベーション初体験の平均年齢が世界で最も若く、さらに年々早熟化が進んでいる一方で、国別での性教育受講経験が世界でも最低水準であるという調査結果もあります。「早熟だが独学」という日本独特の性事情も関係しているのかもしれません。その独学の教科書が、比較的手に入れやすいアダルトビデオだったりします。


ニック 「FANZA」はすでに多くのユーザーを抱えており、彼らに性の選択肢の幅を広げることができるサービスです。それはつまり、日本人のセックスライフを改善するパワーがあり、性関係での平等なパワーバランスを配分できる立場にあるということ。

いまの日本社会において、トランスジェンダーやセクシー女優は大衆文化の一部です。セックスやジェンダーに対する価値観を普通に話すことができる社会まで、あと一歩のところまできています。

日本の文化において、パワーと選択肢がいまより均等に配分されれば、より平等な社会に繋がる。日本の新しい性のあり⽅を提示するリーダーになることが可能な企業なのです。「FANZA」は、人の最も切実な側面に語りかけるブランドでなくてはなりません、「性」という人のもっとも根源的な欲求に関わるサービスなのですから。

幻想と現実の衝突を反映した「FANZA」

幻想と現実の衝突を反映した「FANZA」 ──そういった調査で感じたフィードバックを、いかにネームとロゴに落とし込んだのでしょうか?

ニック 私たちがフィードバックで感じたもっとも大きなテーマは、ファンタジーとリアリティの衝突です。つまり、「FANZA」が不均衡を起こしているファンタジーと現実の架け橋になることで、さらに幅広い層のユーザーにサービスを提供でき、性へのポジティブで旺盛な好奇心を満たすことができると考えました。

また先ほど話したように、現実と幻想のギャップは、日本へのステレオタイプという点において私たち外国人にも存在します。

そういった点を考慮し、幻想と現実両⽅に存在でき、すべてのジェンダーに訴求できること。国を問わず伝わりやすく、認知的処理が円滑にできること、人々をエンパワーメントできる力強い造語である必要があるとわかりました。 「FANZA」は多種多様なファンタジーと現実が同居するブランド ニック 私たちはDMMがこれまで培ってきたサービスを「多様なオーディエンスに与える、夢と楽しさの集合体」と定義し、多種多様なファンタジーと現実が同居するブランドのエッセンスを表現するものとして「FANZA」という名前を生み出しました。

これは「Fantasy(ファンタジー)」という言葉と、「劇場」を意味する「座(za)」にインスパイアされています。日本語の「座(劇場)」は言わずもがな、力強いファンタジーやエンターテインメントが繰り広げられる壮大な空間です。

アメリカでは、「za」とは豪華な狂想的オペラやミュージカルを指す「extravaganza」、幸運を指す「bonanza」、とびきりのものや狂熱を指す「lollapalooza」などの名詞のように、空想的、幻想的な言語的強調をするときに用います。

それに、ビデオだけでなく電子書籍、ライブチャットなど様々なサービスを展開しているDMM.R18はまさにAからZまで、全てのエンターテインメントを提供していると言えるでしょう。それらを総合して、「FANZA」には「人間の持つファンタジー、妄想、幻想を、AからZまで取り揃え提供していく」というメッセージが込められています。 ロゴはミステリアスで、力強い魅力かつ秘めた誘いという印象を美しく表現 ニック また、フィジカルにおいてもデジタルにおいても、ファンタジーと現実が同居する空間を、タイポグラフィ、カラーなどの要素にも落とし込み、視覚的に最高の方法で表現する必要があります。

「FANZA」のロゴは、人体の曲線美、多様な人物と欲望がひとつの場所で繋がることに着想を得たものです。私たちは1970年代初頭にアメリカの雑誌デザインなどで見受けられたゴシック体のタイポグラフィを用いました。これはミステリアスで、力強い魅力かつ秘めた誘いという印象を美しく表現しています。

──一見するとごくシンプルな企業やサービスのネーミング・ロゴに、膨大な量のインプットとプロセス、ロジックがあるんですね。「誰でもできそう」というのは失言でした。本当にすみません。優れたロゴとネームに必要な要素とは一体何なのでしょうか?

ニック 優れたロゴとは、覚えやすく、従業員や顧客の憧れや誇り、期待の気持ちを掻き立てるものでなくてはなりません。私たちはそのような役割を、現在はもちろん、20年後も果たせるロゴをつくりたかった。同時に、顧客1人ひとりがその月日を通じて、それぞれの意味づけや気持ちを投影できる余地を与えたいと考えています。

しかし、説得力があり記憶に残るブランドづくりの過程で何よりも大切な要素は、想像力があり未来を形づくりたいという意思のあるクライアントとの協働です。実はこれが一番難しかったりもするのです。その点において、「FANZA」ではこれ以上ない仕事ができたと思います。 20年後にも期待の気持ちを掻き立てるロゴとして
FANZA(旧DMM.R18)日本一のアダルトポータル

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