「CINRA.NET」の編集長に、KAI-YOU編集長と元代表が1万字インタビュー

『exPoP!!!!! Vol.100』野音開催は、運命だった?

──『exPoP!!!!! Vol.100』が見えてきた時、最初からこの規模での開催を想定していたんですか?

柏井 いや、全くノープランでした!(笑) 普通にいつも通り100回目を迎えるのでもいいかなと。ずっとやってきたnestで100回目を迎えられるのもすごくハッピーなことですから。

でも、3月くらいに、風林会館で一緒にイベントをやった野村さんから「8月の野音(日比谷野外大音楽堂)空いたんだけど何かやりませんか?」って電話があって。「exPoP!!!!!」を始めた仲間から久しぶりにイベントをやろうという連絡がきて、しかも偶然100回目を迎える月だった! 奇跡的だし、それはもう運命だと思いますよね?

──ストーリーとして出来すぎなので、さすがにネタじゃないかなって疑ってます(笑)。

柏井 普通そう思いますよね?(笑) でも本当なんですよ! 野音の会場をおさえるにも抽選で、なかなか取れるものでもない。もし1ヶ月でもズレていたら、僕も「『exPoP!!!!!』やりましょう」とは言わなかったかもしれない。

左はインタビュアーの武田俊

──偶然が重なり野音で開催されることになった『exPoP!!!!! Vol.100』で誰を呼ぶか、どのように決めていったんですか?

柏井 まず、今まで「exPoP!!!!!」に出てくれた人に改めて出てもらいたかった。相対性理論は「exPoP!!!!!」とも関わりがあり、『cinra magazine』にも曲を収録させてもらったこともありますが、彼らもどんどん有名になる中で改めて交わるポイントがなかった。そこで、10周年だった去年、武道館もやり切った彼らに、CINRAとして一緒にやれることを提案したかったんです。

──そこに「exPoP!!!!!」の100回目のステージがマッチした。

柏井 「exPoP!!!!!」の10年を振り返ると、そのスパンで第一線で生き残っている人たちはそれほど多くないんです。この10年は、SNSの登場も含め、メディアのあり方もすごく変わった時代だったから。アーティストも音楽業界もとても苦しんだと思いますが、一山つくってもそれが続かずしぼんでいってしまう例はたくさん見てきた。CINRAはコツコツと積み重ねるということをずっとやってきたからこそ、ポップでありアートでもある相対性理論が10年以上第一線で走り続けていることに改めて尊敬の念を感じたんです。

──自分たちの歩みと彼らの歩みが、ある意味で呼応して見えた。

柏井 そうですね。だから10周年でこうやってまた一緒にやれるのは幸せなことです。

──一方で、『exPoP!!!!! Vol.100』ではYogee New Wavesといった新しい音楽シーンの波にも接続していますよね。

柏井 今だから言いますけど、「exPoP!!!!!」を10年やっていて、なかなか良いバンドが出てこない時期もありました。そこにきて、Yogeeやnever young beachにD.A.N.、もちろんSuchmosも──彼らが出てきたこの2、3年のタイミングは久しぶりにめちゃくちゃワクワクした。

Yogeeはそれを最初に引っ張っていく存在で、今年出したアルバム『WAVES』も本当に良かったので、改めて出てもらえて嬉しいです。

「文化祭」と「市場」の可能性

──今回は「exPoP!!!!!」だけではなく、同時にカルチャーフェス『NEWTOWN』を開催されます。これはどういう経緯から実現されたのでしょう?

柏井 音楽フェスみたいなカッコイイものというより、「文化祭みたいにみんなでDIYしていくワイワイした楽しさのあるイベントをやりたい」っていうのはCINRA立ち上げ当初からあって、『cinra magazine』創刊の時も、渋谷にあるLE DECOの3フロアを貸し切って、音楽だけじゃない、アートや芝居も含めたカオティックな学生っぽいイベントをやったことがあるんです。でも実際、その当時は何の収集もつかなくて(笑)。

それからも、いつかはきちんとキュレーションされたカルチャーフェスをやりたいとは思っていて、音楽フェスが数え切れない位増えた今、CINRAが新しく始めるイベントは、音楽だけに絞らないカルチャーフェスにしたいと思いました。

もう一つは、「モノとごはんと音楽の市場」がコンセプトのイベント『森、道、市場』や、手紙社さんが運営している「もみじ市」のように、イベントとしてのマーケットに数万人が集まる時代です。

「CINRA.STORE」を運営して数百人もの作家さんとものづくりをしてきた中での発見は、「CINRA.NET」で扱っているアーティストとは別のレイヤーで、良いものづくりをしている人たちが大勢いて、その人たちのものを買いにこれだけの人が集まるんだという事実でした。

──市場イベントの良い評判はよく聞きますし、音楽フェスでもお目当のライブという以外でのブームとしての楽しみ方が注目されたのがここ数年だと思いますが、柏井さんは何かの潮目を感じましたか?

柏井 イベントとしては、音楽フェスが飽和しすぎて違ったものを求めていたユーザーがいたんでしょうね。あとは、情報発信しやすくなったのが大きいのかもしれないです。つくっても売る場所がなかった人たちがネットを介してモノを売れるようになったし、ほしい人が買いやすい時代になった。

「Pinkoi」というアジアの大きなデザイナーズマーケットプレイスを去年お手伝いしましたが、タイなどのアジア圏では、いわゆる「インスタグラマー」たちのものづくりのクオリティーが凄い。そういう意味で、やはりSNSの誕生は大きかったのではないかなと。

──『NEWTOWN』の出店にも様々なジャンルがありますが、どのようにセレクトされたんですか?

柏井 「面白いことができる人たちを集めよう」というコンセプトで、それぞれのジャンルで信頼できるキュレーターを集めて、そこから広げてもらいました。

フードコーナーは、インテリアショップ「IDEE」をつくった黒崎(輝男)さんが設立したメディアサーフにお願いして。彼らもファーマーズマーケットをずっと開催してきて、そこから派生したフードカーのチームが今回初めて外で出店してくれます。

──柏井さんの中では、どんなお客さんがきて、どんな楽しみ方があると想定されていますか?

柏井 「exPoP!!!!!」の方はお客さんの顔が想像できます。音楽が好きで、好奇心旺盛で初めてのものを観たいと思っている人たち。

『NEWTOWN』には、ライブだと行けない人も家族連れで来てほしいし、外国の方も来やすい場所なので、誰でも来れる自由度の高いコンセプトが客層にも反映されると嬉しいですね。70を過ぎているうちの母も、「exPoP!!!!!」は無理でも日比谷公園だったら行ってもいいかもって(笑)。気軽に人が入って来やすい場所をちゃんとつくって、その中で少しでもコアなカルチャーに触れてもらえる場所になれば一番いいですね。

なぜ無料にしたのか? なぜ無料にできたのか?

──そもそも、なぜ『exPoP!!!!! Vol.100』もこの規模なのに無料にしようと決めたんですか?

柏井 コンセプトを守りたかったからです。「exPoP!!!!!」は、初めてのバンドやアーティストを見る経験をしてもらう、ということを100回近くやってきた場所。「カルチャーとの出会いのきっかけづくりをしていきたい」──それはCINRAという会社自体の根幹でもあるので。

なるべくその理念を崩さない形で100回目を迎えたいと思ったんですが、とは言えお金もかかることなのでどうしようと。協賛をとろうという話もあったけど、僕の中にはクラウドファンディングでいけるんじゃないかというイメージがあって。「exPoP!!!!!」は10年、100回続けているので、いまだに来てくれる人もいれば、もう卒業したけど覚えててくれている人も沢山いるんです。その人たちにちゃんと届けられれば、クラウドファンディングで支援を集めて無料で開催できると思っていました。

──正直、事業としては、クラウドファンディングよりも協賛をとって来て事前に赤字を出さないようにする、という方法が現実的ですよね。リスクもあるし、クラウドファンディングは個人のプロジェクトを支援するというイメージから、採用自体を避ける企業もいるように思いますが、柏井さんはどうお考えですか?

柏井 全然気にしなかったですね。話を聞いていると、クラウドファンディングにネガティブなイメージをお持ちの方もいるようですが、僕はメディアとクラウドファンディングってすごく相性がいいと思っています。

今までのビジネスにおいて、B to C(企業から消費者)の場合、サービスや商品を自分たちで値付けして市場に流通させ、それを横並びに評価してもらうしかなかった。でも、クラウドファンディングなら、支援額を選べるという意味でお客さんが値付けもできるし、支援のお返しに何をもらうかも、ある程度自由。

商品になる手前のものをリターンとして出せるわけで──取材に同行できる権利、音楽をつくってもらえる権利、うちの代表に事業計画書を見てもらえる権利とか(笑)。絶対パトロンがつくと思っていたのになかなかつかないものもあるし、その逆もあって、ユーザーが何を求めているのか、見極める材料にもなるのも面白い。反響のあったリターンは単体で事業化できるかもしれないですよね。 それに、何か伝えたいことがあるアーティストやメディアが、ユーザーと信頼関係をきずいてお金を出していただく、それに対して価値を提供するというのは、あるべき姿だという気がしています。

KAI-YOUさんもそうだと思いますが、Webメディアって、PR、つまり広告費をいただいて記事をつくりましょうというパターンが多いですが、メディアとして応援したいけど広告費を出せないアーティストは沢山いるじゃないですか? でもクラウドファンディングを使えば、良い記事をつくって想いが届けば支援が集まるし、そこから僕らも必要な対価を得れば良いわけで、広告費をもらわずにWebメディアを運営できる可能性だってありますよね。

クリエイターとコラボしてオリジナルアイテムをつくり、売れた分だけ利益をシェアするECサイト「CINRA.STORE」も近いモデルですが、クラウドファンディングのリターンは物じゃなくてもいいし、良いアイデアがあればメディアの可能性も広げていけるんじゃないかと思っています。

──ネット上のコンテンツは無料という文化である以上、運営のための課金ポイントをどうするのか、よく議論されていますが、基本的にはビジネスの根幹として広告収入という話になっています。ただ、読者に読んでもらわなければ意味がないメディアとして、B to B(企業から企業)の広告モデルだけに頼ることに問題がなくもない。そこで、信頼関係に出資してもらうという理念がベースにあるクラウドファンディングによって、使いようによっては記事単体の売上を上げることも可能なのかもしれないですね。

柏井 マネタイズの一つになり得る可能性は全然あると思います。現状「CINRA.NET」は広告収入で上手くいっているのは嬉しいことですが、その形がいつまで続くかもわからない。「メディアのビジネスモデルはこうあるべき」と決めつけるよりは、ビジネスモデルをどう広げるのか、どうチャンネルを増やせるのか──そう考える方が新しいことが始まって面白そうじゃないですか。

ただ、あまりガチャガチャやり過ぎると、これまでついてきてくれた人も裏切られた気分になるはずで、「exPoP!!!!!」をずっとやってきたように、いいものはちゃんと続けていくということは守りたいです。

──「exPoP!!!!!」で培った感覚が、メディア運営にも生きているということですよね。他にも、イベントを行うことで「CINRA.NET」へ作用している部分はありますか?

柏井 これからどんどん起こりそうだなぁと思っています。マネタイズできる場所が記事ではなくイベントに変わっていけば、無料でどんどん面白い記事をつくってイベントに人を呼ぼうという方向にシフトしますよね。

「CINRA.NET」はサービスとしては大きくなって、読者も増えているけれど、メディアとして本当に愛されているのか? ファンがいるのか? という問いかけを忘れないようにしていて。事業が拡大して人も増える中で、失っていく熱量がないとは言えない。それ自体は成熟だし悪いこととは思わないですが、熱量の高い場所を新たに自分でつくったり、「CINRA.NET」に別の仕掛けや仕組みをつくって、もっともっと愛されるメディアにしていけたらと思っています。そういう意味でも、メディアとしてイベントでビジネスモデルがつくれたら、ユーザーと本気で信頼しあえるような場所や記事づくりに、より力を入れていけると思っています。

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