「TCGはお金を刷ってるようなもの」と言うなら自分でやってみればいい
──デジタルとアナログをうまくつなげることで新規層を取り込もうということでしたが、『ヴァイスシュヴァルツ』など、ブシロードのTCGではゲームにおける運要素の比重が高く、“初心者が上級者に勝ちうる”タイトルが多いといった点でも、かなり新規ユーザーを意識されていますよね。木谷 新規ユーザーが入らないと、いつか(TCG業界は)滅びると思っています。エンタメは常にライトユーザー、新規ユーザーの目線で展開すべきです。
TCGは常にビギナーズラックがあるようにしないといけない。カードの種類が増えると、ずっとプレイしていてなおかつ頭の良い人が有利になってしまうので、新規参入者にとってはつまらないんですよ。
特にDCGの場合は、対戦以外の要素がないので勝てないとなると、多くの人が止めてしまいます。
──ただ、海外ではe-Sports的な意味でも、TCGは競技的に楽しまれている印象です。
木谷 日本と世界のカードゲームの遊び方は全然違っていて、日本では競技志向のプレイヤーは1割くらいです。9割は好きなキャラを集めたり、コミュニケーションツールとして使用したりする。競技志向だと、そのマーケットは大きくならないんですよ。だから、アメリカのTCGマーケットは日本より小さいんです。アメリカはTCG発祥の地で多くの人に馴染みがあって、店舗数は日本の2倍以上あるにもかかわらず、マーケット規模は3分の2ぐらいです。
それに、アメリカのTCG売上はずっと『Magic』『遊戯王OCG』『ポケモンカードゲーム』が上位です。この状態が15年くらい続いていて、マーケットの構造はそんなに変化していない。
だから、アナログTCGに関しては、ここ2年のうちにいろんな意味での革命を起こしていかないとダメです。例えば、出版業界も新聞もテレビも革命を起こせてない(から斜陽産業となった)。今までやってたことと違うこともやらないと。
ブシロードのカードゲームは、もともと競技というコンセプトで作られていないこともあって、大きなイベントなどはより“参加することでウキウキするお祭り”として進めるべきだと考えています。「大ヴァンガ祭×大バディ祭」や「しろくろフェス」には、コスプレイヤーもたくさん来てくれます。そういった人たちはコスプレだけをして楽しんでいるように見えますが、意外とカードも買ってくれるんです。やっぱり、コンテンツ自体が続かないと自分たちがコスプレをする場が減ってしまうということをわかってるんでしょうね。
──アナログのTCGに対して、かなりの危機意識を持っていらっしゃるのですね。ただ、外野からは「TCGはお金を刷っているようなものだ」と言われることがありますよね。実際に、TCGの採算性というのは良いのでしょうか?
木谷 決してそんなに良くないですよ。だって、常に宣伝をしないといけないし、大会などの運営費もけっこうかかります。ルールの問い合わせなどもあるので、ブシロードは土日もユーザーサポート電話が稼働しています。真面目にやろうとしたら、コストはかかりますよ。
「TCGはお金を刷ってるようなもの」と簡単に言いますが、「だったら、あなたも刷ればいいじゃないですか」っていう話です。タイトルを普及させ、信用力を高めてちゃんと運営するということができないと、“お金”は“お金”じゃないんです。確かに刷るのは簡単ですが、「来年、このTCGは無くなります」と言われたら、そのカードは紙切れになってしまう。単なる紙きれを価値あるものにするには、どれだけのコストがかかるか、ということを想像してみてください。
──そのタイトルが流通する市場自体を形成するところに、かなりコストがかかっているわけですね。
木谷さんは常々「ブシロードはカードゲーム市場と共にあって、カードゲームが滅んだら会社は滅びる」とおっしゃられています。ブシロードはスポーツ・エンターテイメントや音楽事業なども手がけていますが、ビジネスとしてTCG市場が厳しいようであれば、TCG事業を切り捨てるというドライな判断もあるかと思いますが…。
木谷 DCGも含めて、TCG全体をもっと盛り上げようとチャレンジしているところです。やっぱり、まだ上手くデジタルを取り入れられてない。だから、TCGにはまだまだ可能性があると思ってますよ。
TCGで「遊んで暮らす」…木谷社長にとっての「遊び」とは?
──今回、「KAI-YOU.net」では、「TCGという“遊び”が競技化すれば、それを仕事として食べていける人が出て来る。そういった“遊び方”も広めていければ」という想いでTCG特集を始めました。そんな中で、木谷さんは“遊び”をどう捉えていますか?木谷 難しいですね…。というのも、僕の中では「作品を作ること」以上に面白いことなんてないんです。プロデューサーより面白い仕事はありません。
なぜなら、自分の才能には限りがあるけれど、他人の才能をどんどん使うことができる。だから、才能があって動いてくれる人に対しては、責任を持たないといけない。作家を使ったならヒットする作家にしてあげなければいけないし、タレントを使うんだったら、売れるタレントにしなきゃいけない。
だから、僕は売れてる人を連れてくるのはあまり好きじゃないんですよ。「この作品で勝負しよう」というのだったら、アーティストもその作品に賭けてくれる人じゃないとヒットはないと思います。
──ある意味、木谷さんは大博打というか…ゲーム的な感覚で仕事をしている?
木谷 まあ、そうですね。大げさな言い方をすると、生き様だと思っています。自分の生き様を人に見せて共感してもらうのがアーティストです。
ユーザーには、「エンタメなのに、木谷はなんでもかんでもビジネス寄りな見方をする」と言われることもありますが、むしろ逆なんですよ。やっぱりゲームは負けたら死ぬ覚悟でやるしかないと思ってます。
ブシロードでも「負けたらどうするの?」ってタイトルがいくつかありましたよ。『ヴァンガード』は最初の半年でプロモーションに16億円くらいかけましたが、その時の会社の売上は30億円くらいだったので、無茶苦茶ですよね。ただ、そういう覚悟で臨んだものほど、当たった時の喜びは大きいんです。
まぁ、ここからはそれだけではなくて、もっと安定して売れるタイトルもないとダメだと思います。冒険したくても、それが出来るかどうかは別問題です。
──それでは最後に、これまでTCGをやってこなかった人や一旦離れてしまった人けれど興味を持っている読者へ、木谷さんからのメッセージをいただければ。
木谷 TCGは、デッキの構築や対戦、コレクションに加えて、カードの交換や売買、パックを開けるときのドキドキ、カードの感触、さらには大会で全国的な順位を競ったり…そこにデジタル的な要素も加わって、何種類もの楽しみ方ができるエンターテインメントです。こんなにいろんな面白さを含んだエンターテインメントはなかなかないので、ぜひ新しく始めてみたり、復帰してみてほしいです。
アナログのエンターテイメントがだんだんとなくなっていく中、TCGは唯一、これから伸びてもおかしくない分野だと考えています。ただ、これから解決しないといけないことがたくさんあるので、来年くらいまでにそれらを解決して、今度こそブシロード主導でマーケットを伸ばしていきたいと思います。
カードゲーム市場を20年選手の『遊戯王OCG』と15年選手の『デュエル・マスターズ』に頼るのはやめにしましょう。
──今後のブシロードの動きにも期待しています。本日は、ありがとうございました!
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