『MtG』プロ 藤田剛史インタビュー 22年間カードゲームで戦い続けて見えた景色

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『Magic: The Gathering』が流行った理由は「本当に面白い」から

──藤田さんといえば『Magic』の黎明期を支えられたプレイヤーの一人として知られています。現在の国内での『Magic』の盛り上がりを受けて、その自負みたいなものはありますか?

藤田 いや、やりたいことやってるだけやからな。殿堂入り(*1)とか──『Magic』に貢献したとか言われるけど、別にやりたいことをやってただけやから。運が良かっただけなんよね基本的に。やりたいことやってたら、いろんな人の運とか努力でたまたま『Magic』が流行ったからそう言われるだけやんか。

『Magic』が出てきた当時、他にもいろんな新しいゲームがいっぱいあった。他のTCGで日本で一番だった人や、強い人もいたけど、それはそのゲームが流行らなかったから有名になってないだけで、僕はたまたま『Magic』が流行ったからちやほやされているだけ。みんながやりたいことをやって『Magic』を流行らせてくれた。そのムーブメントをつくってくれた人とか、周りの人たちの運が良かっただけかなと思います。

*1 殿堂入り
正式名称は「マジック・プロツアー殿堂」。Magicプレイヤーを表彰する制度。『Magic: The Gathering』の発展に貢献してきたプレイヤーの功績を永遠に称えることを目的として2005年に創設された。いくつかの特典があるが、「今後すべてのプロツアーに無条件参加可能」という特典は多くのプレイヤーが喉から手が出るほどほしい待遇だといえる。

──では、なぜいろんなゲームがあった中で『Magic』が流行ったのでしょうか?

藤田 それは、本当に面白いからちゃうかな。よくできてる。当時の多くのTCGって結局は『Magic』を真似したものだった。最近のTCGはゲーム性も独自性もがんばってるけど、黎明期に現れたTCGのほとんどが真似だったんですよ。

そりゃ一番面白い『Magic』を真似すれば、簡単にできちゃうよね。ゼロからつくってる企業なんてほとんどなかったと思うよ。どうしても初手の枚数は『Magic』にのっとって7枚だったり、いまだに7枚のゲームは多いよね。デッキに同じカードを入れれる枚数も4枚までとか。

いや、真似した方がコストかからないし良いやんか。でも真似だからこそ、どうしても『Magic』が頂点になってしまうし、だから人も集まって流行った。当たり前だけど、ゲームデザイナーが優秀だったのはあると思う。
レガシー選手権'09 藤田剛史「レガシーのススメ」
──藤田さんの活動を見ていると、それこそ同じBIG MAGICで活躍している岩SHOW(*2)さんと同じく、プレイヤーだけでなく解説者としても『Magic』を広く伝えようとする意志を感じます。

藤田 うん。流行らないとお山の大将になっちゃうから、それは嫌やなと思って。自分の為ですよそれも。流行ってないゲームで一位になるよりも、流行ってるゲームの方が気分良いからね。みんなから「ローリーさん、ローリーさん」って言ってもらえるのも、流行ってるゲームだからであって、誰もやってないゲームで一番になっても、誰もちやほやしてくれない(笑)。

単純に自分が有名になって、自分がいろんな人に持ち上げてもらいたいから、その為にはその世界(ゲーム)を広げていった方が絶対に良いやんか。もちろん、自分より強い人間が現れる可能性が増えるっていうデメリットもあるけどね。

でも、ゲームだけじゃなくて、スポーツ選手とかも一緒だよね。自分のやってるスポーツは絶対流行らせたいって思うんよ。プロは自分がやってるゲームを流行らせる義務があると僕は思ってる。理由は、流行ってないゲームで一位になっても嬉しくないから。

*2 岩SHOW
「BIG MAGIC」所属のプレイヤー。プレイヤーとしてよりも、その膨大なカード知識を活かしたデッキ紹介やトーク技術、キャラクターに定評があり、プロツアーの解説や『Magic』公式サイトでの記事の執筆など、『Magic』の関する多くの仕事を行う。
藤田剛史&岩SHOW「BIG MAGIC 緊急会見!」

上手い人が必ず勝つゲームは流行らへん

──藤田さんは、いまの『Magic』というゲームをどう捉えていますか? 昔と変わった部分とか。

藤田 全然違うゲームになったとは思う。僕がはじめた頃とは全く違うゲームです。よく言われてるんだけど、将棋と囲碁と五目並べぐらい違うんかな。ただカードっていう同じものを使ってるだけで、ゲームとしては全然違いますね。 ──複雑になったという事ですか?

藤田 複雑といえば複雑で、単純といえば単純。その上でバランスをとってて、すごいなって思うんですよね。昔の『Magic』は上手い人が必ず勝つゲームだった。今の『Magic』は言うたらアレやけど、下手な人でも勝てるようにつくられてますよね。ただ、その中でも技術があると有利で、そのバランスの取り方すごいなあと思うんですよ。

言うなれば、まぐれが起こりやすい。今はどんなに下手な人でもたまには勝つようにできてて、どんなに上手い人でも負ける時は負ける。それが昔と今の一番の違いかなと。

昔の考え方は戦略ゲームの基本に忠実というか、相手より得することだけを考えて、いかに得するかみたいな思考がメインやったんやけど、今はそうでもない。出せば誰でも得するっていうか「強いから得する」みたいな感じのカードも出ていて、だからそれをデッキに入れてれば、はじめて大会出たって言う人でもグランプリを優勝することもある。昔では考えられないですよ。 藤田 プロツアーやグランプリのトップ8とか、だいたい毎回一緒やから僕ら覚えてたんですよ。どうせこいつらやろって思ったら本当にその人たちばっかり入賞してた。でも今は覚えれないんですよね。だから今、伝説的に強いプレイヤーは登場しない。それは良いことだと思う。上手い人が必ず勝つゲームは流行らへんから『Magic』はそれがよくできてる。

例えば将棋と麻雀だと、一般的にみると麻雀の方が遊ばれてるじゃないですか。たまに勝てないと面白くないじゃないですか(笑)。だから『Magic』は昔に比べてプレイヤーが増えてるんやと思いますよ。

──具体的に強すぎるカードが多いのでしょうか?

藤田 今のスタンダードだったら《霊気池の驚異》とか《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》とか──ああいうカードですよね。出されてうわってなったら終わりていう。うわ、この試合おもんな!って思った時点で負けてる(笑)。

──運と実力の話でいうと、藤田さんは『Magic』はどのくらいの比率のゲームだと考えていますか?

藤田 3割ぐらいちゃうかな実力って。7(運):3(実力)ぐらいで良いと思う。

──八十岡翔太(*3)さんは、3(運):7(実力)ぐらいとおっしゃっていました。

藤田 え、逆って言ってた!?  ええ……ヤソが3:7やったら、僕も6:4くらいって書いといてほしいな……。

*3 八十岡翔太
Hareruya Pros.所属の『Magic』プロプレイヤー。日本を代表するデッキデザイナーとしても知られ、その独自性の強いコントロールデッキは「ヤソコン」と呼ばれる。藤田さんと同じくマジック・プロツアー殿堂の一人。「ヤソ」の愛称で親しまれる、プレイヤーから最も人気を集めるプロの一人。TCG「WIXOSS-ウィクロス-」の開発にも携わっている。

──(笑)。

藤田 いや、でも7:3でいいっすよ。僕はホンマにそう思ってるから!

──では最後に、初心者の方や記事を読んでTCGや『Magic』に興味を持った人にメッセージをお願いします

藤田 とりあえず手にとってやってみてほしいのと──この人と遊んでも面白くないなって思う人とは絶対やるなっていうこと! それは誰も言わんことやから言うけど、性格合わんなって思った人とやったらそのゲームを嫌いになっちゃう。別の人を探したほうがいいよね!

──ありがとうございました!

特集「人生を変えるカードゲームの魔力」

KAI-YOU.netが送る特集第一弾「人生を変えるカードゲームの魔力」では、様々な切り口から記事を更新予定です。

特集の記事の一覧は特設ページから。続々更新していきますので、ご期待下さい。
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