『MtG』プロ 藤田剛史インタビュー 22年間カードゲームで戦い続けて見えた景色

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『MtG』プロ 藤田剛史インタビュー 22年間カードゲームで戦い続けて見えた景色
『MtG』プロ 藤田剛史インタビュー 22年間カードゲームで戦い続けて見えた景色

藤田剛史さん

Magic: The Gathering』(以下、『Magic』)は、1993年に発売された世界初のトレーディングカードゲーム(TCG)として知られているが、日本語版が発売されたのは1995年4月発売の『第4版』と呼ばれる基本セットからだ。

そんな『Magic』が日本に上陸して間もない黎明期から、日本のシーンを牽引し続けてきたプレイヤーが、大阪の古豪と呼ばれる藤田剛史さんだ。

彼は多くのプレイヤーからローリーの愛称で親しまれ、まだ日本で『Magic』だけでなくTCGというゲームの概念自体が浸透していなかった頃から数々のトーナメントに参加し、結果を残し続けてきた。一時はプロとしての活動から離れていた藤田さんだが、大型トーナメントの解説者をつとめる傍ら、2017年1月にカードショップ「BIG MAGIC」とスポンサー契約を結ぶ。

人生の長い時間をTCGと共に過ごし、多くのプレイヤーの引退を看取ってきた藤田さんは何を考えていまも『Magic』をプレイし続けているのか。5月26〜28日にかけて開催されたグランプリ神戸の会場で、その理由を聞いた。

文:米村智水 取材:須賀原みち 編集:新見直

『Magic』をはじめたきっかけは「ストリートファイター2」

──藤田さんは、そもそも正確にはいつから『Magic』をはじめられたんですか?

藤田 基本セットでいうと4版のころ。英語版の3版の末期ぐらいにはじめて手をとったと思います。もう22年ぐらい前になるかな……。

多分、1994年の『フォールン・エンパイア』が出る直前ぐらいです。まだその頃は日本語版のカードなんてなくて、全部英語でした。

『Magic』初期のエキスパンション「フォールン・エンパイア」 Google画像検索より

藤田 ハマった理由は、僕は当時格闘ゲームが大好きで。『ストリートファイター2』とか出た頃、おもちゃ屋さんの大会に出て優勝して、賞品だよって渡されたんですよ。ゲーム機が2台だけ置いてあるようなおもちゃ屋さんだったんですけど(笑)。

これ何?って聞いたら、「俺らみんなやってるから」って店長さんたちが言うんですよね。店長たちがやってて「仲間が欲しい」って理由で、優勝賞品はこれ(『Magic』)だと。他の人が優勝したら普通にゲームのグッズだったり『スト2』の券だったりしたんだけど、なぜか俺の時だけ『Magic』だった……。

そんな感じで、優勝した流れで『Magic』をやらされることになるんだけど、結構勝てたんですね。僕は格闘ゲームからゲームの世界に入ってるから、勝てたら面白いじゃないですか。ホンマ勝ったからハマることになった。

──そこから約20年間という月日が経つわけですが、『Magic』から離れた時期というのは一切ないんですか?

藤田 細々と遊んではいるんだけど、競技としては離れてた期間はあります。ガチのプロプレイヤーとして『Magic』をやってたのは12年ぐらい。途中休んで3年ぶりに──5年ぐらい前にプロツアーでて、そこでちょっと勝てたんだけど、またしばらく休んでた。本当に最近復活したんですよ。

僕ね、飛行機が嫌いなんですよ(笑)。海外に行くのが嫌でプロプレイヤーを辞めたって感じですね。でも今年から、プロツアーの中にプレイヤー6人がチームを組んで戦う「チームシリーズ」という仕組みができて。自分が負けても誰かが勝ったら嬉しいし、誰かが負けたら悔しい、そういうノリが好きというか。だからまあ、それだったら行ってもいいかなみたいな感じで復帰した。

アメリカまで行くって14時間もかかるじゃないですか。でも個人戦だと、ポンポンと連続で負けたら一瞬で入賞の目がなくなって、終わりなんですよ。それで3日間、強制的に滞在させられて……ずーとおもんないアメリカ……アメリカなんか観光で行くこともないし。でも「チームシリーズ」があれば仲間と一緒に遊んだりもできるしってことで競技シーンに復活した感じ。

トレーディングカードゲームの社会的地位は上がった

──黎明期と今とを比べて、『Magic』やTCG全体で変わったなぁと思うことってありますか?

藤田 一般的なイメージはかなりマシになったかなっていうのは思う。もちろん、相変わらずオタクなイメージというか──あんまよろしくないイメージというかまあ、あるけど(笑)。「いい大人がカードゲーム!?」っていう先入観は拭い去れてないよね。でも、マシになったとは思うんよ。

例えばさ、小・中学生の子供の頃に『デュエル・マスターズ』とか『遊戯王OCG』やってるとか、ふつうになってきてる。「遊戯王やってる」って友だちに言われても「あ、そうなんやな」くらいの感じじゃない?

当時はほんまに、完全にオタク……というかマイナーすぎて誰も知らなかったから。まず、遊べる場所がなかったんですよ。ビルとかの床に座ってやってたり(笑)。もちろんやめてくれって怒られるし。それでマンションの前の公園に場所を移して遊んでたら、四階から水をかけられた(笑)「ここでギャンブルするな」って。

──知らない人からするとそういうイメージに見えなくもないですね。

藤田 そうなんですよ。ええ歳して、平日の昼にフリーターみたいな集まりでやってたから。というか、まともな人間はあんまり『Magic』をやってなかったですね当時(笑)。いまは社会人が多くやってるけど、当時はフリーターとか、子どもがメインだったから。『Magic』は年齢層がすごい上がったんじゃないかな。会社につとめてるような、まともな人もこぞって『Magic』をやりだしたのは最近のことじゃないかな?

そういう意味でも社会的地位が上がったというか──最初の頃が悪すぎたというか、ホンマに気持ち悪がられるレベルやったからね。

──地位が上がった理由はなんだと藤田さんは考えていますか?

藤田 知ってる/やってる人が増えたっていうのは純粋に大きなことだと思う。やっぱ誰かから『Magic』やってるっていうのをはじめて聞くと「何それ?」ってなるけど、それを何回かいろんな人から聞けば「ああ自分もやってんねや、友だちもやってた」ってなるから。それで学校や職場の仲間とかでも遊んだりするようになって。

むかし一緒に『Magic』をしてた仲間に高校生でプロのやつがいて。でも同級生が学校の食堂で『Magic』やってるのを見て「恥ずかしいからやめてほしい」って思ってたらしいんですよね。自分もやってんのに(笑)。公衆の面前でこんなオタクっぽいことやるのは印象が悪くなるからって。昔はそれぐらいオタクなイメージがあったから、認知されたって意味ではマシになったかなと思う。

プロツアー・ニューオーリンズ03出場時のローリーさん

藤田 あと、いまはプロが多いじゃないですか。お店や企業がプレイヤーをスポンサードするようになったのは大きい。僕がバリバリの現役だったころはそんな仕組みなかったし、いまのプロは恵まれてる。賞金も大きいし。

僕らはプロツアー予選を抜けても、自腹でプロツアーまでの渡航費を10万出したりしてた。負けたら終わりやし、デッキに使うカードも全部自分で買ってたけど、今のプロはスポンサーがお金を出してくれるんだよね。だいぶ変わったなぁとは思います。

プレイヤーが増加し続ける理由、人と戦うためのゲーム

──それこそ、藤田さんは『Magic』を格闘ゲーム大会の賞品として貰った時にTCGに対する抵抗はなかったですか?

藤田 それはなかったです。根がオタクだったから。しかも人と対戦するのがとにかく好きだったからね。人と競って勝ち負け決めるっていうゲームが好きで、僕は『Magic』で勝てるようになったから、本当に楽しかった。ゲーセン行ってずっと対人ゲームをやっているオタクだったからね。で、僕はこっち(『Magic』)の方が勝ちやすかった。はじまったばかりのゲームだったから、後から入ってくる人より当然、僕のほうが経験値が多いから有利(笑)。

当時は格闘ゲームでトップを目指してたんだけど、反射神経も運動神経もよくなかったから、格闘ゲームには限界を感じてた部分もあったんですよね。

黎明期の『Magic』は格闘ゲームから入る人と、TRPGから入る人の二種類の入り口があったんですよ。で、TRPGから入る人は絶対に弱い(笑)。格闘ゲームから来る人は全員強い。

──え、それはなぜですか?

藤田 目的が違うんですよ。格闘ゲームから上がってきた人は勝つためにやって、TRPGから流れてきた人は楽しむためにゲームをしてる。大会でも当時はそういう人たちが混ざって対戦してたんですよね。そうすると、勝ちまくれてオモロイですよ当然(笑)。相手は楽しんでプレイしていて、僕は真面目に勝ちにいってるからWin-Winなわけです。

──藤田さんはもう最初から競技志向だったんですね。

藤田 はい、競技ですね。勝つのが一番。競技っす完全に! 世界一強くなりたいと何のゲームでも思ってやっちゃうから。『Magic』も同じですね。完全にもう勝負ごと。

──近年の話で言うと、2011年に国内のTCG市場がピークに至ったと言われています。その後、少し下がってしまう期間があるわけですが、また近年は盛り返してきたようです。

藤田 それは、プレイしていた人たちが一度辞めて、いま戻ってきているからですよ。

──いわゆる復帰勢という人たちですね。

藤田 そうです。その頃はメインが学生だったと思うんですよね、今はその人たちが大人になってプレイしている。一番の違いとして、学生ってお金がないから高いカードを買えないんです。そうすると、本当につくりたいデッキを組めないじゃないですか。『Magic』でもほかのゲームでも。

学生のときってみんな「お金があってデッキが強かったら勝てるのに、金持ってるだけのおっさんに負けるなんて……」ってよく言うんですよね(笑)。それで社会人になって復帰したら、好きなだけ高いカードが買えるし、当時のストレス発散みたいな思いもあるんじゃないかな。

それにカードを買って、大会出てみたら当時と違う楽しみもあることに気づく。仲間と遠征して、今回みたいなグランプリに来たりね。

グランプリ神戸の会場風景

藤田 グランプリって『Magic』そのものよりも、終わった後の飲み会とかが楽しんですよね。何歳になっても楽しめる修学旅行みたいなもん。僕のグランプリとかプロツアーの印象ってホテルを4人とかでとって、みんなで朝まで飲んだり喋ったりしてみたいな体験なんです。ふつう、社会人になったらなかなかできないじゃないですかそんなことも。

仲間の年齢層が広いのも面白い。僕の周りは、自分が20歳の時には一番上の人は40歳とかでした。その20歳から40歳までの人、10人くらいで同じ和室の部屋に泊まったり、グランプリのときも全員で一緒に遊びに行ったり──年齢差もあるし多少の上下関係はあるし、僕も少しは敬語は使うけど、常識ないやつもいっぱいおって。でも誰も怒らないし「そんなん趣味の世界やからええやんええやん」みたいな感じで、楽しかったね。

だから、大人になってそういう楽しみを知って『Magic』を辞められなくなってる人は多いんちゃうかな(笑)。

いま『Magic』にのめり込んでる人たちの多くは復帰勢やと思う。新規はなかなか難しいですよね。若い人やってない。お金もかかるし、違うゲームやるっしょ(笑)。小・中学生でカードゲームやるなら『Magic』じゃなくて『デュエル・マスターズ』や『遊戯王OCG』をやる。むかしはその選択肢が存在しなかったからね。 ──たしかにTCGっていう意味では人口が増えてるんですけど、『Magic』だけが伸びているとは限らないですね。

藤田 そうですね。でもTCG業界ではたぶん、歳食ってる人はみんな『Magic』に流れると思う。他のTCGが伸びてることに関しては──他のゲームがダメになったからかなあ。

家庭用も、格闘ゲームの勢いがなくなってしまって。そうすると、人と勝負して遊ぶのが好きな人はTCGにいくしかないと思うんですよね。男の子やったら人と勝負するのが絶対に好き。だからTCGに流れてるんやと僕は思う。実際どうなのか分からないけど。

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