10代を中心に新たな配信プラットフォームとして勢いを増している「LINE LIVE」で、去年最も活躍した人を発表する「LINE LIVE OF THE YEAR 2016」にも選ばれている。
その彼女が、現在放送中のTVアニメ『ゼロから始める魔法の書』のOP主題歌「発見者はワタシ」で歌手デビューを果たした。
「ネットがなければ生きていけない」と断言するたぴみるさんの話やコンセプトから、スマホ世代の女の子の感覚が浮き彫りになっていった。
取材・文:渡辺彰浩 写真:時永大吾 編集:新見直
中学・高校で立派なオタクに
──そもそも、アニソンシンガーに進もうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?たぴみる 子供の頃から歌うのは大好きで、よくママチャリの後ろで童謡の「チューリップ」を歌ってるような、目立ちたがり屋の子だったんです。近所のカラオケ大会ではハム太郎とかノリノリで歌っていて。
──アニソンを意識的に聴き始めたのはいつですか?
たぴみる 中学生の時に、友達に借りたゲームが『初音ミク -Project DIVA-』だったんです。今まではJ-POPばっかり聴いてたので、セリフがあって特徴的な歌詞も面白いなと思って。そこから『ひぐらしのなく頃に』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』とか、いろんなものをススメられて綺麗に染め上げられました(笑)。
──友達の思惑通りですね(笑)。
たぴみる 高校受験シーズンはアニメばっかり観てました。『けいおん!』を観ていたのもあって、高校で軽音楽部を覗きに行ったら恐い雰囲気の人しかいなくて。コミュ障なので逃げようと思ったんだけど捕まっちゃって、オドオドしてたんですが、たまたま『けいおん!』の「Don’t say "lazy"」を弾いてる人がいたんです。それで口づさんでたら歌ってと言われて、そのままボーカルになり……それでライブをしていくうちにどんどんハマって、歌っていきたいと思うようになりましたね。
──アニメの趣味は共有出来る仲間だったんですか?
たぴみる アニメ好きが多い学校だったんです。見た目に寄らず「『けいおん!』好きだよ」とか、「このアニメのこの曲歌ってよ」とか言われてましたね。そこから、自分が観ていないアニメを観るようにもなりました。小さい頃は『ポケットモンスター』とか少女漫画とか、王道のポピュラーなものを観てたんですが、深夜アニメを観るようになったのは高校生になってからですね。
──高校生でドープにハマり始めたんですね。影響されたアニソンシンガーやプロデューサーはいますか?
たぴみる supercellさんです。バンドを組むまでは何も考えないで、ひたすら歌いたいから歌っていたんですけど、初めて「これは無理だ…」と思ったのがsupercellさんの曲。当時のボーカル・やなぎなぎさんの声があまりにも綺麗で、それを真似しようとするじゃないですか。でも、バンドでやると声が消えちゃうんですよ。メンバーから「聞こえねぇんだよ!」って言われて、泣きながら歌いました…!
卒業の時にバンドは解散したんですけど、自分の進路を考える時に音楽をやりたいなと思って。インターネットで配信しようと思ったんですけどなんだかんだで自信がなくて、やっと始めたのが高校を卒業して1年くらい。最初は喋れないし何をしていいかわからなかったので、友達の放送の端っこに参加してました。
配信を通して確信した「結論、歌が好き」
──その頃から「たぴみる」として活動していたんですか?たぴみる たぴみるは、高校生の時に考えた名前です。昔「koebu」という、今の「nana」みたいに歌が簡単に投稿出来るところがあって。そこで、ハンドルネームを付ける時に、被りのない食べ物の名前がいいなと思って、タピオカミルクティーが好きだったから「たぴみる、いなくね?」って。そこからずっとたぴみるです。
どこからが趣味で、どこからが夢として頑張り始めたかは曖昧ですけど、最初は楽しくてしょうがないから続けていて、夢がはっきりしてくるにしたがって、もっと放送を観てもらう、知ってもらうのが大事だなと思って。そういう意志を持って活動していくようになりました。
──たぴみるさんは、ニコ生やLINE LIVEなど、様々なプラットフォームで雑談や歌の放送をされていますが、どんな放送が一番好きですか?
たぴみる 人がいっぱい来てくれるのが嬉しいので、歌を歌う放送が一番好きです。
──根本は歌を聴いて欲しい。
たぴみる 雑談はそんな得意じゃないですし、あまり愛想もよくないので。身内ネタを話すわけにはいかないし、面白いことも思い浮かばないので、どうすれば話を繋げられるんだろうって考えながら話していると、途中でワケがわからなくなる時があります。
かまって欲しいコメントもスルーしてるみたいで、「知らない間に傷つけてる系女子」なんだろうなとは思っているんですけど、どこがそうなのかはわかってません。フリートークが下手くそなので、歌を歌っている方が人も来るしリクエストも来るので、それが楽しいです。
──ネット上でファンの前で歌ってきた経験やコミュニケーションがデビューにつながっていると思いますが、ファンとのやりとりの中で気づいたことはありますか?
たぴみる 私の配信がきっかけでボカロを聴くようになった人もいれば、アニソンを聴くようになった人もいて嬉しかったですね。あとは、自分が歌いたい曲と、リスナーさんが歌って欲しい曲の差が激しくてびっくりしました。
──どう違ったんですか?
たぴみる 家で放送してたので、バラード調の静かな曲をひっそり、家族にバレないように歌ってたんです。でも、アッパーな曲とか声優さんの可愛らしい曲とか、リスナーさんは違うのが聴きたかったみたいで。リクエストにも応えて歌ってみたら、結局楽しくなっちゃう。結論、歌が好きなので何でも好きみたいです(笑)。
LINE配信での人気はファンのおかげ
──たぴみるさんは、「LINE LIVE OF THE YEAR 2016」で受賞をされています。いろんなプラットフォームを見てきた上で、LINE LIVE特有の文化ってありますか?たぴみる LINE LIVEは、ハートを集めるとチャンネルランキングに載れるんですよ。無料だし回数制限もないから、みんなプルプルしながら押してくれてるんだなって思うと、みんなの指が心配です。
──ハートの集め方のコツってあるんですか?
たぴみる 最初はみんなも「このハート何?」とか言ってたんですけど、だんだんと「頑張れる!」ってなって、今はランキング上位に上げるために「頑張ってる! 押してるよ!」って言ってくれて。「ハート上位の人のリクエスト曲を歌います」とかも、たまにやってましたね。
──ファンの人もたぴみるさんに有名になってもらいたいと思って、応援しているんですかね。ニコ生ともまた違う、ファンと一緒にランキング上位を目指す感覚?
たぴみる そうですね。応援する精神をくすぐる配信サイトだと思います。基本的に無課金で出来るというのが大きいのかな。例えばニコ生では、ユーザーが広告料を払って生主の番組を宣伝する(ニコニ広告)みたいな課金もある。けど、LINE LIVEでも課金するとハート70個分のスタンプを贈れますけど、無課金でも70回押せばいいので(笑)。
──ほぼ無料でできちゃう、というのは確かにあまりないですよね。
たぴみる 最初はネット上の活動だけでしたが、「このままじゃ上はいっぱいいるぞ」と思って、オーディションも受けつつライブ活動をして、ファンの方と喋る機会は増えましたね。実際に会ってみると、ファンの方はパワーがハンパなくて。
みんなで私を(ランキングに)上げてくれているのがすごい伝わってくるんです。放送に初めて来た人にも「チャンネルをフォローしてあげてね」とどんどん仲間に入れてあげようとしてくれます。
──温かいファンに恵まれたわけですね。
ネット弁慶? コミュ障??
──たぴみるさんは、TwitterとInstagramもやっているわけですけど、SNSの棲み分けは考えていますか?たぴみる 全く家から出ないので、インスタはどれだけリア充感を出せるかに必死(笑)。1日で画像が消えるインスタのストーリーには、変顔とか、アニメのイベントに行った時の珍しくアガっている私を載せてるんですけど、Twitterには文面だけです。Twitterにはあまり写真は載せたくなくて。「たぴみる」って調べてTwitterアカウントを見る場合、まず最初に写真投稿を見るじゃないですか?
──確かに、まずは写真を見ちゃいますね。
たぴみる その写真が食べ物ばっかでもつまんないし、自撮りばっかだとキモいから、自撮りを載せてもTwitterではしばらくしてから消しますね。
──人にどう見られるか、やはり意識しているんですね。
たぴみる 気にしないふりして、めっちゃ気にしてます(笑)。気にしても意味ないと思いつつ、ずるずる引きずって。エゴサも全然します。
──結構、ネットに張り付いてる?
たぴみる ネットがないと生きていけないです。
──「コミュ障だった」と言っていましたが、それは今もなんですか?
たぴみる 全然駄目です。こっちは努力しているつもりでも、人に伝わってなかったり、違う風に捉えられることが昔からすごく多くて。全然怒ってないのに「あの人いつも怒ってるよね」って言われて、内心ではショックを受けてたり。最近、チャットも無理です。ネトゲで知らない人と話すのも嫌。どういう風に見られているかわからないから、迂闊に「どっかクエスト行きません?」とか言えない…。
──でも、こうして普通に話してくれてますよね。
たぴみる 「たぴみる」としての方が話しやすいです。素の時は本当に喋らない。道端で声かけられても、ちゃんと対応出来るか心配です。スイッチオフで、ずっと下向いてるんで…。
「エモカワイイ」って何なの??
──今回、所属事務所の「COMPLExxx」が“エモカワイイ女性タレント育成プロジェクト”のお一人目としてたぴみるさんがデビューするわけですが、「エモカワイイ」ってどういうことなんですか?たぴみる 言葉に出来ない感情がほとんど「エモい」なので難しいんですけど。私的には、矛盾した感情。本当はがっついて肉を食べたいのに、パンケーキ頼んで写真撮って女子力アピールする、みたいな。すごい自信がないのに、でも歌いたいとか。
表舞台に立つ人って、みんなキラキラしていて、元気で、落ち込んでいる姿を見せない。それも変だなと思っていて。人間だから病んだりするし、テンションの上げ下げも激しいじゃないですか。そういうところも全然表現していっていいと思う。
女の子って、大体Twitterは3アカくらい持ってるんですよ。可愛いキラキラ用、身内用、誰もフォローしていない病みツイート用とか。
それを使い分けてるのは、世間の目を気にしてるから。でも、病むのは悪くないし当たり前だから、「エモカワイイ」という言葉で「ありのままでいいんだよ」っていうのを出せたらいいなと。
──なるほど。「闇カワイイ」「夢カワイイ」ってジャンルもありますね。
たぴみる エモカワイイは、女の子の矛盾に付く感情の話なので。闇カワイイだったら、毒毒しいけどカワイイ感じ。夢カワイイは、ユニコーンとか、プリンセス系のフワフワしてる感じなんです。
それに対して、エモカワイイはごちゃごちゃしてる心の中。元気にしなきゃと思ってるけど、実はナイーブとか。そのごちゃごちゃした感じの空間、心情をエモカワイイで表現しています。好きなものは好きで、自分に似合う似合わないは関係ない。「たぴみる」って名前にするほどタピオカミルクティーが好きだけどコーラも好きだし、そういうのも出していっていい。
──なんとなく、わかります。「3アカ持っててもいいんだよ」って、女の子を肯定してあげたいと。
たぴみる 病んでもいい。病む時は病んで、後からアガればいいんじゃないかなって思います。
──そのエモカワイイは、シングルの表題曲「発見者はワタシ」のMVにも表現されています。ゲーム要素や、アーティストカラーのミントグリーンも散りばめられていますね。
たぴみる MVに出てくる部屋のごちゃごちゃした感じがエモいなって。だけど曲調は爽やかなポップで、MVと矛盾している感じもまたエモカワイイ。
そもそも、私が元気でハッピーな曲を歌うのが全く想像出来なくて、それ自体が新しい挑戦でした。自分の名前で初めて曲として世に出るわけで、大事な収録だったんですけど、全然イメージが固まらなくてどうしようと思って。でも、そこもやっぱり歌ってたら楽しくなっちゃいました(笑)。
──そういうところもエモカワイイってことなんですね。
まだ実感が追いついていないけど、もっと自分の好きなものを出していきたい
──デビュー曲にしてアニメのタイアップというのは、「アニソンを歌う」という夢が叶ったとも言えますよね。たぴみる 今までオーディションを受けても、いいところで落ちるのがしょっちゅうだったので、今回もなくなるのかなって思っていたら、いつの間にかレコーディングしていて、そして気づいたらCDになっていて。COMPLExxxに所属して1カ月足らずでこんなことになって、私も何がなんだかわからないままです。
──まだ実感は追いついてない?
たぴみる あまり「おー!」っていう風にはなってないです。1つフィルターを隔てた、自分とは関係ない先を見ている、テレビの前にいる気分。アニメ『ゼロから始める魔法の書』のオープニングとして自分の曲が流れているのも、テンションが上がるわけではなく、ホーって感じで観ていました。
──シングルが実際にリリースされたら、実感も湧いてくるかもしれませんね。収録曲の「心情コンプレックス」では、作詞にも挑戦しています。
たぴみる ポエムのような、短いサビだけとかは書いたことがあったんですけど、1曲まるまるのストーリーは書いたことがなくて。メロディーは決まっていて、そこに言葉を当てはめていくもので、アドバイスももらいながら曲調のイメージでいくつか書いていきました。
──かなり苦労されたんでしょうか?
たぴみる バラードとか失恋系の病む歌が好きみたいなんですが、「心情コンプレックス」は可愛らしいメロディーなんですよ。その組み合わせはあまりにも合わないので、可愛い歌詞を書こうと思って少女漫画を漁ってピュアな歌詞を書きました。考えていた最中の2、3日は、何にも食べれなかったです。
──そういう意味でも、デビューにあたっては挑戦尽くしだったんですね。では、まだ聞くには早いかもしれませんが、今後さらにやっていきたいことはありますか?
たぴみる 今まで、自分の好きなもの、世界観を表現するということをしてこなかったんです。いざするとなると、伝えるのが難しくて、見せても言ってもわからないことが多いので、自分の世界観を上手に発信出来たらいいなと思っています。そのためにも作詞にも少しづつ挑戦していって、ありのままの世界観を形にしていきたいです。
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たぴみる
歌手
12月25日生まれ
好きな色:ミントグリーン
タピオカミルクティーが大好きだから、なまえは『たぴみる』。
かわいい容姿からは想像つかない毒もちょっぴり持っている。それはまさに、まっくろなタピオカ とやさしいミルクティー。
少しめずらしい、カラフルなタピオカのように、まだ見ぬ色とりどりの 可能性を秘めた女の子。
小さな頃からいつもうたっていたたぴみる。
アニメやボーカロイドの世界と出会って、もっともっとうたいたくなった。
軽音楽部でバンドを結成。うたうことが大好きな女の子は、アニソンがもたらす儚さと力強さをとどける喜びを知った。
たくさんの人にうたをとどける方法を探して、ソロでアニソン歌手を目指す。
2016 年には、「LINE LIVE OF THE YEAR 2016」を獲得。
現在も雑談、カラオケ、イベントなど、多様な内容の生配信を行っている。
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