ラップしたいけど、やり方がわからない
──すごくしっくりくるお話でした。ここで、ヒップホップを広める話にもつながってくると思うんですが、著書『フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』についても聞かせてください。初めて本のお話を聞いた時、ヒップホップには、そもそも、ラップは教えるもんじゃないって思想があるんじゃないかと感じました。晋平太 僕はとにかく全国各地で聞かれるんですよ。「ラップしたいけど、やり方がわからない」とか。ラジオにくるハガキもそんなんばっかりだし、ラップしたいけどできないって奴が死ぬほどいるんですよ(笑)。
いろんな人から死ぬほど聞かれるようになってから、「ラップは教えるものじゃない」って考え方ももちろんわかるんですけど、そもそも教える奴や育てる奴がいないとなって。 晋平太 あとはヒップホップをちゃんと若者に継承していかないと、文化として続かないじゃないですか。そんな時に書籍のお話をいただいて、僕が自伝を出してもしょうがないし、僕に求められているのは、ラップのやり方を教えることなんじゃないかって気がして、ラップの教科書、中でもフリースタイルに特化した本を出すことになりました。
壁にぶつかった時、その都度、答えの探し方はあるよってことを伝えられたらいいなと。教科書というより、参考書に近いかもしれないですね。今、気がつきました(笑)。
「迷ったら参考にしてみれば?」って(笑)。僕なりに考えた回答がきちんとまとまっているので。
──極端な話になっちゃうんですが、たとえばこの本を読んで練習すれば、バトルに出られるくらいまでには成長できるんでしょうか・・・?
晋平太 いけますよ。教えることで、みんな全然変わりますもん。こんなこと言ったら失礼ですけど、初めは「センスないなー」って思ってた子が何回も何回も聞きにきて、しばらくして次の年に会った時には見違えるくらい成長してたり。
今年の「UMB」千葉代表の雄猿くんなんか、10年くらい出続けてるって言ってたかな? 10年続けるって、センスとか才能とかの一言では片付けられないですよ。センスがなかったかはわからないですけど、ずっと努力を続けてきたってことですからね。
ずっと誰かの役に立つ方法を探していた
──晋平太さんも今でも練習してるんですか?晋平太 僕はもうクセがついてしまってるというか。毎日やってるわけではないですけど、暇さえあればスタジオにこもってずっとフリースタイルしてたり。最近はラジオとかテレビに出る機会が増えて、絶対フリースタイルが求められるので、それも練習になりますよね。
バトルに出る機会は減ったかもしれないけど、いつでもバトルできる状態には余裕であります。「UMB」出てる頃とかは、もっとやってましたけどね。よく、達人になるには1万時間費やしなさいって言うじゃないですか? 当時通ってた高円寺のドムってスタジオがあるんですけど、スタンプカードを全部埋めたから500時間練習してたことになる。
そうみると、1万時間かはわからないけど、ここ数年で少なくとも1000時間以上はスタジオに行ってフリースタイルしてたことにはなりますよね(笑)。
──たしかにいま、練習するラッパーが増えたからなのか、若いラッパーでもめっちゃうまいですよね。
晋平太 みんな、ある程度のレベルまでいってますね。ただ、R-指定みたいな絶対王者がいない。年間何千試合と見てますけど、今の時代、最も功績を残しているというか、一番新しいことをしてるラッパーってなかなかいないですよね。
僕もMCバトルで新しいことをやるならなんだろう? ってずっと考えてます。時代を席巻してきたKREVAスタイル、R-指定スタイル、今だったら呂布カルマみたいにひねりの効いた面白いことが言えるとかね。彼は今の時代において、次の新しいスタイルを提示したと思います。 晋平太 僕も、自分なりの今までにない新しいスタイルを提示していけるやつになりたいなと常日頃思ってます。
──今回の晋平太さんの本を読んで、新しいスタイルを提示するラッパーが現れるかもしれませんよね。
晋平太 あくまでベーシックなことしか書いてないので、何よりも大切なのはそれから先のことを自分で考えること。僕の本は、あくまで参考になればいいなって位置付けです。誰かの役に立てばうれしいですね。
「この本を読んでラッパーになりました」っていう子が1人でも多く現れてくれたら、こんな光栄なことはない。この前、ふと思ったんですけど、僕はずっと、誰かの役に立つ方法をヒップホップで探していたのかもしれない。この本には、僕のそういう個人的な思いも込められています。 ──こうしてラップを教えることで、ラッパーの人口を増やす活動をしている晋平太さんは、将来的にはどうなりたいんでしょうか? たとえば年内で、「UMB」の総合司会を引退されるじゃないですか? これからのバトルの関わり方とか。
晋平太 新しいスタイルを提示するために、何ができるか考えます、まずはスタジオにこもりますね(笑)。どう関わるのが一番いいのか? 僕がMCとして戦うのか、裏方に徹して誰かを育てるのか、大会を主催するのか。出るのも観るのも仕切るのも育てるのも、どれもすごく楽しいんで、ゆっくり考えて挑戦していきたいですね。
もう、今のバトルって飽きられてるじゃないですか? だからこそAmaterasくんとか、今までになかった視点や考えを持ってるやつが注目されてる。そんなやつが大暴れするだけで、まだまだバトルシーンはグッと良くなると思うんです。 ──プレイヤーとして大会に出る可能性もあるんですね。
晋平太 全然ありますあります。僕、好きですもん。「UMB」3回目の優勝を狙うのもナシじゃない(笑)。通算でR-指定と並ぶんで、「お前、まだ負けてねーぞ」って(笑)。冗談ですけど。
ただ、僕がMCとして頑張ることで、同世代のラッパーがもっと出てきてくれるようになったらいいとは思いますね。僕、33歳なんですけど、一般社会から見たらまだまだこれからが働き盛りじゃないですか。それなのに、「あとは若いやつに任せて」とか言ってる場合じゃないんで。
まだまだ若いモンには負けないぞってパワーをいろんなところで見せたい。だからとりあえず、来年からは新しい戦い方を探します。滑るかもしれないですけどね(笑)。
フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩
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晋平太
ラッパー
MC。1983年東京都生まれ、埼玉県狭山市育ち。フリースタイルでのMCバトルを得意とし、2005年『B-BOY PARK MC BATTLE』での優勝で注目を浴びる。MCバトルのアンセムとも言えるシングル「CHECK YOUR MIC」など、数々の名曲を残してきた。9月28日には、自身が監修・選曲したコンピレーションアルバム『I LOVE MC BATTLE』がリリースされた。
Twitter:https://twitter.com/shinpeita
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