ネットとイラストのこれから

ナクアミ 今回参加されている金子開発さんって方、すごく若いんですよね。

──現役女子中学生です。

ヨシツギ ええっ!? すごい! そういう方がいらっしゃるから、ボカロの文化っておもしろいですよね。

ナクアミ すごいですよね。音楽でもイラストでも、なんだかんだで若い人がどんどん出てきて、衰える感じがしないです。

──ちなみに、最近のイラスト界隈の動向はチェックされていますか?

おぐち チェックしているような気はするんですが、意外と見ていないところで盛り上がっているんじゃないかなーと思ったりしています。なんとなくではあるんですが。

──それは、具体的にはどういうことでしょうか?

おぐち pixivができる前は、個人サイトの「お絵かき掲示板」に絵を投稿するという文化がありました。その掲示板は個人サイト単位で開かれているので、つまり、どこにどんな絵があるのかは全然わからなかったんですよね。

もしかしたらそういうことが今も起きているのかもしれない、と思うんです。pixivではない、別のコミュニティサイトのようなものがあって、そこに10代が集まって、色んなコミュニケーションをしているんじゃないか、というちょっとした不安があるというか(笑)。僕らがpixivでああでもないこうでもないと考えている間に、全く新しい何かが生まれているんじゃないかと。

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おぐち それから、これは雑誌で読んだんですけど、ネットで音源を手に入れる世代が登場すると、音楽の土地性のようなものがどんどんなくなっていく、ということが言われているみたいなんです。国ごとに楽器も文化も違うけれど、ネットはその国境を超えていきます。アフリカの作曲家が、イギリスの音楽をコピー&ペーストして作曲する、なんてことが簡単に出来てしまうわけです。

でも、土地性がなくなるから均質化されるのではなく、作り手一人ひとりが本当に「つくりたい」と思うものに特化した音楽ができると言われていて、それはネットでイラストを描く人みんなにも言えることだと思いました。ネットが普及すればするほど、わざわざ周りに合わせて自分を丸くしていく必要はなくなって、遠く国の人と触れ合う中で、尖った物同士が惹かれて、どんどん尖っていくのかもしれないし。たぶん僕達の理解できないようなイラストが生まれていくのかもしれないですね。

ナクアミ Append、そしてV3と、公式のイラストもなんだかんだでリファインされていますよね。そう考えると、数年後、V4とかの初音ミクの新しい公式絵が発表されて、それに影響を受けた人たちから、僕らが知らない新しいものが生まれていくんだと思います。

ヨシツギ なるほど。尖っていくかあ……私もお二人のお話を聞いていて考えていたんですが、正直見当もつきません(笑)。本当にいつの間にか、ボカロシーンはここまで広がっていましたけど、これからどうなっちゃうんでしょうね。

おぐち 今って、もう生まれた時からインターネットに触れていて、pixivがあるのを知っているような世代ですよね。参考になる作品がそこら中に溢れている中、どんなスピードで上手くなっていってしまうのか、計り知れないですよね。

ナクアミ でも、これからのボカロシーンって、何も若い世代のものだけではなくて。僕の場合は、『初音ミク』が発売された2007年から、ミクが大きくなっていくのをずっと見てきた“古参”の部類なんですね(笑)。同じようなのは僕の周りにもいて、ミクが好きとか嫌いとかではなく、もう身に染み付いているような感じなんですよ。

仲間内では、「初音ミクが廃れてからが俺たちの出番だ!」なんてふざけて言っているんですが(笑)、そんな人たちがいる限り、VOCALOIDシーンの未来は明るいのかなと思っています。

文:たかはしさとみ
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プロフィール

おぐち

おぐち

イラストレーター

東京藝術大学にて油絵科を専攻。村上隆率いるカイカイキキのグループ展への参加経験や、人気ブラウザゲーム「艦隊これくしょん -艦これ-」の敵艦デザイン、またグッドスマイルレーシングの「レーシングミク 2014 ver.」公式イラストを手がけるなど、現代アートからポップカルチャーまでを横断し、独自の世界観を提示するイラストレーター。

ナクアミ

ナクアミ

マンガ家・イラストレーター / ミュージシャン

商業誌でプロのマンガ家として活躍する傍ら、自らもボカロPとして活動するイラストレーター・ミュージシャン。その両方の顔を活かし、イラストに音楽的な要素を盛り込むことを得意としている。

吉田ヨシツギ

吉田ヨシツギ

イラストレーター

ナノウのCDアルバム『Waltz Of Anomalies』(BALLOOM)のジャケットイラストや、西尾維新の小説『りぽぐら!』(講談社)の挿絵などを多数手がけるイラストレーター。別名義「吉田ドンドリアン」ではボカロ楽曲のPV動画を制作するなど、活躍の幅は広い。

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