そんな初音ミクの発展を語る上で欠かせないのが、VOCALOIDプロデューサー(ボカロP)やイラストレーターといった、ネットを舞台に活躍するクリエイターだ。
そして2月19日(水)、そんな彼らネットクリエイターの中でも、特に注目を集める19人のボカロPたちによる“共作”をコンセプトにした、初のコンピレーションアルバム『MIKU-MIXTURE』が発売される。
さらに音楽だけでなく、VOCALOIDシーンに根ざすイラストレーター12名が集まり、収録曲に合わせたイラストを描き下ろすなど、音楽とビジュアルの共演を堪能できる1枚に仕上がっている。
今回は、そのイラストレーター陣の中から、「艦隊これくしょん -艦これ-」の公式イラストレーターとしても注目を集めるおぐちさん、プロのマンガ家として活躍する一方で自らボカロPとしても活躍するナクアミさん、ボカロ小説の挿絵やボカロ楽曲のPV用イラストも手がける吉田ヨシツギさんの3名に集まっていただき、初音ミクとイラストの今とこれからについて、お話いただいた。
音楽から広がる色彩
──初めて担当楽曲をお聴きになった時の感想はいかがでしたか?ナクアミ ピノキオPさんと鬱Pさんの「ゴージャスビッグ対談」からは、「混沌」や「カオス」という印象を受けました。正直なところ、最初に聴いた時の3分間は「どうしようかな……」と思いましたね(笑)。でも、もっと聴いてみると尋常ではないぐらい細部までつくり込まれているのがわかって、そこにお二人の音楽観を感じて、どんどん興味を惹かれました。
吉田ヨシツギ(以下、ヨシツギ) 私も似たようなところで、最初は「変な曲だな」と思ったんですよね(笑)。ざにおさんとうたたPさんのコラボで「一緒に行こうよ、幸せな未来へ」という曲だったんですが、お二人とも型にはまっていないと言いますか、はみ出ている感じで。おもしろい曲だと思った反面、イラストにするのは大変そうだなと思ったのが感想です。
おぐち 僕の場合は、キャッチーで聴きやすい曲だなというのが第一印象でした。Lemmさんと西島尊大さんの「Waltz of Knives」という楽曲で、曲から鮮やかさを感じたので、僕自身は普段カラフルなイラストをあまり描かないんですが、イラストにも色味を出していきました。
──楽曲からイラストを描く時は、楽曲のどんな要素を参考にするのでしょうか?
おぐち よく音楽プレーヤーに、音の強弱などで変化する視覚エフェクトがありますよね? 僕は、あのエフェクトを絵にするならどうするか、をイメージして描いてみることが多いです。例えば楽曲から華やかさを感じれば、それを花びらやキラキラした雪の結晶に変換して、イメージをふくらませていくような感じですね。
ナクアミ 僕も、曲そのものの色彩感や単純なイメージから進めていく感じはありますね。あまり小難しく考えずに。今回であれば、「クラッカーがパンっと弾けるようなイメージ」というシンプルなところから広げていきました。
ヨシツギ 歌詞よりはメロディーを聴いて、そこからのファーストイメージで固めていきますよね。歌詞はまず聴こえてくる単語をそのまま受け取って、深い意味みたいなものは、わりと後から辻褄を合わせていくことが多いです。
──ボカロPさん側からの要望や、イメージのすり合わせはありましたか?
ナクアミ イラストの方向性については特に相談などはしませんでしたが、初音ミクから派生してつくられたピノキオPさんのキャラクターを使わせてほしい、という相談だけはさせてもらいました。自分が描くミクとピノキオPさんのキャラクターが同居するとおもしろいかなと思い、ぜひやってみたかったんです。だから、曲の解釈は僕だけで考えたものですね。
おぐち 逆に具体的な指示がない方がありがたいところもありますよね。単語にはそれぞれ固定概念のようなものがあって、それも自分と相手では解釈が違うことが多いので、「キレイ系」と言われても、自分の中での「キレイ」じゃなくて世間一般の「キレイ」に寄ってしまうような。今回はそういうものに引っ張られずに描けたと思います。
ヨシツギ 私は、自分から聞いちゃいました。もちろん最初は自分でトライしたんですけど、突き詰めていくうちに、変なところにゴールしそうになってしまったんです。先ほどお話した通り、変な曲だったので……(笑)。
すごくトリッキーで、前半と後半でガラッと印象が変わる曲なんです。真逆の2つが同居しているので、曲全体の方向性をどう捉えるべきか、お二人が何をしたかったのかを聞いてみたんですが、その答えが悪ノリのお返事で……(笑)。なかなか大変でした。 ──オリジナルで、お一人で描くイラストと、お仕事やコラボの時に描くイラストでは、意識の違いはありますか?
おぐち 自分だけのものだと尖りすぎてしまって、「引かれることもあるんだろうな」と思いながら描いているところはあります。でも、相手がいる場合は、キャッチーさと自分が求めたい深みを天秤にかけながら進めていきます。
例えばコラボした相手がキャッチーな人ほど、その分自分はわがままできるかなと思うし、逆に相手がキャッチーじゃなければ、僕がキャッチーにする部分も必要だなと思ったり。バランスを見ていく感じですね。
ナクアミ やっぱり自分だけだと暴れてしまうところはありますよね。だからコラボの時には、まず何かしらのコミュニケーションをとって、基本的には相手の世界観を尊重していきたいと思います。
だからと言って自分のやりたいことが全くできないというのも違っていて。絵を描くことの満足感って、1枚の絵が完成したときの達成感というのももちろんなんだけど、気付かれないかもしれないくらい細かいところでも、ここができたから満足なんだって思えることなんですよ。
ヨシツギ 私は、個人とお仕事の違いはあまり感じていませんね。絵を描く時の流れをざっくりと言うとすれば、題材を「インプット」して、私という「システム」を介して、作品を「アウトプット」する、と言えると思うんですが、個人とお仕事では「インプット」の部分が違うだけだと思うんです。
自分から絵を描くときは、自分の好きなものを感じるまま自由にインプットすることが多いんですが、お仕事の時はそのインプットとなる題材が決められているという違いがあるだけで、そこから膨らませていくのは変わらないんです。だから、作品のつくり方自体には違いは感じていませんね。
──アプローチの方法はみなさん分かれているんですね。
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