「TOHYO CYPHER」はヒップホップだったのか? 新宿アルタ前でラッパーが語ったこと

「TOHYO CYPHER」はヒップホップだったのか? 新宿アルタ前でラッパーが語ったこと
「TOHYO CYPHER」はヒップホップだったのか? 新宿アルタ前でラッパーが語ったこと

般若

6月4日・5日の2日間に渡って、東京都選挙管理委員会が主催するという異例のヒップホップイベント「TOHYO CYPHER」が開催された。

2016年夏に施行される18歳選挙権の周知キャンペーン「TOHYO都」の一環として行われたこのイベントは、開催まで1週間もない直前のタイミングで告知されたにも関わらず、大いに注目を集めた。

開催前、否定的な意見も渦巻いた「TOHYO CYPHER」は、どのようなイベントだったのか? 出演したラッパーたちは何を語ったのか?

新宿・アルタ前を人で埋め尽くした現場で、筆者が目撃したイベント現場をレポートしていく。

撮影:市村岬

発表直後から賛否渦巻いた「TOHYO CYPHER」

初日となる4日の正午すぎ。13時からの開演に向けて、新宿駅東口ステーションスクエアではリハーサルに余念がない。

すでに会場の最前は8割方は人で埋まり、通行人のための通路を挟んだ階段側まで、このイベントを見るために集まった観客たちが詰めかけていた。

開催発表直後から、特にコアなヒップホップ好きの間では、今回の試みを疑問視する声が多かったのは前述の通り。

そもそもアメリカの黒人たちによる「rebel music」(反抗の音楽)として隆盛したヒップホップは、元々の土壌とは全く異なるものの、日本でも、ストリートカルチャーに根差した音楽/ライフスタイルとして花咲いた。

政治に関心の薄い日本では「反体制」ほどの強い意味合いはなかったけれど、それでもヤンチャな文化としてヒップホップは広がっていった。

だからこそ、ヒップホップと行政という、これまでは考えられなかった組み合わせについての異論。そしてそもそも、ヒップホップが仮にも東京都主催の公のイベントに相応しいのかという疑問。日本語ラップが好きな人たちの間では、様々な意見が飛び交った。

そのため、緊張感が漲る現場の雰囲気を予想していたが、実際はそうではなかった。 チラホラとストリートファッションに身を包んだヘッズ(ヒップホップ好きのこと)の姿もあったが、現場は、10代から20代前半頃の若い、普通のヒップホップイベントではあまりお目にかからない雰囲気の客層で溢れかえっていた。

後で確証を得ることになるが、「フリースタイルダンジョン」をはじめとしたバトルブームに興味を持ち始めた人たちが大半で、彼らは純粋にイベントを楽しみに参加している様子だった。

「ウェイヨー!」で開幕したTOHYO CYPHER

UZI

ついに開演となった「TOHYO CYPHER」。

「フリースタイルダンジョン」のMCもつとめるUZIさんが、開口一番、「ウェイヨー」と番組恒例のかけ声で観客に呼びかけると、観客も負けじと歓声を張り上げる。

イベントのMCであるUZIさんと水木ゆうなさんから、まずはイベントの趣旨や内容の説明。わずか2分ほどの間に「ウェイヨー」が4回出てきたところで筆者は数えるのをやめた。さらにフリースタイルまで披露し、UZIさんのリップサービスがライブ前から会場を沸かせる。

輪入道が見せたヒップホップの流儀

輪入道

2日間の記念すべき1発目を飾ったのは、千葉出身の強面ラッパー・輪入道さんのライブ。「B-BOY PARK 2014」での優勝をはじめ多くのバトル大会でその名を轟かせ、般若さんも所属したヒップホップグループ・妄走族の9年ぶりの復活MIX CDに最年少で参加もしている実力派だ。

登場するやいなや、ドープなトラックにドスの利いた野太い声で、ギラギラのフリースタイルを披露した。

ラッパーっていうのはあくまで反権力で反社会だ、ガンジャがなきゃ何もできないようなスモーカーどもが動かしているこれこそがTOHYO都」。

会場からはハンズアップと喝采が止まない。一瞬たりとその姿から目を離すことができなかったが、ステージ脇に控える運営スタッフたちの慌ただしそうな気配を感じたのは決して気のせいではなかったはずだ。 行政主導でこういうことできるっていうのは素晴らしいことだな、ありがとう! 舛添来いよ!!」で締めくくった即興の後、さらに楽曲『覚悟決めたら』で力強いメッセージを贈った。

これが番組だったら完全に放送事故だったろう。しかし現場にはコンプラはかからない。

ところどころで選挙についても言及し、「選挙に行け!! 俺は行かねー」と言い残して、開幕のライブは終了。 運営に冷水をぶっかけるかのようなおよそ3分強にもわたるメッセージ性の高いフリースタイルについて、事前に主催側から禁止ワードなどはなかったのかと聞いたら「NGワード? あー、あったんすかね?」と平然と答え、「フリースタイルなんで、何にも決まってなくて、ああいうライブになりました」と言葉少なに語ってくれた。

みんなが投票した単語でラップをするサイファー

これ以上ない激烈な幕開けから興奮冷めやらぬ中、みんなから投票で集めたワードで即興フリースタイルをかまし合うサイファーがはじまった。

「投票」を身近に感じてもらうために、選挙で実際に使われているという投票箱を使った「TOHYO CYPHER」ならではの試み。そこに思い思いの単語を記入して投票し、当選するとラッパーがその単語で韻を踏んでサイファーしてくれる。 最初のサイファー参加者は、「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」で史上初の2連覇を達成したMCニガリ a.k.a 赤い稲妻さん、ライブに引き続き輪入道さん、初日紅一点のフィメールラッパー・CHARLESさん、「渋谷サイファー」などを主催するACEさん、「B-BOY PARK」優勝経験もあるPONYさんの5人。

左からニガリ、輪入道、CHARLES、ACE、PONY

そしてUZIさんが投票箱から引き当てたのは「就活」「恋愛」「マイケル・ジャクソン」「民主主義」「18歳」の5つ。 それぞれ担当するお題を組み込みながら、みんなで輪唱のようにマイクリレーをするという難易度の高いフリースタイル形式ながら、選挙イベントであることを意識したメッセージや、あえてそこから外す巧みさを見せた。 童貞ラッパーとして知られるニガリさんの「先月彼女にフラれたぜ、だからムカついてベトナムで童貞捨てたぜ!」というラップを受けて、ACEさんは「18越えたら何ができる? AV借りることもできる、男のロマン叶えることもできる!」と続ける。

最後、PONYさんの「やりたいこと届かすために今日も握るマイク!」という流れから、イベントには出演していなかった田我流さんの同名楽曲から全員で「選挙に行こう」コールも飛び出す。

輪入道さんも最後には思わず「ちょっと行こうかなっていう気になりました」と心変わり。

等身大のエールを贈ったDragon One

Dragon One

続くステージは、「フリースタイルダンジョン」で記念すべきトップバッターを飾ったDragon Oneさんのライブ。

『epoch(時代)』を披露し、畳み掛けるライムでスキルを光らせる。

合間のMCでは、「後悔はしないように、自分の道は自分でしっかり選択して、好きな家族仲間女と一緒にこのリアルな現実をサバイブして生きていきましょうって話」と真っ直ぐに観客に語りかけた。 そして、落ち込んでいる人への応援歌として『虹』でライブを締めくくった。

MCバトルの幕開けは輪入道とACEの対決

ライブにサイファー、もう一つの演目はMCバトル

全員やる気満々でステージにあがって抽選を待つ

気鋭ラッパーたちが次々と壇上に上がり、観客も盛り上がる中、抽選で選ばれた対戦者は、親交が深い輪入道さんとACEさんだった。

「フリースタイルダンジョン」でもお馴染み、地元・新宿の看板を背負って立つACEさん。初っ端から「上がってこうメッセージ性も徹底して 俺の勝ちだけは決定している」と堅い韻を放つ。

負けじと輪入道さんが「俺はヨソの街に乗り込んでその街荒らすのが仕事なんだよボケ」と返すと、ACEさんはさらに「俺がブラジルから日本国を荒らしにきた野郎だぜ 違うディメンション、見せてやる輪入道に致命傷」と自分の出自で畳みかける。 しかし、動じる様子のない輪入道さんは「受けてる致命傷 でも全くできてないぜディベート おめーブラジルとか言ってんじゃねーよ育ちが日本だろこのバカ野郎!」と、痛いところを突いたアンサー。

ラップで相手をdisることもあるバトルの性質上、これまで以上に危険なワードも飛び出す熾烈なバトルを繰り広げた2人。 結果、ジャッジとなるお客さんの声援で、力の入ったACEさんを説き伏せる形となった輪入道さんが勝利した。
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