ミステリの裏側に潜むシビアなテーマ
そんなキャラクターたちを取り巻く謎や事件を解決した先に見えるのは、彼らが直面する意外な真実。吹奏楽から離れてしまったとある出来事や、家族が抱える悲しい過去……時には、聡明なハルタでさえも思いがけないようなシビアで社会的なテーマが下地となっていることもあります。
そんな自身の居場所や拠り所をなくした彼らを、豊かな包容力をもって暖かく受け入れるチカたち。謎や事件を解決するたびに、彼らは吹奏楽部の仲間として加わり、ともに普門館に向けて練習を重ねていきます。
(余談ですが、作者によると、このモチーフは江戸時代の文豪・曲亭馬琴さんの伝奇小説『南総里見八犬伝』がもとになっているそうです。)
ミステリ小説の醍醐味である謎や事件を解決するプロセスだけではなく、謎や事件を克服し、チカたちと触れ合うことで垣間見えるキャラクターの心境の変化という部分の描写に重きを置いていることも、青春ミステリたる「ハルチカ」の魅力といえるでしょう。
ハルタとチカと先生の三角関係? から生まれるユニークな関係性
また、「ハルチカ」を語るうえで欠かせないのが、吹奏楽部の顧問である草壁信二郎先生の存在。彼は、学生時代に東京国際音楽コンクールの指揮部門で2位の受賞歴を持ち、国際的な指揮者として将来を期待されていた人物でした。
しかし、海外留学後にそれまでの一切の経歴を捨てて数年間姿をくらまし、今はチカたちの通う高校の音楽教師として吹奏楽部の顧問をつとめているという謎多き人物なのです。
チカはそんな先生に想いを寄せている……のですが、なんとハルタも彼に好意を抱いているという何ともいびつな三角関係が、物語をさらに引き立てるスパイスとなっています。
恋のライバルである2人は決して互いに恋愛感情を抱くことはないのですが、抜け駆けしようとするハルタをチカがどつき回したり、はたまた練習でつまずいて落ち込むチカをハルタがなだめたり……。
幼なじみである彼らならではの気の置けない距離感や、正反対の性格という関係性から生まれるコミカルな掛け合いは、読めば読むほど癖になること間違いなしです。
感情豊かなチカがかわいい!
「ハルチカ」の原作小説は、主にチカの1人称視点で物語が進んでいくのですが、彼女のモノローグがとにかくかわいい!例えば、「退出ゲーム」の冒頭でつづられるチカの自己紹介的モノローグでは、草壁先生への想いからちょっぴり暴走気味な語りになっていたり。わたしの名前は穂村千夏。高校一年生の恋多き乙女だ。ごめんなさい。嘘です。片想いまっしぐらなんです。でもかまってほしいの。かまってガールと呼んでほしい。『退出ゲーム』「退出ゲーム」より抜粋
草壁先生にまつわるとある潜入捜査への同行の許しをもらって喜びを隠しきれなかったり。迷いながらもうなずく岩崎部長を見て、わたしはガッツポーズをとる。ハルタの口から舌打ちが聞こえた。かまうもんか。『初恋ソムリエ』「アスモデウスの視線」より抜粋
謎が解けなくて膨れちゃったり……そんなチカの生き生きとした感情が伝わってくるモノローグとなっています。名越にまで冷たい反応をされて、わたしは膨れる。じわっと涙が滲んで、釣り上げたばかりのハリセンボンみたいになった。『千年ジュリエット』「決闘戯曲」より抜粋
「ハルチカ」には、彼女をはじめ感情豊かなキャラクターがたくさん登場します。アニメでも、そのさまざまな表情が存分に描かれることでしょう。
アニメ制作は『TARI TARI』『SHIROBAKO』のP.A.WORKS
「ハルチカ~ハルタとチカは青春する~」PV第2弾
若者の群像劇を描いた作品を中心に、数々の魅力的なアニメーションを生み出してきたスタジオですが、小説を原作としたアニメ作品を手がけるのは、綾辻行人さんの『Another』、荻原規子さんの『RDG レッドデータガール』、森見登美彦さんの『有頂天家族』に続く4作目となります。
監督の橋本昌和さんや音楽担当の浜口史郎さん、音楽プロデューサーをつとめる吉江輝成さんなど、同じく音楽を題材とした『TARI TARI』にも参加していたスタッフも集結。
吹奏楽をテーマとしつつも小説では表現しきれなかった「音」という側面からも、作品を彩ってくれること間違いないでしょう。果たしてどんなアニメに仕上がるのか、筆者は楽しみで仕方ありません。
多くの読者、スタッフに支えられて、拙作では初の映像化になります。
ミステリを表現する手段として高校生活と吹奏楽を扱っていますので、
物語の進行上、泣く泣く省略した部分は多々あり、
活字で果たせなかったことをアニメに託したいと思います。原作者・初野晴先生コメント(アニメ公式Webサイトより抜粋)
濃ゆいキャラクターが繰り広げる青春群像ミステリ「ハルチカ」
吹奏楽? ミステリ? というと、吹奏楽に情熱を傾ける高校生をリアルに描いた『響け!ユーフォニアム』や、高校で巻き起こる数々の事件を推理によって解決していく『氷菓』といったアニメ作品を想像する人も多いのではないでしょうか。アニメファンの中には、同じく小説原作で人気を博したこれらの作品の二番煎じでは……? と思う方も多いかもしれません。
しかし、さまざまな背景を持つキャラクターの濃さと、そこから生まれる十人十色の群像劇こそ、「ハルチカ」ならではの魅力といえるでしょう。
謎や事件を克服して心を開き、吹奏楽部の仲間として加わり、ともに一丸となって普門館を目指すといった、『南総里見八犬伝』的ストーリーにも注目。
原作小説はもちろん、アニメ放送と同時に『月刊少年エース』にてコミカライズも連載されているので、いち早く「ハルチカ」の魅力あふれる世界観に触れていただきたいです!
※記事初出時、一部解説に誤りがございました。読者の皆様および関係各位にお詫び申し上げるとともに、慎んで訂正いたします。
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作品情報
TVアニメ『ハルチカ〜ハルタとチカは青春する〜』
- 原作
- 初野晴(KADOKAWA 角川文庫刊)
- 監督
- 橋本昌和
- シリーズ構成
- 吉田玲子
- キャラクター原案
- なまにくATK(ニトロプラス)
- キャラクターデザイン
- 西田亜沙子
- アニメーション制作
- P.A.WORKS
- 総作画監督・キャラクターデザイン補佐
- 大東百合恵
- 楽器作画監督・総作画監督補佐
- 杉光登
- 美術監督
- 佐藤歩
- 色彩設計
- 井上佳津枝
- CG ディレクター
- 平田洋平
- 撮影監督
- 並木智
- 編集
- 高橋歩
- 音響監督
- 飯田里樹
- 音響効果
- 中野勝博
- 音響制作
- グロービジョン
- 音楽
- 浜口史郎
- 音楽プロデューサー
- 吉江輝成
- 音楽制作
- ランティス
- 製作
- ハルチカ製作委員会
【キャスト】
穂村千夏:ブリドカット セーラ 恵美
上条春太:斉藤壮馬
草壁信二郎:花江夏樹
成島美代子:千菅春香
マレン・セイ:島﨑信長
芹澤直子:瀬戸麻沙美
檜山界雄:岡本信彦
片桐圭介:山下誠一郎
後藤朱里:山田悠希
朝比奈香恵:小見川千明
朝比奈紗恵:宮島えみ
【主題歌】
オープニング:fhána「虹を編めたら」
エンディング:ChouCho「空想トライアングル」
【放送日時】
TOKYO MX:1月6日から毎週水曜日 25:35~26:05
テレ玉:1月10日から毎週日曜日 24:30~25:00
チバテレ:1月10日から毎週日曜日 24:30~25:00
tvk:1月10日から毎週日曜日 24:30~25:00
静岡放送:1月7日から毎週木曜日 25:41~26:11
北日本放送:1月7日から毎週木曜日 26:29~26:59
岐阜放送:1月11日から毎週月曜日 25:00~25:30
三重テレビ放送:1月12日から毎週火曜日 26:20~26:50
サンテレビ:1月6日から毎週水曜日 26:00~26:30
TVQ九州放送:1月12日から毎週火曜日 27:05~27:35
BS11:1月11日から毎週月曜日 27:00~27:30
テレ朝チャンネル1:1月20日から毎週水曜日 24:30~25:00
dアニメストアにて1月13日(水)12時より先行配信
都合により放送日時は変更になる場合がございます。予めご了承ください。
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