アートゥーン!真田「『ハイカルチャーは難しい』と遠ざけるのはもったいない」
──確かに、美術やクラシック音楽といったジャンルには、「高尚で近寄り難い」と感じてしまう側面は否めません。こうしたハイカルチャーの敷居の高さに、藝大出身のお二人はどのような意識で向き合っていますか?
桶家 僕から言わせれば、クラシック音楽は、当時の「ポップス」そのものです。オペラなんて本当にどポップ中のどポップ(笑)。
「音楽の授業でネタにされがちな<お父さん お父さん>を入り口に、プロの発声技術を紹介した企画です」(桶家)
桶家 現代で言えば米津玄師さんやKing Gnuのライブに行くのと同じ感覚だったのに、歴史が積み重なったことで、「高尚なもの」「マナーを守るべきもの」という、過剰に硬いイメージだけが残ってしまっているんです。
「ドレスコードを気にしてかっちりしたスーツやワンピースを着なきゃいけない」とか「曲を予習して完璧に把握していないと行ってはいけない」なんてことは、本当に全くありません!
だって、よっぽど好きなアーティストのライブでもない限り、全曲知らない状態で行くことのほうが、普通は多いじゃないですか。
クラシックもそれと同じで良いいんです。とりあえず行ってみて、つまらなかったら「つまんなかったな!」で終わって良い。
僕らのYouTubeチャンネルを通して「本当はもっとカジュアルで楽しいものなんだよ」ということを伝えていきたいんです。
真田 美術の文脈で言うと、今、最もポップなビジュアル表現は漫画やアニメーションですよね。皆さんも日常的にたくさんのイラストや動く絵を見ていると思います。
もちろん、それらをそのまま楽しむことも素晴らしいんですが、実はその構図の切り取り方、人物の配置、奥行き感といったすべての前提には、僕たち人類が何百年、何千年と連綿と紡いできた「絵画制作への意識」が積み重なっているんです。
「『芸大/美大で学んだ技術をもとに、こういう表現ができる』ことを伝えて、芸術の『よく分からない』を打破したかった」(真田)
真田 ですので、その前提となったルーツをあわせて楽しむことで、目の前にある今の表現に対する解像度が格段に高まるということは、必ずあると思っています。
例えば、西洋美術を見に行ったとき、前提としてキリスト教の知識が必要だったり、聖書の一場面を知ってないとそもそも分からなかったりして、「これは何のシンボルで……」「いや、知らんし(笑)」って敬遠しがちですよね。
でも、美術の面白さって、そうした「知識としての解釈」と、言葉で言い表せない「芸術的技術に担保された美しさ」が織り交ざっているところにあるんです。そして、その“織り交ざり”は、今の漫画やアニメといったポップカルチャーにも脈々と受け継がれています。
だからこそ、僕はハイカルチャーを学ぶことを「難しいお勉強」として遠ざけるのはもったいないと思います。
そうやって昔ながらの表現と今の表現とのつながりを知ることは、自分の中の鑑賞の深度をさらに高めてくれるものなんです。
日常生活の中の小さな嗜好性や表現への欲望こそ“芸術”
──つまり、アートゥーン!が身近にしたい「芸術」とは、学問的/学術的に扱われるような芸術文化なのでしょうか?
真田 いや、僕らはハイカルチャーやファインアート、クラシックといったものだけを特別視しているわけではありません。もちろん専門的な場所にいたので、ともすればそういう高尚な思考に陥りがちですが、もっと広く捉えています。
例えば、「おしゃれな服を着たい」「良いデザインのものを手に取りたい」「カッコいい家に住みたい」といった、日常生活の中の小さな嗜好性や、表現への欲望こそが僕たちの考える“芸術”です。
ただ、あまりにも自然に日常へ溶け込んでいるから、無意識にスルーしてしまっている。
僕らの動画を通じて、そうした日常のデザインや音の面白さに気づく瞬間を届けられたら、それだけでその人の人生はもっと豊かになるはずです。
桶家 以前、建築科出身の八木が主導した「椅子アキネーター」という動画を公開しました。メンバーが質問を重ねて、その椅子がどのブランドのデザイナーズチェアなのかを当てる企画です。
桶家 あの動画を見た後に、自分の部屋の椅子を探すとします。
それまで「仕事用の事務椅子」くらいしかイメージになかった頭の中に、「デザイナーズチェアという世界があって、その中にも手頃で優れたものから、本当にユニークな形のものまで、豊かな選択肢があるんだ」「この椅子はこういう時代背景から生まれた形なんだ」という知識がインプットされている。
そうなると、なんとなくではなく、「自分の目指す空間には、この背景を持った形が最適」という、選ぶための深い理由が自分の中に生まれます。
その豊かさこそが、芸術が生活に根ざしているメリットだと思います。
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