創作者が直面する絶望──アニメ映画『数分間のエールを』監督ぽぷりか×シンガー菅原圭対談

音楽に乗せれば、思いを叫んでも変だと思われない

──先ほどお話に出た、「誰しもがやる必要はない、ちょっと変わった物事にのめり込んでいる」という表現が印象的です。お二人自身は、創作を行おうと思ったきっかけのようなものはあったのでしょうか?

菅原圭 小学生の時、国語の時間に一行ずつ教科書を読んでいくような授業があったじゃないですか。その時だけはみんなが私に耳を傾けているような気がして、その時間が大好きだったんです。

そこから声優さんだったり、ナレーションをするような仕事がしたいなという夢を持ち始めた気がします。

その後に音楽と出会ったことで、音楽では自分の思い描いている歌詞に乗せて、自分が思っていることを演じていいんだって気づいて。

自分の不安とか怒りを友達に伝えても、おかしいよと茶化されてしまったり、ポエムだと思われてしまうことがある。でも、同じことを音楽に乗せて歌っても誰も変だと思わない。そこから音楽にのめり込むようになりました。

作品を人に見せるのには、勇気が必要になる

菅原圭 でも結局は、色々な人から「君の歌声って変だよ」って言われることが多くて。匿名性のあるインターネットの世界に自分の歌を発信するようになっていきました。

私は普段であれば認めてもらえなかったことを、誰かに信じてほしかった。本当に辛いと思っているとか、本当に今楽しいと思っている、本当に悲しいと思っていることを隠さずに誰かに認めてほしかったのかもしれないですね。その方法が音楽だったのかもしれないです。

ぽぷりか 菅原さんの話はとてもよくわかります。今回の作品もそうなんですけど、僕は作品をつくる時、最初に絶対に詩を書いてるんですよ。

例えばMVでは、アーティストさんから提示された「こういう曲だよ」というのを読み込んで、それを自分なりに解釈して自分の言葉にする。でも、それを最初に詩としてだけ提示してもあんま伝わらない気がするから、映像を制作する。

映像が終わった後に詩を出すと、詩だけを出すよりわかってもらえることが多い気がしていて。

映画『数分間のエールを』本編冒頭映像

ぽぷりか 『数分間のエールを』をつくる時に書いた詩も、せっかくだからと思ってpixivFANBOXで公開したんですけど、読んでくれた方が「その意図がよく分かる映像だった」と声をかけてくれたことがありました。

映像が良かったと言われるのと同じくらい、詩が良かったと言われるのが嬉しいんですよね。

MV制作と歌唱、それぞれの表現で外せないこだわり

──劇中では、MVは他者がつくったものに対して自分の解釈を乗せる、エゴイズムを含むものだと語るシーンがあります。ぽぷりかさんとしてはむしろそうした解釈を伝えたいというところから創作がスタートしているということなんですね。

ぽぷりか そうですね。僕はコンテがすでに書かれている仕事をほとんど受けてないんですよ。出来たらコンテや企画段階からやらせてくださいとずっと言っていて、あくまで自分はですが、技術ではなく思考や企画に価値を感じてもらえたら嬉しい

技術も大切ですが、その時には「君は思ってることを表現する力があるね」と評価してもらえるようになりたいですね。

菅原圭 自分がMVを発注していたときを思い出すと、完全に制作者さんにお任せしていました。曲の温度感とMVの温度感さえ合っていれば、私はオールオッケーな人間なんです。

自分の曲に自分の解釈を持っているけれど、曲を聴いた人が様々な解釈を持つことが気にならない。聴いた人たちの解釈に委ねて、その人たちの人生に寄り添える形に私の曲が変化していくんだと感じていますね。

放たれた作品は、どこかで誰かに影響を与えているのかもしれない

菅原圭 逆に歌唱の依頼を受けた場合は、依頼者が納得するのが第一だと私は思っています。

一旦歌詞を読んでみて、メロディや構成、落ちサビや音程などを考慮しながら解釈はしますが、自分が歌いたいからこう歌うということはあまりしない。

楽曲を外から解釈してつくり上げるMVと、楽曲自体の中に入り込む歌唱は全く違うな、と感じます。私がもし楽曲制作者なら、きっと自分自身の意図を尊重してほしいと思う。そこは絶対寄り添いたいし、依頼者が納得するベストを出したいですね。

ぽぷりか、菅原圭の次回作への展望

──ありがとうございます。それでは、最後にお二人の今後の展望について教えていただけますか?

ぽぷりか 今回は本当にありがたい仕事をさせてもらえたと思っています。映画制作という大規模なプロジェクトに企画から携わらせてもらって。自分が好きなことを描くために、たくさんのお金を動かしてもらった。

とても大事な制作でしたし、すごく楽しかったです。今までMVをつくることが多かったし、誰かの考えに対して上乗せする仕事が多かったんですけど、自分が考えたことを一から表現できるのはすごく楽しかった。

ぽぷりかさんのメッセージが詰め込まれた『数分間のエールを』

ぽぷりか 次が映画制作かは分からないですが、すごく楽しかったし、Hurray!として、またこういうことができたらいいなと思っています。

すぐに別の描きたいテーマが出てくる気もしていないので、媒体は決まっていないですけれど、何かはしたいですね。

菅原圭 今作に参加したことですごく貴重な体験だと思っているのが、自分の楽曲制作とは比べ物にならないくらい多くの制作の方とご一緒できたことです。

お会いする機会はなくても、多くの人の手によってこの作品がつくられている。自分がその一部になれたのは、今まで見えていなかったものが見えるようになった感覚がありました。

自分のことしか考えられなかった過去の自分から、他の人と協力して作品をつくる楽しさを知れたので、この経験を糧に何か新しいものをつくっていけるような人間になりたいと思っています。

©︎HIKE
©︎「数分間のエールを」製作委員会

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ぽぷりか

2011年から映像制作を始め、2016年におはじき、まごつきと映像制作チームHurray!を結成。思春期、青春感のあるモチーフを好み、手描きアニメーションや3DCGを併用したモーショングラフィックを手がける。主な作品はヨルシカ「だから僕は音楽を辞めた」「雨とカプチーノ」MVや、テレビアニメ『可愛いだけじゃない式守さん』エンディング映像、夏代孝明「ニア」MVなど。

菅原圭

中性的かつ感傷的な歌声を持つシンガーソングライター。2019年からYouTubeにて動画配信を開始。2022年1月にSpotifyが2022年に躍進を期待するネクストブレイクアーティスト「RADAR: Early Noise 2022」に選出される。YouTubeの人気企画「MAISONdes」でのTani Yuukiとのコラボレーションや、PEOPLE 1「Ratpark feat. 菅原圭」への参加、声優・花澤香菜へ楽曲提供を行うなど、活動の幅を広げる。2022年12月に1stデジタルアルバム「round trip」を発表。2023年3月に1stデジタルEP「one way」をリリースした。2024年6月14日公開のアニメーション映画『数分間のエールを』の劇中楽曲の歌唱を担当した。

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