「DECO*27はお父さん」mzsrzインタビュー　ボカロPが歌姫へと導く少女たち

DECO*27とつくり上げた初のアルバム『現在地未明』

──そんなDECO*27さんが全楽曲プロデュースを手がけた1stアルバム『現在地未明』がついに発売されました。率直に今の心境を教えてください。

ゆゆん　私は「形に残るものをこの世界に残したい」っていう夢があって、それが今回叶ったので、アルバムに関わってくださった方には感謝しかないです。

よせい　これまでのmzsrzっぽい曲もあれば、新しい一面が見られるような曲もあります。まさに、私たちのコンセプトのひとつでもある“多様声”を感じられるアルバムになっていると思います！

──それぞれアルバムの中でお気に入りの曲はありますか？ よせい　本当に全部好きなんですけど、あえて挙げるとすれば「フィルター」ですね。mzsrzの中では珍しい恋の曲で、聴くだけでキュンキュンできるような曲なので、恋をしたいと思っている人にぜひ聴いていただきたいです。

作山由衣　恋愛の話の流れで言うと……

よせい　流れなんてあった？？！

作山由衣　（笑）。私は「パントマイム」が好きです。お付き合いをする中でお互いすれ違ってしまって、その人のことを考えたくないくらい拒絶反応が出てしまうことがあると思うんです。そんな抗えないもどかしい感情を、「パントマイム」は静かな曲調の中で表現しています。

大原きらり　自分と相手との想いの差に悩む「インベーダー」が好きですね。

私は友達が少ないというか、他の人が100人友達をつくってそれぞれに注ぐ熱量を、1人の子に注いでしまうタイプなんです。でも、その子は私と他の人に平等に接していて、私自身その差に悩むことが多かったので、すごく共感しました。

実果　個人的なお気に入りはアルバムの最後に入っている「Repeat」です。さっきも言いましたが、私は練習やレコーディングなどで急に泣いてしまうことがあるので、「Repeat」の＜泣きながら夢を歌っている＞というフレーズがとても好きですね。 ゆゆん　思い入れが強いのはリード曲の「フェーダー」ですね。デモ音源を初めて聴いた時に、歌い出しの＜待ちに待った未来は ちゃんとあっていますか＞という歌詞で涙が止まらなくなってしまって。

私は上京しているんですが、曲を聴いた当時、「本当にこれでよかったのかな」と迷うこともあったので、「私に歌ってくれているんだ」と歌う側の私自身の気持ちにも寄り添ってくれていると感じました。

──「フェーダー」は新曲ですね。歌うにあたって特に意識したことはありますか？

ゆゆん　2番の歌い出しの＜ここにあってないもの　何かなんてわからない＞というフレーズは、自分の不安定な心を重ねて、あふれんばかりの感情をぶつけました。

──確かに印象的なパートでした。ラストの大原きらりさんのロングトーンも素敵でした。 大原きらり　私は今19歳なんですが、成人とも子どもとも言えないこの年齢が、「フェーダー」で歌われていることにぴったり重なると感じています。

小さい頃「大人ってこういう感じかな」ってイメージしていたものとのギャップで、高校時代は進路を決めるのにすごく悩んだんですけど、当時の思いを全力で込めて歌っています。

──あのパートは最初から大原さんに決まっていたんですか？

大原きらり　全部レコーディングし終わった後に「きらりはフェイク（主旋律を少し変えたメロディ）があります」ってDECO*27さんに言われて。聴いたら歌のキーがバカみたいに高くて、最初は裏声で録ってたんです（笑）。

でも裏声だと自分の気持ちが乗りづらくて、もうちょっと届けたいと思って。DECO*27さんも諦めかけていたんですけど「張り上げる声で試していいですか？」って頼んで歌ってみたら「そういうのが聴きたかったよ」って言ってくださいました。

──「フェーダー」には＜濁っていく＞という歌詞がありますが、大人になっていくにつれて純粋さを失ったり変わったりする狭間を歌った曲なのかなと感じました。

作山由衣　子どもから大人になる時に一番変わることって、自分をコントロールする力かなと思うんです。子どもの時はスーパーで「お菓子買ってよ！」って泣いたり、どこで感情を表現してもよかったけど、大人になって自分の感情を自分勝手に表現することはできなくなる。

その変化に戸惑うこともあったんですが、「フェーダー」のデモ音源を聴いて、「これって自分だけが思ってたことじゃないんだ」と感じて、すごく助けられました。なので、同じように感じている同世代の人にも安心してほしいと、切なさとか淋しさとかもどかしさとか、いろんな葛藤とか不安の感情を込めて歌いました。

キャッチコピーは「多様声・憑依声」それぞれの個性

──mzsrzのみなさんは、それぞれ「多面声」「共存声」「感受声」「共鳴声」「透明声」、5人揃って「多様声」「憑依声」とキャッチコピーが付けられています。ご自身の声についてはどのように捉えていますか？

ゆゆん　私の歌声はよく「カメレオン」って言われるんですけど、自分でも幅広い歌声を出そうと意識して歌っているので、もっといろんな歌声、いろんな表情、いろんな主人公になれるように磨こうって意識しています。でも、歌に囚われすぎてしまう時もあるので、まだまだ難しいですね。

よせい　mzsrzになる前から歌手を目指して活動していて、その時から「透明感のある声だね」と言ってもらえることが多いですね。でもmzsrzになってから、自分の新しい歌声も見つけられたんです。

例えば「パンデモニウム」というかっこよくてちょっと闇っぽいエッジのある曲では、それまでの透明感ではなく、力強さを感じてもらえる歌い方ができたと思います。

作山由衣　私の場合は、以前まで自分の声には個性がないと思っていたんです。他のメンバーはみんな個性が強かったですし。

よせい　さくちゃん（=作山由衣さん）は個性がないって言ってるんですけどそんなことなくて、個性もあるしめちゃくちゃスキルもあって、ブレのない安定感で支えてくれてますよ！

作山由衣　（笑）。でも、みんな個性が強いからこそ、自分はボーカロイドのような一定のトーンで歌ってみようかなって。それも個性としてやったらいいんじゃないかなと思うようになりました。

──最後に、それぞれ今後の目標をお聞かせください。 ゆゆん　表現力が足りないなと思っているので、それをもっと伸ばして、楽曲の中でいろんな表情を見せる、そういう温度差を表現できたらいいなと思っています。

実果　正直、私は1曲全部を自信を持って歌い切ったことがないんですよね。途中で心折れたり、自信が出たりなくなったりのアップダウンが激しいので、まずは自信をもってみんなの隣に立てるように頑張りたいです。

作山由衣　私はライブをして、ファンの方と直接会って歌を届けたいです。

あとは、自分の可能性を信じているからこそまだ未熟だなと感じる部分があるので、いろんなジャンルの音楽に触れて吸収して、いろんな面をお見せしたり、いろんな感情を表現できるよう努力していきたいです。

大原きらり　私もライブがしたい！ 「イナズマロックフェス」とか『紅白歌合戦』に出たいなと思っています。個人の目標としては、自分の持っている高音の強みを、誰にも負けないものにしたいです。

よせい　mzsrzとしてそれぞれ尊敬し合えるグループでいたいですし、ライブもしたいですし、これからも一緒にいろんなことにチャレンジしたいと考えています。

個人としては、楽曲制作にいつか携われるように、ギターとピアノをもっと頑張りたいなと思っています。

──いつかDECO*27さんが作曲して、その編曲に入れたらいいですね。

よせい　変な曲にならないか心配ですけど、携われるように頑張りたいです！