Wabokuが語るインディーアニメの光と影
トークショー終了後、インディーアニメや隆盛するアニメーションMVについて、追加の質問をする機会をいただいた。 主に2000年代中盤以降のボーカロイドブームを背景に急激にその裾野を広げていき、現在、アニメーションMVは数多くのアーティストで採用されるようになっている。特に、若者から支持を集めるアーティストとアニメーションMVの親和性は強く、最早ひとつの文化を形成していると言っていいだろう。こうした状況を、Wabokuさんはどのように見ているのだろうか?Waboku「色々と思うことがあって……まず良いところとしては、僕自身を含めてアニメーションMVの制作だけで生活できる人が出てきたということです。
僕がボーカロイドPであるルワン君の『ハイタ』(2017年)やEve君の『お気に召すまま』(2018年)を手がけた頃は、アニメーションMVの案件自体がほとんどなくて、それで生活をしていくのなんてほぼ無理な状態でした。そこから市場規模が広がっていき、これまでボカロP周りが中心だったアニメーションMVの話が音楽レーベルさんから来るようになり、それ一本でも生活できるようになった。
これまで"アニメーション"というと、アニメーターとしてやっていくならアニメ業界に入って動画マンから始めて……と、そうしないとアニメではなかなか“絵を描いてご飯を食べる”という選択肢がなかった中で、一つの選択肢としての"アニメーションMV"が増えるのはすごく良いことだと思います。そういう意味で、今も自主制作のアニメーション畑という文化は発展していってると思います」 Waboku「一方で、アニメーションMVをめぐる現状には負の側面もあると、ぼんやり思っています。あるネットの書き込みを見て、それが自分の中にスッと入ってきたことでもあるんですが……
現在はコンテンツの消費がものすごく速いサイクルになってきていて、飽きられるのもすごく速いなと思うんです。いま問題になっているファスト映画など、時間を短縮して楽しむ人が増えて、短縮された時間の分、消費の量が増えていきます。そうやって消費された分だけ飽きられてしまう速度も上がり、次のジャンルが出来てはまたすぐに飽きられて……というサイクルがすごく早くなっているように感じます。
それはアニメーションでも同様で、僕がアニメーションMVを始めた頃にはある絵柄でも2〜3年は人気を維持出来ていたのが、今は流行りの絵柄は1年ごとには入れ替わっている。今人気の作家でも1年たったら(流行りから外れて)必要とされなくなってしまう可能性があるわけです。
そうなる前に自身のキャリアを形成できてればいいんですが、そうじゃない人は人気がなくなったらすぐに仕事がなくなってしまいます。結果的に、新しい人が出てきては潰れて……というサイクルを繰り返すだけになると、自主制作アニメーションは作家が長く根付く文化にならないのではないか、という心配がありますね」 消費スピードが上がる現代社会において、作家たちが持続的な制作活動を続けるための文化や体制づくりが求められている。こうした流行り廃りのサイクルが高速化する中で、今回の「BATEN KAITOS」というプロジェクトは、個人として活動を開始したアニメーション作家がスタジオと共に手を組みながら、長期スパンで作品を発表していくという興味深い取り組みとも言える。
Waboku「僕は、自分の絵柄を売りにするのが自主制作だと思っていて、そのままでどこまでいけるかわからないという不安があったんです。僕の線が人気の要因だとしたら、その要素がなくなったら僕のアニメーション自体が必要とされなくなる可能性があります。
であれば、商業アニメーションの方々と一緒にやることで、完全には消さないまでも一度自分らしい絵柄を削除してみて、その上で自分らしいものを確立できたほうがアニメーション作家として安定するんじゃないか、と思ったんです。
今は“個人で、自分の作風で”という流れになっているので、その逆をやってみてもいいんじゃないかな、と。平たく言ってしまえば、線じゃないところ、シナリオや世界観であれば流行り廃りに左右されないで勝負できるのではないかと考えています。
ですから、今は自分の作家性がまず何かを探っている段階でもあるかもしれません。それを探るために、『BATEN KAITOS』を含めて“いつもとは違う線で作品をつくろう”とか“いつもの自分とは違う演出でやってみよう”といったことは意識しながらつくっています。そうやって模索している最中なんです。
今はもう10年続くコンテンツ、あるいは作家って相当息が長いですよね。業界では新しく才能のある人がどんどん出てくるので、ただ現状を維持するだけだと10年も続けることは難しいでしょう。であれば、いつもと違うことをやったほうが10年続く何かを見つけられるんじゃないかな、って感じです」
このように語るWabokuさん。彼が話したことはアニメーション業界に限らず、多くのコンテンツ消費が高速化した"現代"の戦い方として示唆に富んだものであるように感じられた。
【画像】「BATEN KAITOS」に関する展示の数々
それぞれの立場から見るアニメの現在地
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イベント情報
SPAGHETTI presents JUNCTION #002 BATEN KAITOS powered by ZONe
- 開催期間
- 2021年7月22日(木)~8月9日(月)
- 会場
- SPAGHETTI(東京都渋谷区神宮前5丁目3-13 1階)
- 営業時間
- 12:00 – 19:00
- 入場料
- 無料 ※別途物販がございます
関連リンク
Waboku
アニメーション作家
イラストレーションやMV制作で活躍する新進気鋭のアニメーション作家。 彼からしか生まれない独特な世界観と、たしかな演出力で注目される。 エッジの効いた映像でありながら、彼PVは総再生回数1億PVを超え、 人気バラエティ番『マツコ会議』にも出演するなど、若い世代を中心に話題を呼んでいる。
Myuk
ミュージシャン
2001.2.4生まれ。20歳。熊本県出身。シンガーソングライターとして活動していた熊川みゆの音楽プロジェクト。小学生の時に音楽に救われた経験からアコースティックギターで楽曲の制作をスタート。その歌声を見出され、15歳で熊本のサーキットイベント・HAPPY JACKに出演。オリジナル曲を配信リリースし、Spotify、J-WAVEでのフックアップや、18歳でFUJI ROCK FESTIVALなどにも出演を果たす。Eveとの出会いにより、今まで自分だけで作っていた音楽にはなかった新しい表現や、その深さに気づき、シンガーソングライターという枠にとらわれず、その表現の幅を広げるべく、ソロプロジェクトとしてのMyukの活動をスタート。
2021年1月クールのTVアニメ「約束のネバーランド」Season 2エンディング・テーマとして、Eveが楽曲提供をしたシングル「魔法」でメジャーデビューを飾る。また、2021年7月クールのフジテレビ「+Ultra」枠TVアニメ『NIGHT HEAD 2041』のEDテーマにEveによる書き下ろし楽曲「シオン」が決定。関西テレビ「グータンヌーボ2」のエンディングテーマとなる「あふれる」も7月からオンエア中。
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