インディペンデントキュレーターとして活躍する長谷川新さんをゲストキュレーターに迎えた展覧会シリーズで、曽根裕さん、永田康祐さん、黑田菜月さん、荒木悠さん、高橋大輔さんの5名がそれぞれ個展を開催する。
第一弾となるのは曽根裕「石器時代最後の夜」、会期は11月14日(土)まで。
石を重要な素材として活動してきた曽根裕
1965年生まれの曽根裕さんは、ベルギー、中国、メキシコ、日本に活動拠点を持ち、友人や観客を巻き込んだプロジェクト型の作品から、彫刻、絵画、ドローイング、写真、映像、パフォーマンスなど多様なメディアを用いて制作するアーティスト。曽根裕さんにとって東京では9年ぶりの個展となる本展は、3点の新作《The Last Night of the Stone Age》、《Birthday Party 1965-2020》、《Double Log(Washinoyamatuff)》から構成される。
幅広く素材を扱う曽根裕さんだが、その活動の中で石という素材はとても重要な位置を占めている。90年代中頃に大理石と出会って以来、石を使った数々の作品を、多くの石工たちと協力して生み出してきた。
会場となる「gallery αM」毎年4月から約1年にわたって異なるゲストキュレーターによる企画を行っている。
石器時代の最後の夜とは?
はるか昔の石器時代末期に、自然銅を溶かそうと試みた人々がいたという。当時はまだ金属を高温で熱し続ける技術が確立しておらず、銅は不定形のまま凝固する。「つまり、それが石器時代の最後の夜なんだ」
本展で石器時代の最後をそう定義づける曽根さんだが、それは単に、人類の技術が進歩した、その歴史的瞬間に感動したという話で終わらない。
毎日のように石と向き合い、砕いたり削ったりを繰り返す曽根の姿は、ある意味で石器時代をなぞらえた行為にも見える。
これはむしろ、そんな石器時代を生きる曽根さんの、いつか訪れる未来の視点なのかもしれない。
曽根裕《The Last Night of the Stone Age》(スティル)2020年
大理石を素材に最新の環境にも対応しうる水冷式のパソコンが展示される。その画面からは、石を砕き、削り、粉塵に塗れ、互いに異なる言語をぶつけ合って作品を制作する者たち、そして石器時代の時間そのものが映し出される。
四半世紀(左から曽根裕 + 永田康祐)《PC: The Last Night of the Stone Age (Prototype v1)》2020年
曽根裕《Birthday Party 1965-2020》2020年
曽根裕《Double Log (Washinoyama tuff)》2020年
「帰還の技術」が示すものとは
各位が培ってきた技術は、「妥協」のために、つまりは部分的であったり矮小化されて行使されるべきではない。
本展のキュレーターズノートにそう綴った長谷川新さん。妥協を「約束の凝集(Com-Promise)」として、途方もなく前向きに考える。それが妥協ではなく約束の凝集である限り、そこには未来の時間が含まれている。
世に溢れたあらゆる「技術」は「妥協」の道具として用いられるべきではない。人は生まれていずれ死ぬ、アートなんて無意味だ──そんな虚無的な世界観からの帰還を促す、「帰還の技術」であるべきだと説いている。
それを前向きに捉え、むしろ未来へ開かれたキーワードとして「約束の凝集」と名付け提唱した。
石器時代の最後の夜が示す、曽根裕の「帰還の技術」はどんな未来を映すのだろうか。会期は11月14日まで。
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