夏に聴きたい洋楽 -Summer Songs-
他人の目線ばかりを気にしていたら三年生になってしまっていた。佳境に入った文化祭の準備は、他人の目線を気にしないものに変わっていた。
気にしているのは俺だけで、この夏に一人きり取り残されているような気分を味わう。
いや、逆に俺以外がみんな春のままで、自分だけが夏になってしまったと言ってもいい。
工藤さんに好意を寄せているだなんて誰かに相談したら、きっと馬鹿にされるだろう。
「工藤? いやー、ナシでしょ!」
彼女はクラスでも地味な存在だし、おそらく当人はそんなことを気にしてすらいない。
だから、先入観や色眼鏡を削ぎ落として彼女を見ると、これほど魅力的な女の子はいない!ってことに誰一人気付かないのだ。
今、クラスのみんなは一人一人イヤホンを装着して、周りに気を遣わないことの気楽さに気付き始めている。
サッカー部の好き勝手な行動が、好き勝手の魅力をみんなに伝播したってわけだ。
「あっ、この曲、好き」
きっと工藤さんはビリー・アイリッシュを聴いているだろう。
しばらく独り言がなかった彼女から久しぶりに発せられた声が響いた。
彼女の使っているBluetoothデバイスがどれなのか?
スマホで画面を表示して、勝手に想像する。
もう誰も使っていない団扇で臆病風を吹かせながら、自分がこのままでいいのかと自問自答を繰り返す。
俺は回りくどい人間だ。いい加減、ここで変わるべきなんじゃないのか?
模擬店の看板ですっかり隠れてしまったクラスのスローガンを思い出そうとする。
俺は“みんな”で聴く曲しか知らない。
一人きりになった時、自分の意思で聴きたいと思う“個人”の曲を俺は知らない。
家から持ってきたスピーカーが、誰にも使われずに黙り込んでいたってことに全然気付かなかった。
クラスメイトは全員、イヤホンで自分の好きなプレイリストを聴いている。
自分が持たないものをみんな当たり前に持参している。
教室を彷徨う俺の姿は誰の目にもうつっていない。
俺はやはり変わるべきだ。
他人の目線を気にしない音楽を聴くべきだ。
音楽が溢れすぎて静かになってしまった教室で、工藤さんの独り言が俺個人に向けて発信されたメッセージのように残響した。
「このままでいいよ」
匿名ハッコウくん(ID:3405)
応援してます。ノロイ。
匿名ハッコウくん(ID:3394)
最初の「僕」の視点での会話が次の「俺」の視点で絡んでくるのがとても面白かったです。
「俺」くんの回りくどさにとても共感しました。
「僕」くんでいい感じの恋愛を描いてましたが
「俺」くんで切ないような恋愛を描いて1つの物語に2つの恋愛関係があるのがとても面白かったです。作文みたいなコメントでとても申し訳ないです