TikTok:日本で今流行ってる洋楽まとめ
「あれ? スピーカーあるじゃん! これ誰の? 誰の? ダレノガレ?」

サッカー部の連中が文化祭の準備に合流したところで、の存在感は最初からいなかったみたいに透明になる。

「すげー日焼けしてんじゃん!」

そんな風に周りから気にかけてもらえる彼らをうらやみながら、は自分の二の腕の日焼けを眺めていた。

「え? 今年からスピーカー使っていいの? マジで?」

はスピーカーを使っても先生に怒られないという意味で「使っていい」と言ったのだが、彼らは「自分たちがスピーカーを使っていい」のだと解釈したらしかった。

が気を遣って選んでいたプレイリストも彼らの手にかかると元の木阿弥だ。馬鹿みたいな音量で好きな曲を流し続け、女子と一緒に踊っている動画を撮り合ったりしていた

みんなの作業効率が下がってしまう。

そう思っていたの心配とは裏腹にクラス全体の士気が上がっているのを感じ取ってしまった。認めたくないが、やはりサッカー部の奴らがみんなのテンションを引っ張っているのは確かだった。

が先週流していた曲と同じ曲が流れる度、サッカー部というフィルターを通しただけでまるで違う曲に聴こえることをは信じたくなかった

しかし、すでにスポーツ推薦の決まっている優秀選手を複数人抱えているってことがウチのクラスのブランドなのだ。この場合、サッカー部の彼らがTikTokに動画を投稿しながら騒いでいるってことが他のクラスからすればイケてるクラスってことなのだ。

発注していたクラス団扇やクラスTシャツだって、彼らが先陣を切って手にするまではずっと段ボールの中だった。

女子の半数はクラスTシャツにスカートという組み合わせに着替えて作業を再開する。

男子の場合は普通にクラスTシャツを着ればいいのに、ダサい奴に限ってクラスTシャツの上から制服の白いワイシャツを羽織ってボタンを全開にしている。(実はもそうやって着ようと思っていたが、こんな風に客観視出来たおかげで今も制服のままである)

ただ、そういうダサい着こなしをしている男子のほとんどが同じ班の女子に団扇で風を送っている。要するに女子からある種の奴隷みたいな扱いを受けているんだと読み取れるが、女子とコミュニケーションを取れるのならそんなことはお構いなしに決まっている。

自分が実行委員に名乗りをあげなかったら、あそこのグループみたく、女子にとっての人間扇風機になれていたかもしれない。そう思うと、どこか味気なかった。



「もっと、扇げー。気合いが足りんぞ、気合いが」

そう言って、クラスTシャツをまくり上げ衣服の内側に風を送らせようとしている女子の下っ腹とヘソが一瞬だけ見える。

そこでハッとして、工藤さんを見る。

彼女あの陰キャと団扇によるコミュニケーションを取っていたら、の中の空き缶壁画が崩壊してしまう。

ちょうどこのタイミングで再びビリー・アイリッシュが流れる。サッカー部の選んだプレイリストにも同じ曲が入っていたらしい

工藤さんはクラスTシャツに着替えることもなく、むしろスカートの下にジャージを履いて沈黙を守るように淡々と作業に打ち込んでいた。同じ曲なのに、全く違う曲を聴いているようなリアクションだった。

一方で、その正面にいる陰キャは『桐島、部活やめるってよ』の主人公がカメラを覗くみたいに空き缶を覗き込んで固まっていた。

ああいうタイプは何を考えてるかわからん。

俺も団扇で扇いであげようか?

は喉を鳴らすようにそう呟いて、工藤さんに団扇で風を送った。

だけど、そこでの中のスイッチが音を立てて切り替わり、教室内を団扇で扇ぎながら一周して誤魔化した。「みんな暑いでしょ? もう少しでこの準備も佳境です。暑いとこすみませんが、頑張ってくださーい」なんて言いながら、工藤さんだけに送りたい風をみんなに向けて扇いだ。




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プロフィール

ハハノシキュウ

ハハノシキュウ

ラッパー・小説家

青森県弘前市出身のラッパー/小説家。2012年05月、処女作品集『リップクリームを絶対になくさない方法』をリリース。2013年09月、フリースタイルダンジョン初代モンスターDOTAMA とのコラボアルバム『13 月』をリリース。2016年11月、地下アイドルおやすみホログラムの遍歴をエモーショナルにラップした『おはようクロニクルEP』がポニーキャニオンからリリースされ、実質メジャーデビューを達成する。2017年06月、ハハノシキュウ× オガワコウイチ名義で2 枚組アルバム『パーフェクトブルー』をおやすみホログラム所属のgoodnight! Recordsからリリース。さらに、2017年12月には自身のセカンドソロアルバム『ヴェルトシュメルツ』と盟友インプロデュオHUHとの即興コラボアルバム『3年後まで4年かかるタイムマシン』をOOO!SOUNDより2枚同時リリース。そして、2019年04月には念願の小説家デビューを果たし、星海社より『ワールド・イズ・ユアーズ』を刊行する。同年の07月、その小説を買ってくれた人へのサービスを建前に、小説の宣伝ソングという本音を隠して『小説家になろうEP』をデジタルリリース。同時に自主レーベル『猫背レコーズ』を立ち上げ『懐祭り』『顔』『鼠穴』と矢継ぎ早にリリースする。現在、2冊目の小説、Amaterasとのコラボアルバム、自身の3rdアルバムを同時進行で制作中。

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2件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:3405)

応援してます。ノロイ。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:3394)

最初の「僕」の視点での会話が次の「俺」の視点で絡んでくるのがとても面白かったです。
「俺」くんの回りくどさにとても共感しました。
「僕」くんでいい感じの恋愛を描いてましたが
「俺」くんで切ないような恋愛を描いて1つの物語に2つの恋愛関係があるのがとても面白かったです。作文みたいなコメントでとても申し訳ないです

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