ランニング中に聴く洋楽 -Running BGM-
サッカー部が好き勝手してくれることの功罪はみんなに気を遣わせないことだったと気付く。彼らのいない先週までの教室は、空気を読んだ選曲を空気を読んで聴く空間だった。
別にそれは悪いことではない。ただ、心のどこかで「自分の部屋のようにリラックスしたい」と感じていたのは否定出来ない。
だから、サッカー部が自由に選んだ曲を流せば流すほど、各々でイヤホンを取り出し一人きりで自分のプレイリストを聴き始めるという現象が起きたのだ。
誰にも気を遣わずに、個人的に好きな曲を聴きながら作業出来る。しかも、誰にもそれをとやかく言われない。そういう意味ではサッカー部の作った空気感は成功のような気もした。
僕も僕で鞄からイヤホンを取り出して、接続ボタンを押す。
僕にとって音楽を聴くことは“走ること”だ。
しかし、音楽が流れない。
スマホを見ると、別のBluetoothイヤホンもそこに表示されていて、どうやら間違えてそっちを「接続」にしてしまっていたようだった。
「あっ、この曲、好き」
その瞬間、工藤さんがそう言ってこっちを見たのがわかった。
彼女のイヤホンには僕のスマホの音楽が流れてしまっていたのだ。
「あっ、ごめん」と多分工藤さんには聞こえないくらいの声で口にした僕は、どうしていいかわからなくなってとりあえず接続を切ろうとした。
「このままでいいよ」
よく聞こえなかったが、工藤さんの口の動きが「このまま」と言っているのはわかった。
僕を形成する何かが、直列で彼女の耳に流れ込んでいくのはあまりにも不思議な感覚だった。
いつも一人きりで誰とも共有せずに聴いていたはずの世界に彼女が入門してきたからだ。
それから僕と彼女は一言も口を聞かずに、夕焼けが見えなくなるまで会話を続けた。
一歩もこの場から動いていないのに、僕は確実に走り出していた。
匿名ハッコウくん(ID:3405)
応援してます。ノロイ。
匿名ハッコウくん(ID:3394)
最初の「僕」の視点での会話が次の「俺」の視点で絡んでくるのがとても面白かったです。
「俺」くんの回りくどさにとても共感しました。
「僕」くんでいい感じの恋愛を描いてましたが
「俺」くんで切ないような恋愛を描いて1つの物語に2つの恋愛関係があるのがとても面白かったです。作文みたいなコメントでとても申し訳ないです