変化した時代、イデオロギーの中に公安9課を放り込む
──今から25年後の2045年が舞台の『攻殻機動隊 SAC_2045』。作品の構想は、どんな想像力から生まれたのでしょうか?神山 まず、テクノロジーは現実に追いつかれてしまったと思います。前回のときと比べて、つくり手の想像力では追いつかないくらいテクノロジーの進化のスピードが上がってしまった。
だから、未来予測という形でのアプローチを止めようというのはありました。逆に、「今あるテクノロジーがどういうふうに使われていくだろうか」という、むしろ身近な使い方のほうに想像力を働かせている。
あとは『攻殻機動隊』の1つのテーマとして「今の社会を描く」というのがあるので。『攻殻機動隊 S.A.C.』のときと今とでは、イデオロギーもまったく変わっている。その中にあのキャラクターたちを放り込むと今度はどういうことをするだろうか、と。 神山 それもさっき言った音楽、つまりライブのような感覚なんです。ミュージシャンは、お客さんが変わったり、状況が変わったりするなかで、どうセッションすればいいかというのを常に考えていますよね。そういうことをヒントにしています。
映像作品をつくるときに映像を模倣するとあんまり良いことはないんです。音楽や、活字や、違うジャンルのものを模倣したほうがヒントになったり、映像そのものに新しさが見つかることがある。今回、社会というものをどう描こうかというときには、そういうふうに視点を変えているところはありますね。
「現実に越されたくない」「1秒でも早く観てもらいたい」
『攻殻機動隊 SAC_2045』のキーワードは“サスティナブル・ウォー”。つまり、計画的かつ持続可能な戦争という意味の言葉だ。物語は内戦と紛争で廃墟となったアメリカ大陸西海岸から始まる。その背景には、経済災害“全世界同時デフォルト”とAIの爆発的な進化があるという。こうした作品のモチーフはどういうところから生まれたのか。 神山 最初に「サスティナブル・ウォー」という言葉を思いついたのは5年前くらいですね。世界中が戦争状態になった世界をイメージしたんです。
「戦争」っていうと、銃弾が飛び交って、街が破壊されて、人が死んでいくというわかりやすいビジュアルをみんなイメージすると思うんですけど、そうじゃなくても、今の時代って毎日が戦争なんじゃないか、と考えたんですね。
たとえば武器を輸出している国に住んでいる我々は毎日それに加担しているんじゃないか、と。もちろん、それをアニメーションとしてビジュアル化したらいわゆるみんなが知っている戦争の絵面にはなるんだけど、でも、経済こそが戦争の一番の原動力になっているという発想が根本にある。 そこから「サスティナブル」と「ウォー」という、本来はくっつかない2つの言葉をくっつけた。つまり「持続可能な戦争」ということです。
戦争自体がずっと継続している状況をつくったら、公安9課が活躍する舞台が描きやすくなるんじゃないか、と。そういう話を最初に荒牧監督としたときに生まれた造語です。
荒牧 まず言葉が最初にあったんですよね。「サスティナブル・ウォー」って、概念としてすごく面白い。じゃあ、どういう理屈をつければそれを映像化できるんだろう、どういう状態をつくったらそういうことになるんだろうということを考えていきました。 ──すでに視聴している人も多いと思いますが、監督お二方から、改めて『攻殻機動隊 SAC_2045』の見どころを語っていただけますでしょうか?
神山 とにかく「1秒でも早く観てもらいたい」という気持ちが僕らにはあるんですよ。それをどういうふうに受け取ってもらえるか、作品をどういうふうに感じるかっていうのはお客さんのものなのでね。
Netflixで全世界同時で配信してもらえるという良さもあるので、つくり手としてはとにかく観てもらいたいという思いがあります。
荒牧 見どころは散りばめているつもりなので、どこにみんなが反応するのか逆に楽しみですね。僕らとしてはもう5年もやってきているので、いっぱいネタは仕込んでいるつもりなんですけど、いくつかリアルなニュースになっちゃったりもしている。
そうすると不安なわけです。「あ、これもう先を越されちゃってるな」とか思ったりする。一歩手前まで現実が来てる気もする。現実に越されたくないっていう気持ちがすごくあるんです。そういう意味も含めて、とにかく早く観てもらいたいですね。 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
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【作品概要】
Netflixオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』
■MAIN STAFF
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)
監督:神山健治 × 荒牧伸志
シリーズ構成:神山健治
キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:戸田信子 × 陣内一真
サウンドデザイナー:高木 創
OPテーマ:「Fly with me」millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045
EDテーマ:「sustain++;」Mili
音楽制作:フライングドッグ
制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS
製作:攻殻機動隊2045製作委員会
■MAIN CAST
草薙素子:田中敦子/荒巻大輔:阪 脩/バトー:大塚明夫/トグサ:山寺宏一
イシカワ:仲野 裕/サイトー:大川 透/パズ:小野塚貴志/ボーマ:山口太郎/タチコマ:玉川砂記子
江崎プリン:潘めぐみ/スタンダード:津田健次郎/ジョン・スミス:曽世海司/久利須・大友・帝都:喜山茂雄
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millennium
左から佐々木集、常田大希、神戸雄平。東京のプロデューサー/ソングライターである常田大希が主催し、デジタルネイティブなミレニアル世代を中心としたミュージシャン、映像ディレクター、CGクリエイター、デザイナー、イラストレーター等々、様々なセクションを内包した気鋭のクリエイティブ集団。日本の説話に登場する、深夜に徘徊をする鬼や妖怪の群れ、および、彼らの行進を意味する”百鬼夜行”をコンセプトとしており、”世界から見た東京”をテーマに掲げ、混沌としたリアルな 東京の面白さを世界に発信する。2019年5月にプロジェクトのローンチパーティとして行った3D演出を用いたライブのチケットは話題が先行し、即日完売。続く東阪ライブツアーもチケットの入手は激戦となった。活動期間が僅かで、謎の多い集団でありながら、新たな価値観の提唱者として大きな注目が集まっている。
公式サイト:https://millenniumparade.com/
神山健治
アニメーション監督/演出家
1966年3月20日、埼玉生まれ。85年にスタジオ風雅へ入社後、美術・背景スタッフとしてキャリアをスタート。『人狼 JIN-ROH』(演出 / 2000年)、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(脚本 / 2000年)等を経て、『ミニパト』(2002年)にて初監督。その後、TVアニメ『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズ(2002年〜2005年)で監督およびシリーズ構成を務め、大ヒットを記録する。2018年からは荒牧伸志と共同監督でフル3DCGアニメに携わり、2019年の『ULTRAMAN』は同年Netflixで最も視聴されたアニメ作品となる。現在、『攻殻機動隊 SAC_2045』がNetflixにて全世界配信中。
代表作:『攻殻機動隊 S.A.C.』『精霊の守り人』『東のエデン』『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』
荒牧伸志
アニメーション監督/演出家
1960年10月2日、福岡生まれ。多くのCG作品を手掛け、日本におけるフル3DCGアニメーションの第一人者。メカニックデザインを中心に活躍していたが、2004年に監督を務めた『APPLESEED』は世界中のクリエイターに大きな影響を与えた。2018年からは神山健治と共同監督でフル3DCGアニメに携わり、2019年の『ULTRAMAN』は同年Netflixで最も視聴されたアニメ作品となる。現在、『攻殻機動隊 SAC_2045』がNetflixにて全世界配信中。
代表作:『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』『アップルシード アルファ』『キャプテンハーロック』『APPLESEED』
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