2018年に連続ドラマとして放送され大反響だった『おっさんずラブ』の映画化ということで、公開前からすでに話題になっている。
2018年新語・流行語大賞トップ10入り、Twitterトレンドワード世界1位獲得など、時代を席巻してから1年、本作ではドラマ最終話で晴れて両想いになった春田創一(田中圭)と牧凌太(林遣都)のその後が描かれた。
変わりゆく日常のなかで仕事と愛に揺れる姿は、誰しも自分と重ねてしまうところがあるのではないだろうか。
脚本は徳尾浩司さん、監督は瑠東東一郎さんがつとめるなど、連続ドラマからの名コンビが続投。作品に対するスタンスは変えずとも“映画だからできること”を追求し、『おっさんずラブ』をさらに次のステージへと押し上げる。
本インタビューでは、ドラマ『おっさんずラブ』のヒットを背景にもつ映画制作陣の作品へかける想い、おっさん同士の恋愛で見えてきた純愛の本質などについて訊いてきた。
取材・文:坂井彩花 撮影・編集:吉谷篤樹
春田も牧も特別ではないから
──ドラマ『おっさんずラブ』の反響が大きかっただけに、やはり劇場版を制作するうえでプレッシャーはすごかったんじゃないですか?徳尾 そもそもドラマがすごく期待されて始まったものではなかったので、映画化もプレッシャーより嬉しさの方が強かったです。チャンスをくれて「ありがとうございます」って。
──映画化をするうえで意識したのは、どのようなことだったのでしょうか?
徳尾 エンターテインメントとしてのスケール感ですかね。「映画を観に行った」っていう満足感をお客さんに感じて欲しかったので。 あとは、『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』をちゃんとした作品にするということ。スピンオフ的な話だったらいくらでもつくれるけど、「あのプロポーズはなかったことにして…」的なことは絶対にやりたくなかった。
僕たちは完璧に終わらせるという意気込みで連続ドラマに向かい合っていたから。
だから、物語の続きを描くことにしたんです。
瑠東 あの大恋愛からリアルに1年経っているからこそ、作品に落とし込めることがあるよねって。
1年も付き合っていれば愛情は深まるだろうし、深まったことで発生する問題だって出てくるじゃないですか。
徳尾 春田や牧のような20代・30代って、ちょうど仕事的にも忙しい時期。成し遂げたい仕事もあるけど、好きな人のことも大事にしたい。
そんな葛藤を重ねる彼らを、等身大に丁寧に描く価値はあるんじゃないかなって思ったんです。
戦い方を変えずにスクリーンへ
──アクションや倉庫の爆破など、派手な演出も多い今作ですが、そういったシーンを形にするうえで気をつけたのはどのようなことでしょうか?徳尾 シリアスとコメディーのバランスです。
派手なシーンは言ってしまえば遊びの部分でもあるから、話の中身がしっかりしてないといけないとは思っていました。僕と瑠東監督はわちゃわちゃしたことを考えがちなので、そこをプロデューサー陣がバランスをとってくれました。
でも、"愛が積み重なって溢れた結果が爆発"みたいな譲れない部分もあったから、どうやって打ち合わせを乗り越えようか考えたり。「これは、メタファーなんです」とか言って説得を試みました(笑)。
瑠東 不動産屋の話なのに、なんで爆発やねんってツッコんで欲しくて。すごくおっさんずラブっぽい世界観ですよね(笑)。彼らの感情を演出によって広げていくのは楽しかったですよ。 最初に脚本を読んだとき、めっちゃおもろいなって思ったし。それを映画として壮大なものにできることには、わくわくしました。
──瑠東監督はアナログ技法にこだわりが強いですよね。今回の演出も、そのこだわりが活かされているのでしょうか?
瑠東 そうですね。舞台がテレビからスクリーンに移ったからといって、戦い方は変えちゃいけない。
ウソの無い感情をアナログでザラザラとした質感で撮るのが『おっさんずラブ』だと僕は思っていて。となれば、これだけ全員の感情が爆発した中、爆破のシーンをCGだけで済ましてしまうのは、この作品としては違う様な気がしてまして。
何でここでこんな大爆破をリアルでやってんねん!っていう、それも壮大なボケになるべきだと思って全力でやらせて頂きました。
ただ、テストで爆発させた時は想像以上の迫力にその場にいた人がざわついていました。しかも本番はその4倍くらいでしたから(笑)
信頼関係が生み出す絶妙なバランス
──新しく加わったメンバーの配役も完璧でしたよね。沢村一樹さん(狸穴迅)と志尊淳さん(山田正義)は、本当にハマり役だったな…と。徳尾 今回はストーリーが先にあって、それに合う方をキャスティングしていただきました。決定してから本人たちに合わせて書き換えもしたりしたんですけど、本当にぴったりでしたよね。 瑠東 この人がこうしたら面白くなるっていう構図を作るのが、徳尾さんは上手いんですよ。本人に寄せているのに、脚本として面白くできる。
だから僕らのアイディアも乗りやすいんですよね。土俵がしっかりしているからこそ、演出の幅を広げやすいというか。 ──徳尾さんが瑠東監督の演出で印象的なシーンをひとつあげるならどこですか?
徳尾 会議室で部長と狸穴が対峙するシーンですね。 シーン自体はすごくシリアスなんですけど、瑠東監督が脚本の打ち合わせの時に「もう少し笑えるセリフでもいいんじゃないか」って何度も言うんです。脚本の一部分に対してあまり言わないタイプの監督だから、「ここだけ妙にこだわるな…」って(笑)
でも書き加えてみて、できあがったのを見たら「確かに!」ってなりました。狸穴の「プリーズ、ハリーアップ!」に対して、部長が「イエス、アイドゥ!」と返すところ。 想像以上の迫力で、「さすが瑠東さん!」と思いました。
“好き”という感情の基本を見つめて
──『おっさんずラブ』って、すごく純度の高い恋愛作品だと思います。どこか性別に依存しない愛を感じるというか。人を好きになるという感情をフラットに描くうえで、心がけたことってありますか?瑠東 よりシンプルにすることですかね。男同士だからということをいい意味で意識しすぎず、単純に深い愛情を描こうと。そうすると、それが恋人であろうが家族であろうが、友人であろうが変わらない"人間愛"にたどり着いた気がします。
徳尾 "相手が好き"という基本的なことをじっくり詰めるようにしました。 「愛って、ただ相手のことを大切に想いたいんだ」とか。普遍的な恋愛を浮かびあがらせるイメージですね。
たまたま恋に落ちたのが、おっさん同士だっただけ。性差を取り払ったときに何が残るんだっていうのは、『おっさんずラブ』のポイントかもしれないです。
瑠東 ピュアな部分を大事にしたよね。
徳尾 そうそう!ピュアなことを、おっさんが全力でやるからちょっと面白いっていう(笑)。
──では最後に、おふたりにとって「純愛」ってなんでしょう?
徳尾 人として生きていくなかで、ある種の理想ですよね。それでいて手に入りにくいものだから、描く意味があるもの。
瑠東 僕は自分を犠牲にしてでも、それ以上に相手の事を想えるかって事ですかね。なかなか出来る事では無いですけど。無償の愛こそ最強にピュアな愛じゃないですか。 おっさんたちの恋愛模様をもっとみる
究極の愛、劇場で。
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作品情報
劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~
- 監督
- 瑠東東一郎
- 脚本
- 徳尾浩司
- 音楽
- 河野伸
- 主題歌
- スキマスイッチ「Revival」(AUGUSTA RECORDS/UNIVERSAL MUSIC LLC)
- 出演者
- 田中圭 林遣都 内田理央 金子大地 伊藤修子 児嶋一哉
- 沢村一樹 志尊淳 ・ 眞島秀和 大塚寧々 吉田鋼太郎
- 公開時期
- 2019年8月23日(金)
- 製作
- テレビ朝日ほか
- 配給
- 東宝
- 配給協力
- アスミック・エース
【ストーリー】
永遠の愛を誓ったあの日から1年が過ぎ、上海・香港転勤を経て帰国した春田創一。
久しぶりに戻ってきた天空不動産第二営業所では、黒澤武蔵をはじめ、お馴染みのメンバーが顔を揃え、最近配属された陽気な新入社員・山田ジャスティス(志尊淳)も加わり春田を歓迎する。
そんな彼らの前に、天空不動産本社のプロジェクトチーム「Genius7」が突如として現れ、リーダーの狸穴迅(沢村一樹)は、本社で新たに、アジアを巻き込む一大プロジェクトが発足し、第二営業所にもその一翼を担うよう通告する。その隣には、本社に異動しチームの一員となった牧凌太の姿も…。
何も知らされておらず動揺する春田だが、本社と営業所の確執が深まるほどに、牧との心の距離も開いてゆく。
一方、コンビを組むことになったジャスティスは兄のように春田を慕い、さらには黒澤もある事故がきっかけで突然“記憶喪失”に…!
しかも忘れたのは春田の存在のみ。…え、どゆこと?そんな記憶喪失あんの!?
混乱する春田をよそに、黒澤は“生まれて初めて”春田と出会い、その胸に電流のような恋心を走らせてしまい…。
そんな中、天空不動産を揺るがす前代未聞の大事件が発生!それに巻き込まれた春田にも最大の危機が迫る。
果たして、春田の運命は…!?笑って泣けるこの夏最高のエンタテインメント!
おっさんたちの愛の頂上決戦<ラブ・バトルロワイアル>が、ついに幕を開ける。
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