和田 すっごく前からではないんですけど、「四天王」が出始めたあたり(2017年12月頃)から、気になっていました。
──VTuberに度々言及されているなかでも、特にいわゆる「バ美肉」に衝撃を受けたように見えたのですが。
和田 「バ美肉」もいろいろ見ていたんですが、りむとまきちゃん、っていう2人組が「バ美肉布教動画」という動画で、Live 2D(※2)で動けるようになるまでを3時間ぐらいで配信している動画を見て、すごいぞと。
一般人が「受肉」できる環境がもうできているんだ! ということに衝撃を受けました。
──その時、自分もできそうかもと思いましたか?
和田 難しそうだな、とは思ってたんですけど……。ここまで細かく指南していただいたらもうやるしかないなと(笑)。
それで5月に"なりたく"なってから、Live 2Dの試用期間で受肉を果たしたので、その前に下絵を描く期間が結構あったんですけど、準備には1カ月もかかってないと思います。
──初めて受肉した時、どうでした?
和田 最初は眼鏡かけてなくて、髪の色とかも違ったんですけど、自分の声で発言を乗せるにあたってそれが全然乗らなくて(笑)。
けっきょくこねこねしてたらそれができたんですけど、試行錯誤を重ねた末の完成だったので、そんなに「できたぞ!」という感じではなかったですね。 ──そこから外見もアップデートしていったわけですね。
和田 最初はロリになりたくて(笑)。金髪で、漫画『日常』のハカセをリスペクトした下絵を描いて、その後に目の形を調整する期間が割とあって。最初ジト目ができるモデルから、目を閉じた時にジト目ではなく笑顔になるようにしたんです。
でも自分で声を出してみたとき、私が成り代われる、手の届く範囲からちょっと外れてるな、と思って。髪色を変えて眼鏡をかけたらしっくり来ました。
──声もはじめから変えようと思っていました?
和田 思っていました。私のアカウントで発言しているわけで、私がやっているんですけど、別人に見られたくて。見た目と声も変えたいなと思って変えました。
──で、8月12日にPeriscopeで初配信をなされてますよね。僕もちょうどあの配信を見てて、放送中にプロデューサのサクライさんからお電話かかってきちゃったりして、いろいろ含めてとんでもないものを目撃したな、と思いました。
和田 あれは"事故"ですね(笑)。アーカイブも残してないので、伝説回になってしまいました。 ──声が変わったり姿が変わったりするけれど、画面上には自身の顔に追従する姿があるっていうことは強烈な違和だと思うんですが、その違和感を面白がること自体がメディアアートとして成立しているのに驚きました。たとえば、動画が増えていくたびに和田さんの喋り方が変わっていて、「えへへ〜」とか「いいでしょ〜」とか、おっしゃるじゃないですか。
和田 恥ずかしい……(笑)。
──こういうワードは、「ブクガの和田さん」からはあんまり出てこないワードだったと思うんですけど、こういうのも自然に出てくるんですか?
和田 もう、なんか脳が混乱してくるんです(笑)。"なって"くるんですよね。その、別人格と言うか、その娘に"なる"んですよ。自分と離れて。
──つい先日の動画(外部リンク)でも「バーチャルワダリンは和田輪を離れて、進化していくと思います」って仰ってましたね。
和田 もともと分けるつもりでしたし、実際に離れていると思います。……それの最たる例がまぐろなちゃん(※3)だと思うんですけど──まぐろなちゃんはボイスチェンジャーで声のキーが上がっているのにもかかわらず、それが自身の声であるかのように歌えるんですよ。
それがめちゃめちゃ凄いなと思っています。極めるとああなるんだなって。
──いずれ自身もバーチャルで歌ってみたいですか?
和田 普通に歌ってボイスチェンジャーかけてみたこともあるんですけど、やっぱりうまくいかずケロケロしちゃったので。そこもいずれ、という感じですね。
アイドルよりも先にこの文化に触れていたら、アイドルになってなかったかもしれない
──和田さんは、立体造形・アイドル・VTuber、いろんな"媒体"によって表現をなされてきた経験のある稀有な人物だと思うのですが、それぞれのアプローチに対する思いなどを聞かせてください。和田 彫刻科にいたときは、「作品が私達と同じ次元に"実在"することが大事だ」と思っていて──触れられたりとか、同じ空気の中にいたりとか──実在するという実感を持って初めてそれが"ある"と言えると思っていたので、絵でもなくデザインでもなく彫刻科に行ったんです。
だけど、やっぱり素材には限界があって。
柔らかい肉の中に骨を入れて血管を通して、みたいなことはかなりの技術があればできるんでしょうけどそれは私には難しかった。ここが限界なのかな、って感じたりしました。でも、実在があるのは、それだけで強みだと思います。
──ではVTuberの強みって、どこにあると思いますか?
和田 VTuberみたいな人たちって、私みたいな"個人勢"の方もいっぱいいますけど、"企業勢"の方とかだと技術に特化した人がいて、キャラクターデザインに特化した方がいて……。
声をきれいに出すこととか、いろんな技術のトップの人が集まってつくり上げた最高の状態だと思ってて──自分自身だと生まれ持ったものというのが足かせとなるので──自分の手から生み出せる範囲でならいくらでも好きなものがつくり出せるという意味で、バーチャルというのはむしろリアルの上位互換のように捉えています。
──上位互換というのは?
和田 アイドルという媒体よりも、バーチャルアイドルのほうが、自分のやりたいことが全部やり尽くせる場所なんじゃないかなと。
──それはかなり、衝撃的な発言にも聞こえますね。
和田 もしかしたらアイドルよりも先にこの文化に触れていたら、私、アイドルになってなかったかもしれないです。
──自身のコンディションを気にせずに、一番いい状態を見せることができますよね。
和田 たとえば、アイドルはトイレ行っちゃいけないけど、VTuberのキャラクターデザインの人は、結婚して妻子持ちでもOK、みたいな。
見せたくない裏側があったとしても、つくる側の意図するところだけをそのキャラクターの要素として伝えられるところが強みだと感じています。
──なるほど!
和田 別に私が悪いことやるつもりもないし、アイドルもやってるからそれはそうなんですけど(笑)。
アイドルには、私が彫刻でやりたかったのの向こう側であり、"実在"というのがすごく強くあるし、バーチャルでは自分のやりたい表現っていうのをなんの際限なくできるっていう利点がある。それぞれいいところだと思います。
──突然なんですけれど、夢眠ねむさんお好きですよね?
和田 好きです!
──夢眠ねむさんもボーカロイド『夢眠ネム』が発売されて、「あるいは夢眠ねむという概念へのサクシード」(※4)である意味"自分自身"共演されてましたね。
和田 MOSAIC.WAVの10周年ライブで、夢眠ねむさんと夢眠ネムさんが2人であの歌を歌ってたんですけど、ほんっとうにすごくて………!!(尊くて無言になる和田さん)
和田 すみません、言葉を失ってしまいました……。
──大丈夫です(笑)。夢眠ねむさんは自身について、「夢眠ねむの中の人」と言っていて、更に将来は「夢眠ねむを襲名させたい」っていうことを仰っているじゃないですか。これって、自身との距離感があるから出てくる言葉だと思うんですけど、和田さん自身も、こういった距離を実感として持っていますか?
和田 そもそもアイドルになろうと思ったきっかけというか、一番始めに魅力的だと思ったのが夢眠ねむさんで。
だから、そのスタンスをすごくリスペクトしていて、私のなりたいアイドルっていうのが、そもそも客観的な形だったんだと思います。
──和田さん自身にも、どこか客観的な部分がおありなんですね。
和田 主観だけだと、世界に溶け込めてこなかったので。普通の人たちと馴染むのもすごく下手で、友達もすごく少ないんですけど……。
周りに馴染もう馴染もうとするのではなくて、そんな「多分普通と変わっている自分」っていうのを、見世物にすることですごく生きるのが楽になったんですよ。自分自身ではなく、自分が手がけたものに関しては自信が持てるというか、そういうことがあります。
できるだけ第三者者目線で「この発言はどうなんだ?」みたいなのを考えるようにしてて、アイドルというお仕事に就くにあたって、そうなっていったんですかね。 ──アイドルにせよ、VTuberにせよ、一見、「目立ちたがり屋がやる活動」に見えちゃうことがあると思うんですけど、でも自分の思っていることをうまく伝えられない人にとって、道が開ける手段になったりもしますよね。
和田 そういう手段として広がってほしいです。りむとまきさんの受肉動画の話なんですけど、「受肉したからと言ってYouTuberにならなくても良い」とおっしゃってて。"バ美肉一般人"という形もアリだと思うんですよ。……わかります?
──わかります。バ美肉一般人っていうワードの強さに笑ってしまいました。
和田 なので、Twitterのアカウントを1人1個持つように、バーチャルアバターを1人1個持つ時代が来るんじゃないかなって。
──バーチャル美男子YouTuberおばさんとか。
和田 絶対、絶対出てくると思うんですよ! ボイスチェンジャーがすごくて、男性の声出せるので、絶対出てくると思います(笑)。
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関連リンク
和田
Maison book girl
矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミ、による4人組グループMaison book girl(通称ブクガ)のメンバー。身長148cm、北海道出身。
同グループは音楽家サクライケンタが楽曲から世界観構築まで全面プロデュースを行い、独自の音楽性やブランディングが施された世界 観が話題を呼び、2016年11月メジャーデビュー。2017年4月5日には待望のメジャー1stアルバム「image」を発売。2018 年 5月17日~5月19日にイギリス・ブライトンで行われる国際音楽フェス『THE GREAT ESCAPE FESTIVAL2018』に日本代 表として出演。来る11月21日には待望となるメジャー2ndアルバム「yume」を発売、アルバムを引っさげて11月25日には 日本橋三井ホールにて「Solitude HOTEL 6F」の開催が決定。
白石倖介
ライター/ラッパー
コンピュータ専門誌の編集者を経て、フリーライターとして活動中。Mac歴23年、iOSにも詳しい。写真も撮る。毎週土曜、秋葉原のはずれで早口で喋っている。主にTwitterにいます。
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